6.夜明け前の共鳴

――実験室にて

重い扉が軋みを上げ、石造りの実験室へ冷たい空気が流れ込む。
棚には薬草や鉱石、無数の薬瓶が整然と並び、炉では青い炎が静かに揺れていた。

「そこへ寝かせて」

ヒイロが実験台を顎で示す。
バッドは無言で狼の体を持ち上げると、石造りの台へ横たえた。

灰褐色の毛並みは血に濡れ、呼吸は今にも途絶えそうなほど浅い。

「随分と派手にやられてるな」

バッドが傷口を眺める。

「放っておけば、あと数分ってところか」

ヒイロは彼の言葉に背を向けたまま、棚からいくつかの薬瓶を躊躇いなく抜き取った。
乾燥した薬草を乳鉢へ放り込み、流れるような動作で粉砕していく。琥珀色の液体を数滴垂らし、手際よく混ぜ合わせるその一連の動きには、一流薬師としての洗練された美しさと、一切の迷いがなかった。

「助かるのか?」

「さあ……どうかしら」

淡々と答える。

「試してみなければ分からないわね」

出来上がった薬を深い傷口へと惜しみなく流し込み、白皙の指先をその身体にかざした。刹那、彼女の指先から溢れ出た魔力が、淡い桜色の光となって傷口を這う。狼の身体が苦痛に大きく震え、喉の奥から低く、獣の唸りが漏れた。

「暴れるようなら押さえて」

「了解」

バッドが肩を押さえる。
しばらくすると、乱れていた呼吸が少しだけ落ち着いた。

ヒイロは傷口を一瞥し、小さく息を吐く。

「……これで死ぬなら、そこまでだったということね」

その瞬間だった。
狼の身体が淡い光に包まれる。骨格が軋み、毛並みが霧のようにほどけていく。

バッドが眉を上げた。

「おい……」

光が消える。
実験台の上には、若草色の髪をした少年が横たわっていた。獣耳だけを頭に残し、肩で荒く息をしている。

ヒイロは驚いた様子もなく、その姿を静かに観察した。

「獣人……いいえ、完全には違うわね」

興味深そうに呟く。
やがて少年の瞼が震え、緑色の瞳がゆっくり開いた。

「……ここは……?」

「質問するのは私よ」

ヒイロは即座に遮る。

「名前は?」

少年は戸惑い、周囲を見回したあと、小さく唇を開いた。

「……ライ」

「それだけ?」

冷たい声が返る。ライは息を詰まらせる。
バッドが腕を組みながら苦笑した。

「そう睨むな。目ぇ覚ましたばかりだぞ」

「だから何よ?」

ヒイロは視線をライから逸らさない。

「ここへ来た理由は?誰にやられたのか。どうしてニホンオオカミが今も生きているのか。聞きたいことは山ほどあるわ」

ライはその鋭い青い瞳から逃げるように俯き、小さく肩を震わせた。
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