15.魔女の調薬と、思わぬ誤算

「ヒイロ様。今日はここまでにしたほうがいいと思います」

「まだ確認したい箇所があるわ」

「記録は残っています。今の状態で続けるより、休んでから見直したほうが正確に判断できるはずです」

「誰がそこまで決めたの?」

「僕です」

フォーンは淡々と答え、散らばった計算用紙を種類ごとに分けていく。

「器具も片づけておきます。計算用紙は、明日すぐに続きを確認できるように整理します」

「余計なところだけ成長するのね」

「必要だと思ったので」

ヒイロは返事をせず、手元の式に目を落とした。
フォーンが器具を運び出す間、ヴァンは封じた瓶をケースに収めた。蓋の状態を確かめ、魔力の漏れがないことを確認してから、机の端へ移す。

「それも、明日確認するわ」

「分かっている」

「次からは、動かす前に聞きなさい」

「ああ」

ヴァンはそれ以上何も言わず、ケースから手を離した。
ヒイロは計算用紙をまとめ、研究ノートに挟んだ。今夜の作業はここまでだ。残りは明日、術式を分離した場合の反応を計算し直せばいい。

椅子から立ち上がると、わずかに足元が揺れた。
ヴァンがすぐそばにいたが、ヒイロは机に手をついて姿勢を立て直した。

「平気よ」

彼が何か言う前に告げる。

「まだ何も言っていない」

「言うつもりだったでしょう」

ヴァンは否定しなかった。
ヒイロは研究ノートを抱え、調薬室を出た。

     *

翌朝。
調薬室に入ったヒイロは、机の上に整然と並べられた計算用紙に気づいた。
昨夜の記録が項目ごとに整理され、反応の強さを示す数値まで一覧にまとめられている。自分が書き散らした計算式も、順番を変えずに並べ直されていた。

ヒイロは一枚ずつ目を通した。
数値に誤りはない。反応の強さを比較するための記録も、確かにあったほうが便利だった。

「……余計なところだけ、よく気が回るわね」

呟きながら、用紙を研究ノートの隣に置く。
片づけ直すことはしなかった。
ヒイロは新しい瓶を取り出し、昨夜の記録を開いた。

「さて。今度は吸収機構を分離してみましょうか」

新しい調合の準備に取りかかる。
机の上には、昨夜の失敗と、フォーンが整理した計算用紙が並んでいた。
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