シンク&アリア④


「前から思ってたけど」

「うん?」

「アンタの制服ってなんでそう露出が多いの?」

 いつものように休憩していれば、唐突に問われる。言われて自身の制服を見下ろすがよく分からない。

「多いかなぁ。動きやすいデザインにしてもらったんだけど」

「多いよ。肩も足も出てるでしょ」

「アニスもそんなもんじゃん」

「あいつはガキだろ」

「関係ある??」

 露出の有無にあまり年齢は関係ないように思うのだが、違うのか。首を傾げていればうんざりしているように問いが重ねられた。

「アンタ、自分が注目を集めてる存在だって自覚ある?」

「そりゃまぁ『始祖ユリアの生まれ変わり』ですから?」

「ならもっと大人しい服を着なよ。すれ違う度アンタを見る奴らの視線がやかましくて仕方がない」

「それは服のせいじゃないと思うけど……」

 単純に「信仰」を集めてしまった結果だと思う。中身はこの通り怠惰の化身なので、幻想をぶち壊してしまって申し訳ないが。

「……アンタ、自分の被験者の見た目はどう思ってるワケ?」

「え? 美人だよね。儚げで、深窓の令嬢って感じで……凄い絵になる。聖女って言われても分かるよ」

「それとアンタは見てくれだけは同じなんだけど?」

「ないない。素材が一緒でも進化が違いすぎるって。ボクに被験者みたいな魅力はないよ」

 ボクが儚げに振る舞ったところで無理がある。彼女の醸し出す雰囲気の一割だって再現できない。そう思うが、シンクは溜め息で応えてくれた。

「これだから自覚のない馬鹿は……」

「急に貶すじゃん」

「アンタが軽率なのが悪い」

 言って、シンクは席を立った。座っているボクの近くへやってきて自然な動きで距離をなくしてしまう。黒手袋の掌が露になっている肩と太股に触れる。……途端、緊張が生まれて戸惑ってしまった。

 すぐ側で囁かれる。

「こうやって、アンタに触れたいって思う奴がいないと思ってるの?」

「……いないよ」

「へぇ。まだボクのことを男だと思ってないんだ?」

 呼吸が近付いた。至近距離でボクを見詰める瞳にはあの熱が宿っている───眼を逸らしてしまう。

「訂正。シンクだけだよ」

「それならボクだって忌々しく思ってないよ。アンタはもう少し自分の容姿を自覚すべきだ」

「そんなこと言われましても……」

 シンクがボクをそういう眼で見てることは知っている。でもどうやったって実感が湧かない。通りすがるだけの人々がボクをそうして見ていると想像できない。

 それが顔に出ていたのだろう。シンクが小さく息を吐いた。

「お仕置きが必要みたいだね」

「どうして」

「自分の格好が男を欲情させるって分かってないんでしょ? 分からせてやるよ」

「え……待って待って、それはちょっと」

「待ったら仕置きにならないだろ」

 太股に触れていた手が離れ、頬に触れる。僅かに上を向かされ、覆い被さる形になっている体が更に近付いた。

 唇が触れる───予感があっても逃れることは出来ない。この手を繋いだのはボクが先だったのに、関係性はすっかり逆転してしまっていた。今や、捕まっているのはボクの方だ。

 せめて目蓋を閉じて恥ずかしさに堪える。与えられる温もりに、触れて移る熱に、くらくらと世界が眩むようで。

 唇が離れて呟きが落ちてくる。

「アンタが惜し気もなく肌を晒して、男の視線を集めて。気にしてるのはボクばっかりだ」

「……気になるの?」

「当たり前でしょ。アンタにそういう視線を向けていいのはボクだけなんだから」

 それとも、と続けられる。

「アンタは誰にでも体を許すワケ?」

「……そんなことないよ」

「でしょ。自分の特権が侵されたら誰だって不愉快だ」

 すり、と指先が肌を撫でて。熱い。体温がゆっくりと上がって、羞恥が強まる。そうして触れられることに、いつまで経っても慣れられない。

 それでも、ボクは逃げられないから。

「存分に思い知りなよ。自分がどれだけボクを誘惑してるかをさ」

「……はい」

 否を返すことすら許されず、眼を閉じて受け入れる。彼が傾けてくれる「それ」を、与えられるままに享受する。







 神様は理不尽だ。
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