閑話.秋の訪問者と、カボチャの焼き菓子

午後のリビング。

ヒイロはソファに腰掛け、膝の上に広げた古文書を読んでいた。
その少し離れた場所では、ライがスマートフォンを眺めている。

「ねえ、ヒイロ様」

「何?」

「これ、何のお祭り?」

ライが画面をこちらへ向けた。
そこには、カボチャの飾りや仮装した人々の写真が並んでいる。

「ハロウィンね」

ヒイロは古文書から目を離さずに答えた。

「ハロウィンって、何をする日なの?」

「もともとは死者の霊や異界の存在に関係する祭礼よ。今では仮装やお菓子を楽しむ行事として定着しているわ」

「死者の霊?」

「昔は、この世とあの世の境が曖昧になると考えられていたの。仮装にも、悪霊から身を守るために姿を偽る意味があったと言われているわ」

「へえ……」

ライはもう一度、スマートフォンの画面を見た。

「でも、今はみんな仮装して楽しんでるみたいだよ」

「時代とともに意味合いも変わるものよ」

「お菓子を配ったりもするんだよね?」

「そういう風習もあるわね」

「面白そう!」

ライの尻尾が、期待するように揺れた。

その様子を見ていたフォーンが、穏やかに口を開く。

「街でもイベントが開かれているようですね。仮装した子供たちが家々を訪ねる習慣もあるそうです」

「家に来るの?」

「ええ。『トリック・オア・トリート』と言って、お菓子をねだるんです」

「お菓子をあげなかったら?」

「いたずらをする、という意味ですね」

「いたずらかあ……」

ライは少し考え込むように画面を見つめた。

「この館にも来るのかな?」

「どうかしらね。ここは街から離れているし、わざわざ山まで来る子供はいないと思うけれど」

ヒイロはそう言って、再び古文書へ視線を戻した。

そのときだった。

――ピンポーン。

玄関の呼び鈴が鳴った。
ライが顔を上げる。

「……今の、もしかして?」

「行ってみたらどうですか?」

フォーンに促され、ライは玄関へ向かった。

扉を開けると、そこには仮装した子供たちが数人立っていた。
魔女の帽子をかぶった子や、黒いマントを羽織った子。手にはそれぞれ小さな袋を持っている。

「トリック・オア・トリート!」

一斉に声を上げられ、ライは目を瞬かせた。

「あ……お菓子?」

「そう! お菓子をくれないといたずらするぞ!」

子供たちは楽しそうに笑っている。
ライは一度、背後の館を振り返った。

「ごめん。今、ここにはお菓子がないんだ」

「えー!」

「ちょっと待ってて。何か探してくるから」

そう言って扉を閉めると、ライはリビングへ戻った。
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