13.終わりなき訪問の予告

ヒイロは小さく息を吐いた。

「……あれは、薬を渡したから終わり、という客じゃないわね」

ヴァンが廊下の影から静かに姿を見せる。

「また来ると思うか」

「ええ」

ヒイロは即答した。

「でも、次は考えて来るでしょうね」

ライが首を傾げる。

「どういうこと?」

ヒイロは、小瓶が置いてある机を一瞥した。

「最初は、興味のまま動いていた」

「興味だけで、あれか……」

バッドが呆れたように呟く。

「でも、あの男は相手を見てやり方を変えるタイプよ」

ヴァンが目を細める。

「……次は、出方を変えるということか」

「そういうこと」

ヒイロは肩をすくめた。

「勢いだけの相手なら、対処は簡単だったわ」

バッドが低く息を吐く。

「衝動で動く相手より、考える相手のほうが厄介ってことか」

「ええ」

ヒイロは棚の奥へ小瓶をしまい、扉を閉めた。

「最初から、その気配はあったわ。今日で確信しただけ」

フォーンが静かに続ける。

「彼は拒まれた理由を考えて、次は受け入れられる方法を探すタイプですね」

「……そうね」

ヒイロは淡々と答えた。

「……あの男との距離を、決めたということか」

「そういうこと」

ヒイロは振り返らずに答える。

「どこまで近づいてくるのか。それを測るための目印よ」

一瞬、沈黙が落ちる。
ライが小さく呟いた。

「つまり、次にどこまで踏み込んでくるかを見るってこと?」

「ええ」

ヒイロは認めた。

「だから、こちらも気をつけるだけよ」

調合室へ向かいながら、彼女は続ける。

「感情で対応したら、ああいう相手には引き込まれる」

灯りが一つ、点いた。
袖をまくり、棚の前に立つ。
まだ作る必要はない。
けれど、次に備える準備だけはしておく。

「……面倒な客ほど、余計な手間がかかるわね」

小さな呟きは、誰にも返らない。
館はいつもの静けさを取り戻していた。

その静けさの外側で――
アウグストは、すでに次に訪れる理由を考えている。

ヒイロだけが、それを正確に理解していた。

そして皆が悟っていた。
アウグストは去った。

けれど――
”関係だけが、始まったのだと”。
2/3ページ
スキ