15.魔女の調薬と、思わぬ誤算

霧が山肌を覆う夜。
魔女の館の調薬室には、薬草と薬品の匂いが漂っていた。

ヒイロは机に並べた小瓶を見比べながら、最後の調整を加えていた。
今回作っているのは、傷口を短時間で塞ぐための魔薬だ。
治癒に必要な魔力を使用者自身に負担させないよう、周囲に漂う魔力を取り込んで反応を促す仕組みを組み込んでいる。

理論上は、これで使用者の負担を大幅に減らせるはずだった。
問題は、取り込む魔力の量をどこまで制御できるかだ。

ヒイロは小瓶を持ち上げ、光に透かした。

「……少し、反応が早いわね」

液体の色が変化した。
次の瞬間、小瓶の中で魔力が渦を巻く。周囲の空気がわずかに揺れ、ヒイロの指先から力が抜けた。

「っ……」

瓶を机に戻そうとした手が止まる。
想定よりも強い吸収反応が起きていた。
しかも、周囲の魔力だけではない。調合を制御していたヒイロ自身の魔力まで、液体に引き込まれている。
このままでは、瓶を封じる前に反応が進みすぎる。

ヒイロは空いている手を伸ばしたが、指先に思うように力が入らなかった。

「面倒なことになったわね……」

扉が開いたのは、その直後だった。

「何をした」

入ってきたヴァンが、机の上の小瓶とヒイロの様子を見比べた。

「見れば分かるでしょう。調合よ」

「魔力を吸われているのか」

「そうね。少し予想を外れただけよ」

答えながらも、ヒイロは瓶から目を離さない。反応はまだ収まっていなかった。
ヴァンは机に近づき、手を伸ばしかける。

「貸せ」

「触らないで。今、刺激を加えると反応が変わる可能性があるわ」

「なら、指示しろ」

ヒイロは一瞬だけ彼を見た。それから、机の端に置いてあった金属製の蓋を顎で示す。

「その蓋を使って、瓶の口を覆ってちょうだい。押さえつける必要はないわ。反応を閉じ込めるだけでいい」

ヴァンは指示どおりに蓋を取り、瓶の口を覆った。
ヒイロは残った魔力を振り絞り、封印の術式を組み立てる。
蓋の縁に淡い光が走り、暴れていた魔力が少しずつ瓶の中へ押し戻されていった。

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