4.孤独の果て、魔女の血に溺れる[R15]
礼拝堂の空気が、凍りついたように静まった。
蝋燭の炎が揺れるたび、壁に映る二人の影がゆらりと歪む。
ヴァンの黄金の瞳は、冷たく鋭くチカフィールを射抜いていた。その奥底にはまだ迷いが潜んでいたが、彼は本能に抗うように、わずかに顔を背けた。
ヒイロは、ほんの一瞬だけ息を止めた。
首筋のような甘い場所ではなく、女として最も深い場所――そこを流れる血を差し出す。
一瞬、熱い羞恥が身体を駆け抜けたが、彼女の瞳に迷いはなかった。
「……いいわ。魔女にとって血は、命であり力そのもの。その源を差し出すことこそ、この契約に相応しいじゃない」
頭の上で、三角帽子のバッドが「ぎぎぎ」とつばを震わせ、掠れた声で囁く。
(お、おいヒイロ……本気でやるのか!? 正気じゃないぞ!)
彼女は答えず、マントの留め具を指先で外した。
重い黒布が肩から滑り落ち、床に沈む音さえ、儀式の始まりを告げる鐘の音のように響いた。
揺れる光が白い肌を柔らかく照らし、ドレスの下に隠されたしなやかな輪郭が艶やかに浮かび上がる。冷たい夜気に晒された肌が粟立ち、高鳴る鼓動に合わせて、内側の血が熱を帯びていく。
ヴァンの黄金の瞳が、激しく揺れた。
数百年、孤独の中で無理やり封じ込めてきた吸血鬼の本能が、微かに震え、目の前の「獲物」に触れたいという欲望を帯び始める。
ヒイロは古びた長椅子に腰を下ろし、ドレスの裾をゆっくりと持ち上げた。
白く滑らかな太腿が、薄暗い教会の空気に眩しく浮かび上がる。蝋燭の揺らめきが、肌の上に濃い影を落とし、二人の間の緊張を耐えがたいほどに増幅させた。
「これで――あんたはもう、孤独に逃げることはできないわ」
その声は甘く、けれど拒絶を許さない魔女の命令として響く。
「受け入れなさい、ヴァン。ここで私を喰らい、契約を結ぶのよ」
ヴァンは一歩、また一歩と、吸い寄せられるように近づいてきた。
冷たい石床に重い靴音が響き、沈黙が張り裂けそうに軋む。彼の大きな影がヒイロを覆い尽くし、冷え切った黄金の瞳が至近距離まで迫った。
「……私がお前に触れれば、もう後戻りはできないぞ」
低い声にはまだ拒絶の余韻があったが、隠しきれない渇望が、その声をかすれさせていた。
ヒイロは視線を逸らさず、紅潮した頬で不敵に微笑む。
「後戻りなんて、最初から考えていないわ」
その瞬間、二人の距離は、言葉では埋められないほどに近づいた。
空気は濃密な熱を帯び、重なる息遣いだけが聖堂内に響き渡る。
教会の冷気と、二人の情熱が混ざり合う。
孤独を愛した吸血鬼は、今、初めて「人」を、そして「魔女」をその身に受け入れる決断をしようとしていた。
その時、バッドが居心地悪そうに帽子のつばを震わせた。
「……ぎ、ぎぎ」
(おい、本当にやるのかよお前ら……)
だが、ヒイロもヴァンも、もう彼の声など耳に入っていない。
二人の間に満ち始めた熱は、古びた礼拝堂の空気そのものを変えてしまっていた。
バッドはしばらく黙り込んだあと、観念したように小さく跳ねる。
「ぎぎ……」
(……ったく。後で面倒起こすなよ)
そう呟くと、三角帽子の姿のまま、ひらりと近くの窓へ飛んでいった。
湿った夜風が吹き込み、バッドの黒い影はそのまま教会の外へ消える。
蝋燭の炎が揺れるたび、壁に映る二人の影がゆらりと歪む。
ヴァンの黄金の瞳は、冷たく鋭くチカフィールを射抜いていた。その奥底にはまだ迷いが潜んでいたが、彼は本能に抗うように、わずかに顔を背けた。
ヒイロは、ほんの一瞬だけ息を止めた。
首筋のような甘い場所ではなく、女として最も深い場所――そこを流れる血を差し出す。
一瞬、熱い羞恥が身体を駆け抜けたが、彼女の瞳に迷いはなかった。
「……いいわ。魔女にとって血は、命であり力そのもの。その源を差し出すことこそ、この契約に相応しいじゃない」
頭の上で、三角帽子のバッドが「ぎぎぎ」とつばを震わせ、掠れた声で囁く。
(お、おいヒイロ……本気でやるのか!? 正気じゃないぞ!)
彼女は答えず、マントの留め具を指先で外した。
重い黒布が肩から滑り落ち、床に沈む音さえ、儀式の始まりを告げる鐘の音のように響いた。
揺れる光が白い肌を柔らかく照らし、ドレスの下に隠されたしなやかな輪郭が艶やかに浮かび上がる。冷たい夜気に晒された肌が粟立ち、高鳴る鼓動に合わせて、内側の血が熱を帯びていく。
ヴァンの黄金の瞳が、激しく揺れた。
数百年、孤独の中で無理やり封じ込めてきた吸血鬼の本能が、微かに震え、目の前の「獲物」に触れたいという欲望を帯び始める。
ヒイロは古びた長椅子に腰を下ろし、ドレスの裾をゆっくりと持ち上げた。
白く滑らかな太腿が、薄暗い教会の空気に眩しく浮かび上がる。蝋燭の揺らめきが、肌の上に濃い影を落とし、二人の間の緊張を耐えがたいほどに増幅させた。
「これで――あんたはもう、孤独に逃げることはできないわ」
その声は甘く、けれど拒絶を許さない魔女の命令として響く。
「受け入れなさい、ヴァン。ここで私を喰らい、契約を結ぶのよ」
ヴァンは一歩、また一歩と、吸い寄せられるように近づいてきた。
冷たい石床に重い靴音が響き、沈黙が張り裂けそうに軋む。彼の大きな影がヒイロを覆い尽くし、冷え切った黄金の瞳が至近距離まで迫った。
「……私がお前に触れれば、もう後戻りはできないぞ」
低い声にはまだ拒絶の余韻があったが、隠しきれない渇望が、その声をかすれさせていた。
ヒイロは視線を逸らさず、紅潮した頬で不敵に微笑む。
「後戻りなんて、最初から考えていないわ」
その瞬間、二人の距離は、言葉では埋められないほどに近づいた。
空気は濃密な熱を帯び、重なる息遣いだけが聖堂内に響き渡る。
教会の冷気と、二人の情熱が混ざり合う。
孤独を愛した吸血鬼は、今、初めて「人」を、そして「魔女」をその身に受け入れる決断をしようとしていた。
その時、バッドが居心地悪そうに帽子のつばを震わせた。
「……ぎ、ぎぎ」
(おい、本当にやるのかよお前ら……)
だが、ヒイロもヴァンも、もう彼の声など耳に入っていない。
二人の間に満ち始めた熱は、古びた礼拝堂の空気そのものを変えてしまっていた。
バッドはしばらく黙り込んだあと、観念したように小さく跳ねる。
「ぎぎ……」
(……ったく。後で面倒起こすなよ)
そう呟くと、三角帽子の姿のまま、ひらりと近くの窓へ飛んでいった。
湿った夜風が吹き込み、バッドの黒い影はそのまま教会の外へ消える。