3.摩海の鼓動と魔女の回路

「そんな怪しい話に飛びつくから、こうして自滅しかけるのよ」

「採掘班が次々とおかしくなっているんだ! 身体が墨を流したように黒く変色して……腕利きの魔術師さえ、呪いを恐れて近づけない!」

肩の上の帽子が、布地を歪めて低く笑った。

「ぎぎぎ」
(当然だ。人間界のひ弱な生き物が扱える代物じゃねぇ)

ヒイロは、躊躇なくその鉱石を指先でつまみ上げた。
熱い。触れた瞬間に火傷しそうな熱量。
石の内部では、澱んだ魔力が逃げ場を失って暴れ狂っている。極めて不安定な状態だ。下手をすれば、この場にいる全員を巻き込んで館ごと吹き飛ばしかねない。

「で?」

彼女は再び長椅子へ腰を下ろし、気怠げに脚を組んだ。

「私に処理しろって言うの?」

「報酬なら、望むだけ払う!」

「払うのは当然でしょう」

透き通るような青い瞳が、獲物を値踏みするように細められる。

「問題は、私が動くほどの『面倒臭くないもの』かどうかよ」

男の顔が絶望に引きつった、その時。
肩の帽子が、わくわくしたように小さく弾んだ。

「ぎぎぎ」
(面白そうじゃねぇか)

ヒイロは、視線だけで肩の帽子を捉える。

「……行きたいの?」

「ぎぎぎ」
(暇なんだよ。この石、俺の故郷の匂いがして懐かしいしな)

「本当に退屈に弱いわね、あんた」

けれど、彼女自身も否定はできなかった。
摩海由来の鉱石。それがなぜ人間界へ流れ込んだのか、その異常な変異の正体は何なのか。研究対象としての価値は、確かに一級品だ。

ヒイロは小さく息を吐き、男へと冷ややかな視線を戻す。

「案内しなさい」

男の顔が、救いを見出した聖者のように明るくなった。
「助かる……本当に……!」

「勘違いしないで」

ヒイロは残酷なほど美しく笑った。

「私はあなたの命を救う善人じゃないの。ただ、その石が私を飽きさせない素材に見えた、それだけよ」
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