7.硝子瓶と迷い仔の朝

――館の朝

朝の光が森を抜け、館の窓をやわらかく照らしていた。
居間のテーブルには黒パンと豆のスープ、ハーブを散らしたチーズ、湯気を立てるハーブティーが並んでいる。
ヒイロは本を片手に静かに食事を進めていた。
テーブルの端では、三角帽子姿のバッドがゆらゆらと揺れている。

そこへライが欠伸を噛み殺しながら現れた。
若草色の髪は寝癖で跳ね、獣耳も力なく垂れている。

「……眠い」

「ぎぎ」
(朝からひどい顔だな)

「寝起きなんだから仕方ないだろ」

ライはむっとしながら椅子へ腰を下ろした。

ヒイロはカップを置く。

「朝食が終わったら実験室へ来なさい」

「えぇ……」

「薬草の選別が残ってるわ」

「昨日もやったじゃん」

「昨日採った薬草と今日採った薬草は別物よ。乾燥具合も香りも違う。混ぜれば薬効が落ちるのよ」

ライは口をへの字に曲げる。

「……そういうもの?」

「そういうものなの」

ヒイロは短く答え、また食事に戻った。

ライは諦めたようにパンをちぎる。
ふと窓の外へ目を向けた。

「ねぇ、森の向こうって町なんだよね」

「ええ」

「一回くらい行ってみたいな」

ヒイロは首を横に振る。

「やめておきなさい。耳と尻尾は隠せないでしょう。珍しいものは人目を引くし、人目は噂を呼ぶ。噂は面倒事を連れてくるものよ」

ライは自分の耳に触れ、小さく息をついた。

「……やっぱり駄目か」

「ぎぎ」
(檻に入りたいなら止めねぇけどな)

「入りたくない!」

ライは慌てて否定し、スープを飲み干す。
ヒイロは立ち上がり、椅子に掛けていたマントを羽織った。

「食べ終わったなら来なさい。今日は薬草、そのあと倉庫の整理よ」

「休憩は?」

「働き次第ね」

「うわ、厳しい……」

文句を言いながらも、ライは皿を持って立ち上がる。
その後ろ姿を見送りながら、バッドは帽子を小さく揺らした。

「ぎぎぎ」
(なんだかんだ、ちゃんと働くようになったじゃねぇか)

ライは振り返らず、小さく手を振るだけだった。

「約束したからね」
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