4.孤独の果て、魔女の血に溺れる[R15]

気分転換にと、彼女が気まぐれに館を出て足を向けたのは、街の片隅にある何の変哲もない古本屋だった。埃っぽい店内の奥、一般人が見向きもしないオカルトコーナーの棚を、彼女は退屈しのぎに指先でなぞっていく。

そこで、一冊の奇妙な古い本が目に留まった。
何気なくページをめくった瞬間、ヒイロの鋭い瞳が細められる。

前半に書かれていたのは、五百年前の海外の記録だった。アルバニア方面で「青の吸血鬼」と交わった一人の人間の女性が書き残したとされる、吸血鬼の生態や行く末、そして二人目の「黒の吸血鬼」に関する緻密な研究記録。
しかし、後半のページをめくると、毛筆の歪んだ日本語へと内容が一変していた。それは二百五十年前、日本のある地域に住む者が書き足したと思われる不気味な目撃談だった。

『裏山の廃教会には異形の物が住んでいる』
『夜な夜な現れるのは、血をすする夜叉の類に違いない』

普通の人間が読めば、海外の古い翻訳怪談と、日本の田舎の妖怪話を適当に一冊にまとめた、ただの安っぽいオカルト創作本にしか見えないだろう。

「まさかこんな古本屋でこんな文献を見つけるなんてね。普通の人ならただの小説としか思わないでしょうね」

ヒイロの唇が、不敵な愉悦の形に歪む。
一流の薬師である彼女の頭脳は、前半の女性が書き残した「黒の吸血鬼」の特異な生体特徴と、後半の日本人が恐れた「夜叉」の行動規則が、完全に同一の存在を示していることを瞬時に見抜いていた。

あのアルバニアの黒の吸血鬼は、日本に流れ着き、今もその廃教会に身を潜めている。
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