15.魔女の調薬と、思わぬ誤算

やがて光が消えた。
ヒイロは息を吐き、机に手をついた。

「……これでいいわ」

「立てるか」

「立てるわよ。少し魔力を持っていかれただけ。休めば戻るわ」

そう言いながら椅子に腰を下ろしたところで、扉の向こうから足音が聞こえた。

「ヒイロ様? 今、何か音がしなかった?」

ライが顔を覗かせる。その後ろにはフォーンもいた。
ライは机の上の瓶を見て、それからヒイロに目を向けた。

「何かあったの?」

「調合の副作用よ。もう処置は済んだわ」

「副作用って……ヒイロ様の手は大丈夫なの?」

「問題ないわ」

ライは納得していない様子で、彼女の手元を見つめた。

「でも、さっき……」

「ライ」

ヴァンに名を呼ばれ、ライは口を閉じた。それでも心配そうな顔は変わらない。

「何かあったら呼んでよ」

「呼ばないわ」

「そこは呼んでよ!」

「騒がしいわね。大したことではないと言っているでしょう」

ヒイロは眉を寄せた。
ライはまだ何か言いたそうだったが、フォーンが静かに声を挟む。

「ライ、夕食の片づけが残っています。僕たちがここにいても、ヒイロ様の調合は進まない」

「……分かってるよ」

ライは不満そうに答えたあと、ヒイロを振り返った。

「本当に、何かあったら呼んでね」

「二度も言わなくていいわ」

「はいはい……」

ライはフォーンとともに部屋を出ていった。
扉が閉まると、調薬室は再び静かになった。
ヒイロは椅子の背にもたれ、封じた瓶を確認する。液体は安定している。
魔薬そのものが失敗したわけではない。問題は、魔力を取り込む仕組みが治癒反応と連動しすぎていることだった。


夜の姿に戻っていたバッドが、机の向こうから瓶を眺めていた。短い茶髪の下で、琥珀色の目が細められる。

「また妙なものを作っていたのか」

「妙かどうかは、完成品を見てから判断なさい」

「結果なら、今そこで立証されたようだろ?」

「制御の問題よ。魔薬そのものの構造が間違っているとは限らないわ」

バッドは小瓶に目を向けた。

「周囲の魔力を吸い上げる仕組みと、傷を塞ぐ反応が一体になっているのか」

「ええ。吸収した魔力をそのまま治癒反応に回す設計よ」

「なら、分ければいいだろ?」

ヒイロが顔を上げる。

「何を?」

「魔力を吸収する部分と、傷を塞ぐ部分だ。
吸収量を調整する仕組みを独立させれば、治癒反応が強まっても際限なく吸い続けることはない。
少なくとも、今のように一つの反応に引きずられることは減るだろうさ」

ヒイロはすぐには答えず、机の上に広げた計算用紙を引き寄せた。
吸収量を制御する術式は組み込んである。しかし、治癒反応が一定の段階を超えたとき、吸収側の制御まで引き上げられていた。
二つの機構を分離すれば、その連動を断ち切れる可能性がある。

「……そのほうが調整はしやすそうね」

「だろうな。最初からそうすればよかったものを」

「結果を見た後なら、いくらでも言えるわ」

「次は失敗するなよ」

「バッドに言われるまでもないわ」

ヒイロは計算用紙に新たな式を書き加えた。先ほどまでの疲労は残っているが、考えがまとまり始めると、手は自然に動き出す。
その様子を見ていたフォーンが、机の端に置かれた器具を片づけ始めた。
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