2.退屈な魔女と摩海の魔族
「高位契約、だったかしら」
ヒイロは、彼の言葉をなぞるようにわざとらしく首を傾げる。
「ああ。互いの魔力を繋ぐなら、相応の手順が必要だ」
「ふぅん」
彼女は数秒、品定めをするように男を見つめ返した。
夜の闇を溶かしたような琥珀色の瞳。
隠そうともしない、剥き出しの自信。
召喚された身でありながら、館の重厚な空気に呑まれるどころか、自らの色に染め変えてしまう異質さ。
永劫とも思える退屈な日々に投げ込まれた、熱を帯びた異物。
ヒイロは満足げに、ゆっくりと唇の端を持ち上げた。
「……いいわ」
その声は、静かだが確かな重みを持っていた。
先ほどまでの可愛らしい動揺はもう欠片もなく、そこにあるのは、未知の運命さえも支配下に置こうとする魔女の矜持だった。
「受け入れてあげる」
男の瞳が、獲物を追い詰めた愉悦に満ちた肉食獣のように細められる。
次の瞬間、有無を言わさぬ力強さで、ヒイロの細い腰が引き寄せられた。
「――っ」
不意を突かれ、ヒイロの身体がわずかに男の方へと傾く。
その衝撃で、羽織っていた重厚なローブがはらりと肩から滑り落ち、露わになった白い肌が、足元で脈動する赤い魔法陣の光に妖しく照らし出された。熱を帯びた空気がしっとりと肌を撫で、鮮やかな桜色の長髪が、意思を持つ生き物のように背中へとなだれ落ちる。
男は勝利を確信したような笑みを浮かべ、彼女の柔らかな首筋へと唇を寄せた。
「高位契約ってのはな、魔力だけじゃなく“存在そのもの”を繋ぐ」
耳元で囁かれる声は、熱風のように鼓膜を揺らす。
ヒイロは至近距離にある熱源を感じながらも、不敵に眉を寄せた。
「随分と回りくどい契約方法ね」
「そういう術式なんだよ」
からかうような声音。
その余裕たっぷりな態度が、最高に癪に障る。
だが同時に、ヒイロは自分でも驚くほど冷静にその感触を受け入れていた。触れられるたび、血管を流れる魔力が直接混ざり合い、火花を散らすような不思議な感覚がある。皮膚の内側を熱い奔流が走り、自覚がないまま、彼女の呼吸はわずかに乱れ始めていた。
男はそんな彼女の変化を見逃さず、面白そうに目を細める。
「余裕なくなってきたか?」
「……馬鹿言わないで」
ヒイロは乱れた息を整え、挑発を撥ね返すように笑ってみせた。
その青い瞳には、もはや動揺の色はない。代わりに宿っているのは、冷徹なまでの観察眼と、狡猾なまでの計算、そして鮮やかな思考だった。
ヒイロは、彼の言葉をなぞるようにわざとらしく首を傾げる。
「ああ。互いの魔力を繋ぐなら、相応の手順が必要だ」
「ふぅん」
彼女は数秒、品定めをするように男を見つめ返した。
夜の闇を溶かしたような琥珀色の瞳。
隠そうともしない、剥き出しの自信。
召喚された身でありながら、館の重厚な空気に呑まれるどころか、自らの色に染め変えてしまう異質さ。
永劫とも思える退屈な日々に投げ込まれた、熱を帯びた異物。
ヒイロは満足げに、ゆっくりと唇の端を持ち上げた。
「……いいわ」
その声は、静かだが確かな重みを持っていた。
先ほどまでの可愛らしい動揺はもう欠片もなく、そこにあるのは、未知の運命さえも支配下に置こうとする魔女の矜持だった。
「受け入れてあげる」
男の瞳が、獲物を追い詰めた愉悦に満ちた肉食獣のように細められる。
次の瞬間、有無を言わさぬ力強さで、ヒイロの細い腰が引き寄せられた。
「――っ」
不意を突かれ、ヒイロの身体がわずかに男の方へと傾く。
その衝撃で、羽織っていた重厚なローブがはらりと肩から滑り落ち、露わになった白い肌が、足元で脈動する赤い魔法陣の光に妖しく照らし出された。熱を帯びた空気がしっとりと肌を撫で、鮮やかな桜色の長髪が、意思を持つ生き物のように背中へとなだれ落ちる。
男は勝利を確信したような笑みを浮かべ、彼女の柔らかな首筋へと唇を寄せた。
「高位契約ってのはな、魔力だけじゃなく“存在そのもの”を繋ぐ」
耳元で囁かれる声は、熱風のように鼓膜を揺らす。
ヒイロは至近距離にある熱源を感じながらも、不敵に眉を寄せた。
「随分と回りくどい契約方法ね」
「そういう術式なんだよ」
からかうような声音。
その余裕たっぷりな態度が、最高に癪に障る。
だが同時に、ヒイロは自分でも驚くほど冷静にその感触を受け入れていた。触れられるたび、血管を流れる魔力が直接混ざり合い、火花を散らすような不思議な感覚がある。皮膚の内側を熱い奔流が走り、自覚がないまま、彼女の呼吸はわずかに乱れ始めていた。
男はそんな彼女の変化を見逃さず、面白そうに目を細める。
「余裕なくなってきたか?」
「……馬鹿言わないで」
ヒイロは乱れた息を整え、挑発を撥ね返すように笑ってみせた。
その青い瞳には、もはや動揺の色はない。代わりに宿っているのは、冷徹なまでの観察眼と、狡猾なまでの計算、そして鮮やかな思考だった。