12.霧深き館の不調和な訪問者
ヒイロは指を一本立てた。
「条件はまだあるわ」
「その魔薬は、単体では完成しない」
アウグストの眉がわずかに動く。
「媒介が必要、と?」
「ええ。魔薬は材料だけじゃ決まらない。込める意志が必要なの」
ヒイロは淡々と続ける。
「今回は、使う側の精神状態を利用する」
「……使用者自身が、ですか」
「そう」
青い瞳が細まる。
「恐怖を扱うなら、恐怖を知らない人間には扱えない。
あんた自身が壊れすぎたら、その薬は役に立たないわ」
アウグストは一瞬黙り、そして微笑んだ。
「それでも構いません」
「でしょうね」
ヒイロは小さく息を吐く。
「名前は決めておくわ」
空の小瓶を取り出す。
「《リーメン・カーム》。
恐怖を消す薬じゃない。ただ、一歩引き延ばすためのものよ」
「美しい名前ですね」
「褒めても値引きはしないわ」
「承知しています」
「完成までは時間がかかる。今日は契約じゃない、見積もりよ」
ヒイロは扉を指さした。
「帰りなさい。次に来るときは条件を飲む覚悟をしてくることね」
「ええ。必ず」
アウグストは一礼し、商談室を出ていく。
扉が閉まった瞬間、館の奥で張り詰めていた気配がわずかに緩んだ。
歓迎ではない。
拒絶でもない。
ただ―
新しい危険な存在を、館が記憶しただけだった。
ヒイロは机の上の資料を手に取る。
「……厄介なのを引き寄せたわね」
そう呟きながらも、視線はすでに依頼内容の分析へ向いていた。
「条件はまだあるわ」
「その魔薬は、単体では完成しない」
アウグストの眉がわずかに動く。
「媒介が必要、と?」
「ええ。魔薬は材料だけじゃ決まらない。込める意志が必要なの」
ヒイロは淡々と続ける。
「今回は、使う側の精神状態を利用する」
「……使用者自身が、ですか」
「そう」
青い瞳が細まる。
「恐怖を扱うなら、恐怖を知らない人間には扱えない。
あんた自身が壊れすぎたら、その薬は役に立たないわ」
アウグストは一瞬黙り、そして微笑んだ。
「それでも構いません」
「でしょうね」
ヒイロは小さく息を吐く。
「名前は決めておくわ」
空の小瓶を取り出す。
「《リーメン・カーム》。
恐怖を消す薬じゃない。ただ、一歩引き延ばすためのものよ」
「美しい名前ですね」
「褒めても値引きはしないわ」
「承知しています」
「完成までは時間がかかる。今日は契約じゃない、見積もりよ」
ヒイロは扉を指さした。
「帰りなさい。次に来るときは条件を飲む覚悟をしてくることね」
「ええ。必ず」
アウグストは一礼し、商談室を出ていく。
扉が閉まった瞬間、館の奥で張り詰めていた気配がわずかに緩んだ。
歓迎ではない。
拒絶でもない。
ただ―
新しい危険な存在を、館が記憶しただけだった。
ヒイロは机の上の資料を手に取る。
「……厄介なのを引き寄せたわね」
そう呟きながらも、視線はすでに依頼内容の分析へ向いていた。