8.白霧が護る魔女の館
昼間の館は静かだった。
窓の外では木々が風にそよぎ、小鳥のさえずりだけが森に響いている。
そんな穏やかな空気が不意に張りつめた。
実験室の隅で揺れていた黒い三角帽子が、ぴたりと動きを止めた。
「ぎぎ……」
(ヒイロ。森の外れに人間がいる)
ヒイロは薬草を仕分ける手を止める。
「数は」
「ぎ」
(三、四人だ)
その言葉を聞いた瞬間、ライの耳がぴんと立つ。
顔から血の気が引いた。
「……ハンター。ボクを追って――」
顔色がさっと青ざめる。
「静かにしなさい」
ヒイロの一言でライは口を閉ざした。
彼女は窓の外へ視線を向ける。桜色の長い髪が微かな緊張を孕んで肩から滑り落ちた。
「まだ結界には入っていないわね」
間を置かず廊下の奥へ声を掛ける。
「ヴァン」
返事はない。
だが、実験室の床に落ちた影がまるで生き物のようにゆっくりと揺れた。
そこから染み出すようにして、漆黒の長髪をなびかせたヴァンが静かに姿を現す。
昼間のせいか顔色は悪いが、その黄金の瞳は静かにヒイロだけを映していた。
「……呼んだか」
「森に人が入ったわ」
ヴァンは窓の外を一瞥する。そのクールな表情にわずかな不快の色が浮かぶ。
「追い返せばいいのか?」
「ええ」
ヒイロは頷いた。
「バッドが結界を撹乱するわ。その隙に霧を出してちょうだい」
「分かった」
それだけ言うとヴァンは踵を返す。黒いマントが美しい軌跡を描いて翻った。
バッドも帽子を跳ねさせた。
「ぎぎ」
(仕方ねぇなぁ。行ってくる)
二人が部屋を出ると、ライは不安そうに窓を見つめた。獣の鋭い感性が遠くの気配を察知して震えている。
「大丈夫なの……?」
ヒイロは薬草を仕分ける手を再び動かす。その指先には一片の迷いもない。
「問題ないわ。この館の結界は人間が簡単に破れるような代物じゃない。それに……」
一拍置く。
ヒイロは窓の外の鬱蒼とした緑を見つめた。
「ヴァンは森の中で戦う方が得意よ」
ライは黙って頷く。
その言葉を証明するかのように、窓の外では木々の間を白い霧がゆっくりと広がり始めていた。
窓の外では木々が風にそよぎ、小鳥のさえずりだけが森に響いている。
そんな穏やかな空気が不意に張りつめた。
実験室の隅で揺れていた黒い三角帽子が、ぴたりと動きを止めた。
「ぎぎ……」
(ヒイロ。森の外れに人間がいる)
ヒイロは薬草を仕分ける手を止める。
「数は」
「ぎ」
(三、四人だ)
その言葉を聞いた瞬間、ライの耳がぴんと立つ。
顔から血の気が引いた。
「……ハンター。ボクを追って――」
顔色がさっと青ざめる。
「静かにしなさい」
ヒイロの一言でライは口を閉ざした。
彼女は窓の外へ視線を向ける。桜色の長い髪が微かな緊張を孕んで肩から滑り落ちた。
「まだ結界には入っていないわね」
間を置かず廊下の奥へ声を掛ける。
「ヴァン」
返事はない。
だが、実験室の床に落ちた影がまるで生き物のようにゆっくりと揺れた。
そこから染み出すようにして、漆黒の長髪をなびかせたヴァンが静かに姿を現す。
昼間のせいか顔色は悪いが、その黄金の瞳は静かにヒイロだけを映していた。
「……呼んだか」
「森に人が入ったわ」
ヴァンは窓の外を一瞥する。そのクールな表情にわずかな不快の色が浮かぶ。
「追い返せばいいのか?」
「ええ」
ヒイロは頷いた。
「バッドが結界を撹乱するわ。その隙に霧を出してちょうだい」
「分かった」
それだけ言うとヴァンは踵を返す。黒いマントが美しい軌跡を描いて翻った。
バッドも帽子を跳ねさせた。
「ぎぎ」
(仕方ねぇなぁ。行ってくる)
二人が部屋を出ると、ライは不安そうに窓を見つめた。獣の鋭い感性が遠くの気配を察知して震えている。
「大丈夫なの……?」
ヒイロは薬草を仕分ける手を再び動かす。その指先には一片の迷いもない。
「問題ないわ。この館の結界は人間が簡単に破れるような代物じゃない。それに……」
一拍置く。
ヒイロは窓の外の鬱蒼とした緑を見つめた。
「ヴァンは森の中で戦う方が得意よ」
ライは黙って頷く。
その言葉を証明するかのように、窓の外では木々の間を白い霧がゆっくりと広がり始めていた。
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