シンク&アリア④
好きだとか愛してるだとか。そんな言葉は気持ちが悪いだけだった。表面上の愛欲で、その実自分を哀れみ可愛がりたいだけの言葉。結局誰もが自身を慰めるために他人を求めるだけだ。そこに「好意」も「愛情」もありはしない。
でもそんな言葉でアンタをボクに繋げるなら幾らだって吐いてやる。アンタがボクに吐いた甘言の数だけ、それ以上でも。言葉は利用するものだ。目的のために使うもの。何かを伝え合うためのものじゃない。
この感情が一般的に言われる恋愛感情なのかなんて知らない。知るわけがない。なんだってよかった。醜い欲の正体なんて問わない。ただアンタが欲しい。アンタの全部が欲しい。ボクに繋いで、逃げられないようにしたい。ただ、手に入れたい。
好きだと。アンタがボクに囁いた。その瞬間に自身の胸が騒いだのが分かった。心臓が一際鳴って、鼓動を止めるのかと思った。それから苦しさを覚える。渇きに、飢えに、そんなものまで足されてしまった。
愛してるとアンタが囁いた。その響きは奇妙に届いて、他の言葉と異なって聞こえる。まるで特別な意味が込められているかのように思えて、そんなものは錯覚に違いないのに忘れられない。手離せない。その瞬間の甘やかな香りが。
だから、ボクもその言葉を囁く。アンタが口にするそれらは確かに甘言で、ボクにとって意味があった。なら、ボクがアンタに囁いたって意味がある筈だ。言われる側が乱されるなら利用できる。言葉は目的のために使えばいい。ボクの言葉でアンタが乱されるなら、それだけで口にする価値がある。
「好きだ」
気持ち悪い。
「愛してる」
気持ち悪い。
馬鹿馬鹿しい。こんな言葉に呪われるなんて、愚の骨頂だ。脆くて、弱くて、愚かしい。呼吸を奪われて、形を失う程に溶かされて、自分というものを失ってしまえ。ボクに縋って、泣いて、離れられなくなればいい。アンタの全部が、ボクの手の中に堕ちてくる。
ボクの「好意」が。ボクの「愛情」が。
アンタを深く冒してしまうことを望んでる。
黒く。
暗く。
毒のように。
囁いて。
蝕んで。
甘やかに、その息を止めてしまえ。