閑話.――真夏の館

夏の日差しが館の窓を照らしていた。
森に囲まれた館は街中より幾分涼しいはずなのに、今日は空気が重い。

リビングではライがソファへ寝転がり、耳をぺたりと伏せていた。

「暑い……」

「ライ、その台詞を今日だけで九回聞きました」

向かいの椅子で本を読んでいたフォーンが、ページをめくりながら言う。

「わざわざ数えてたの!?」

「ええ」

「フォーンは暇なの!?」

「いいえ。本を読みながらでも数えられますので」

ライがむっと頬を膨らませる。

「僕をからかって楽しんでるでしょ」

「少しだけ」

「認めた!」

その時だった。

廊下から、ゆっくりと足音が近づいてくる。
姿を見せたのはヒイロだった。

しかし、どこか様子がおかしい。
歩幅がいつもより狭い。
髪も少しだけ乱れている。

ライが目を丸くした。

「ヒイロ様?」

ヒイロは返事をせず、そのままソファまで歩く。

そして。

どさっ。

ライの隣へ倒れ込んだ。

「うわっ!」

「……今日はここにするわ」

ライは思わず身を乗り出す。

「ど、どうしたの!?」

「暑くて動きたくないの」

あまりにも自然な返事だった。

フォーンは本を閉じ、静かにヒイロの前へ歩み寄る。

「ヒイロ様。体温が少し高いですね。顔色もあまり良くありません」

「そう?」

「ええ。呼吸も少し浅いです」

ライが慌てて立ち上がる。

「えっ、大丈夫なの!?」

「騒ぐほどじゃないわ」

ヒイロはソファへ身を預けたまま、気だるそうに天井を見つめる。

「夏は昔から苦手なのよ」

「初耳だよ!?」

「言っていないもの」

フォーンは少し考え込む。

「この館の暑さ、何か原因があるはずですが……」

「たぶん地下よ。見てきてもらえる?」

ヒイロは面倒そうに手をひらひら振った。

「承知しました」

フォーンは地下へ向かう。

残されたライは心配そうにヒイロを見つめた。
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