12.霧深き館の不調和な訪問者

「……あんた、自分が何を頼んでるか分かってる?」

「ええ」

即答だった。

「これは”患者を守る薬”でもあり、同時に”患者を逃がさない薬”でもある」

ヒイロの唇が、わずかに吊り上がる。

「正直ね。嫌いじゃないわ、そういうところ」

アウグストは、わずかに目を細めた。

「では――」

「勘違いしないで」

ヒイロは、ぴしりと言葉を切る。

「作るかどうかは、まだ決めてない。条件次第よ」

彼女は椅子に深く腰掛け、指先で机を軽く叩いた。

「その魔薬の即効性も、永続性も、私が決める。
 あんたが勝手に“使い続けられる”代物にはしない」

「……制限付き、ですか」

「当然でしょ。魔女がそんなもの、野放しにするわけない」

アウグストは少し考え、そして静かに頷いた。

「構いません。私が欲しいのは”万能”ではない。
 治療の一瞬を支配できれば、それでいい」

その言葉に、ヒイロは微かに目を細める。

(……厄介な男)

断ったところで、諦める顔じゃない。
それなら。

「……いいわ」

決断は早かった。

「作ってあげる。ただし、私の流儀で。
 名前も、配合も、使用条件も――全部、私が決める」

アウグストの表情が、わずかに和らぐ。

「感謝します、魔女殿」

その瞬間、商談室の外で館が小さく息を吐いた。

歓迎ではない。
拒絶でもない。

ただ――
”危険な取引が始まった"と、館が理解した反応だった。
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