12.霧深き館の不調和な訪問者
扉の向こうで、足音が遠ざかっていく。
重い玄関扉が閉じる音が、館の奥まで低く響いた。
しばらくして――
張り詰めていた空気が、少しずつほどけていく。
階段の影から、ヴァンが静かに姿を現した。
金の瞳はまだ警戒を残したまま、閉じた扉の先を見ている。
「……行ったな」
確認するような一言。
天井裏から、ライが音もなく降りてくる。
獣耳が揺れ、残った気配を探るように鼻を動かした。
「変な匂いが残ってる」
「薬品、金属、複数の魔力反応。通常の医療関係者とは異なる特徴が確認できます」
廊下の奥から、フォーンの低い声が響く。
階段の手すりには、いつの間にかバッドが持たれかかっていた。
バッドが小さく笑う。
「面倒なのが来たもんだな」
ヒイロは商談室へ戻ると、机の上の依頼資料を手に取った。
数枚に目を通し、静かに閉じる。
「……闇医者、ね」
ヴァンが視線を向ける。
「受けたのか」
「ええ」
ヒイロは淡々と答える。
「条件付きでね」
「情動を扱う薬だろ」
「だから条件を付けたのよ」
資料を棚へ戻す。
「便利すぎる薬は、扱う人間を選ぶわ」
ライが眉を寄せる。
「でも、あの人は使うよね」
「でしょうね」
即答だった。
「必要だと思ったものを、途中で諦めるような人間には見えなかったもの」
バッドが帽子のつばを揺らす。
「それでも作るんだな」
ヒイロは少しだけ振り返る。
「依頼として成立しているからよ」
短い返答。
「それ以上でも、それ以下でもないわ」
ヴァンは小さく息を吐いた。
「……お前らしいな」
「何が?」
「危険だから捨てるんじゃなく、扱える形にするところだ」
ヒイロは答えなかった。
代わりに、調合室へ続く廊下へ向かう。
その時、フォーンが静かに告げた。
「次回訪問の目的は、完成した魔薬の受け取りと推測されます」
「当然ね」
ヒイロは足を止めない。
「ですが――」
フォーンは一拍置く。
「依頼内容以外への関心も、継続している可能性があります」
一瞬、廊下が静まる。
バッドが小さく笑った。
「そこが厄介なんだよな」
「……分かってるわ」
ヒイロはため息混じりに返す。
館に再び静寂が戻る。
歓迎ではない。
拒絶でもない。
ただ――
新しい取引相手を、館が記録しただけだった。
ヒイロは調合室の扉を開く。
薬草と魔力の匂いが、静かに広がった。
重い玄関扉が閉じる音が、館の奥まで低く響いた。
しばらくして――
張り詰めていた空気が、少しずつほどけていく。
階段の影から、ヴァンが静かに姿を現した。
金の瞳はまだ警戒を残したまま、閉じた扉の先を見ている。
「……行ったな」
確認するような一言。
天井裏から、ライが音もなく降りてくる。
獣耳が揺れ、残った気配を探るように鼻を動かした。
「変な匂いが残ってる」
「薬品、金属、複数の魔力反応。通常の医療関係者とは異なる特徴が確認できます」
廊下の奥から、フォーンの低い声が響く。
階段の手すりには、いつの間にかバッドが持たれかかっていた。
バッドが小さく笑う。
「面倒なのが来たもんだな」
ヒイロは商談室へ戻ると、机の上の依頼資料を手に取った。
数枚に目を通し、静かに閉じる。
「……闇医者、ね」
ヴァンが視線を向ける。
「受けたのか」
「ええ」
ヒイロは淡々と答える。
「条件付きでね」
「情動を扱う薬だろ」
「だから条件を付けたのよ」
資料を棚へ戻す。
「便利すぎる薬は、扱う人間を選ぶわ」
ライが眉を寄せる。
「でも、あの人は使うよね」
「でしょうね」
即答だった。
「必要だと思ったものを、途中で諦めるような人間には見えなかったもの」
バッドが帽子のつばを揺らす。
「それでも作るんだな」
ヒイロは少しだけ振り返る。
「依頼として成立しているからよ」
短い返答。
「それ以上でも、それ以下でもないわ」
ヴァンは小さく息を吐いた。
「……お前らしいな」
「何が?」
「危険だから捨てるんじゃなく、扱える形にするところだ」
ヒイロは答えなかった。
代わりに、調合室へ続く廊下へ向かう。
その時、フォーンが静かに告げた。
「次回訪問の目的は、完成した魔薬の受け取りと推測されます」
「当然ね」
ヒイロは足を止めない。
「ですが――」
フォーンは一拍置く。
「依頼内容以外への関心も、継続している可能性があります」
一瞬、廊下が静まる。
バッドが小さく笑った。
「そこが厄介なんだよな」
「……分かってるわ」
ヒイロはため息混じりに返す。
館に再び静寂が戻る。
歓迎ではない。
拒絶でもない。
ただ――
新しい取引相手を、館が記録しただけだった。
ヒイロは調合室の扉を開く。
薬草と魔力の匂いが、静かに広がった。
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