10. 館に響く、新たな足音

館の中を一通り歩き終える頃には、午後の日差しも少し傾き始めていた。

ライは廊下の奥にある一枚の扉の前で足を止める。
扉を開き、中を覗き込んだ。

「今日からここがフォーンの部屋だよ」

フォーンは静かに室内へ足を踏み入れる。

窓から差し込む柔らかな光。
机と棚、それに簡素な寝台。
まだ誰の色にも染まっていない部屋を、ゆっくりと見渡した。

「生活空間として問題ありません」

「あはは、そこは『ありがとう』って言うところじゃない?」

ライが苦笑すると、フォーンはわずかに首を傾げた。

「……そうでした」

少し間を置いて、

「ありがとうございます」

「うん!」

ライは満足そうに笑った。

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フォーンを部屋に案内し終えたライは、最後にリビングの扉を開いた。

「最後にリビングだよ。みんな、だいたいここにいるんだ」

フォーンは静かに室内へ視線を巡らせる。

リビングへ入ると、ソファではヒイロが紅茶を飲んでいた。
窓際の椅子ではヴァンが本を閉じ、ソファには黒い三角帽子姿のバッドが寝転がっていた。

三人の足音に気づき、帽子のつばがぴくりと持ち上がる。

「ぎ、ぎぎ」
(おい、ヒイロ。また何かやったのか?)

その視線が、見慣れない赤髪の少年を捉えた。
ヒイロは肩をすくめる。

「そうねぇ。ちょっと実験していたら、人になっちゃったのよ」

「ぎぎ……」
(『なっちゃった』で済ませるなよ……)

呆れたようにため息をつくバッド。

一方、ヴァンはフォーンを静かに見つめていた。
黄金の瞳がわずかに細まる。

「……人工物に、魔力が定着しているのか」

それだけ呟くと、それ以上は何も聞かなかった。

フォーンは二人へ向き直り、小さく一礼する。

「フォーンです。よろしくお願いします」

「ぎ」
(俺はバッドだ)

帽子のつばを軽く持ち上げる。

「ぎぎ」
(そっちはヴァン。あんまり喋らねぇけど気にすんな)

ヴァンは短く頷いた。

「よろしく」

フォーンも静かに頷く。

「認識しました」

その一言に、バッドが思わず吹き出す。

「ぎぎっ」
(ははっ、本当に機械みてぇだな)

「まだ学習中ですので」

淡々と返すフォーンに、ライも思わず笑みをこぼした。

「なんか、フォーンらしいや」

ヒイロは四人を見回し、小さく目を細める。

「これで館のみんなに会えたわね」

フォーンはその言葉に頷いた。

「はい。よろしくお願いします」

静かな返事が、館に新しい空気を運ぶ。

フォーンは窓の外を見つめた。
胸の奥で淡く灯ったその小さな光は、静かに育ち始めていた。
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