3.摩海の鼓動と魔女の回路

「……っ」

背筋を駆け上がる、これまでに経験したことのない衝撃。
直接流れ込んでくる摩海の魔力。
それは人間の洗練された術式とは対極にある、荒々しく、どこまでも根源的で熱い奔流。
呼吸が乱れ、身体の奥深くまでを無理やり掻き回されるような生々しい感覚に、ヒイロは膝を折りそうになる。

「ぎぎぎ」
(力抜け。抵抗すると、お前の回路が焼き切れて壊れるぞ)

「偉そうに……っ」

だが、震える声とは裏腹に。
バッドの魔力が彼女を介して流れ出すたび、狂ったように暴走していた鉱石の脈動が、凪のように少しずつ静まりを見せていく。

やがて。
死の香りを漂わせていた黒い靄が、嘘のように霧散した。
廃工場には、ただ冷え切った静寂だけが戻ってくる。

ヒイロは崩れ落ちるように壁へ手をつき、乱れた呼吸を整えながら荒い息を吐いた。

「……最悪。髪も服も、めちゃくちゃだわ」

帽子が宙でケタケタと笑い、満足げに一回転する。

「ぎぎ」
(命がけで助けてやった恩人に、随分な言い草だな)

「後出しで指示するからでしょうが……。次は最初から言いなさい」

しばらくの間、廃工場に二人の静かな呼吸音が重なる。
やがて、ヒイロは乱れた服を整えながら、小さく目を細めた。

「……でも」

帽子の先端が、不思議そうに揺れる。

「ぎぎ?」
(なんだ)

彼女はわずかに頬を染め、視線を逸らしたまま、消え入りそうな声で呟いた。

「少しは役に立つのね、あんた」

一瞬だけ、帽子が空中でぴたりと静止した。
それから。

「ぎぎぎ」
(ふん、今さら気付いたのか。俺を誰だと思ってやがる)

どこか誇らしげな、そしてこの上なく満足そうな笑い声が、静まり返った廃工場へと穏やかに響き渡った。
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