4.孤独の果て、魔女の血に溺れる[R15]

湿り気を帯びた夜の風に吹かれながら、彼女が辿り着いたのは街外れの小高い丘の上だった。
生い茂る木々に隠されるようにして、その建物は闇の中に沈んでいた。二百五十年余り前、禁教の嵐が吹き荒れる中で密かに建てられたという、和洋折衷の奇妙な教会。
かつて弾圧に怯えた人々が祈りを捧げた場所は、いまや時の流れに取り残され、蔦に覆われて朽ち果てている。

ヒイロは黒いマントの裾を翻し、古びた扉の前に立った。
頭の上では、黒い三角帽子の姿をしたバッドが、落ち着かない様子で身じろぎした。

「ぎぎぎ」
(普通の吸血鬼なら、こんな聖なる場所は避けるもんだがな)

「ふふ、聖域なんて彼には関係ないのでしょうね。むしろ、この場所が持つ『隠匿の歴史』が、誰にも見つかりたくない彼にはお誂え向きだったのよ」

ヒイロの声は落ち着いているが、その奥には昂ぶる熱が潜んでいた。
自らの足でこの場に立ったのは、単なる好奇心ではない。歴史から見捨てられたこの廃屋で、五百年を生きる孤独な「黒の吸血鬼」がどんな表情で潜んでいるのか。それを暴きたいという、魔女としての独占欲に近い衝動が彼女を突き動かしていた。

「入るわよ」

ヒイロが扉に手をかけると、古びた木は呻くような軋みを上げ、重く内へと開いた。
隙間から流れ出したのは、湿った土の気配と、長く閉ざされた場所特有の冷たい匂い。
闇に閉ざされた礼拝堂の奥で、かろうじて蝋燭の炎が揺らめき、長椅子の影を化け物のように伸び縮みさせていた。

ヒイロの革靴が石床を叩くたび、音が大きく反響し、静けさを乱す。
その響きにさえ、どこか淫靡な緊張が宿っていた。

バッドが耳元で囁く。

「……ぎぎ」
(……誰か見てるぞ。刺すような視線だ)

ヒイロは小さく笑みを浮かべた。

「望むところよ。――出てきなさい、吸血鬼」

闇の奥から、確かに誰かの視線が、炎よりも熱く、冷たく、彼女を射抜いていた。
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