シンク&アリア④
「ん……」
ベッドに押し倒され、唇を重ねる。触れ合うだけのそれはすぐに深くなり、咥内をまさぐった。
「……は、」
抵抗はしない。寧ろ、求めるように動いた。交換される熱が心地好い。一つに溶けてしまえそうだ。
「は……随分積極的だね」
「そう、かな」
「自覚ないの?」
問われるが上手く答えられない。キスをしただけなのに、頭の中がふわふわしていた。すっかり心地が良くて後先が考えられない。
指先を露になっている彼の胸に沿わせる。それに触れて軽く撫でれば、シンクは表情を僅かに歪めた。
「……煽ってるの?」
「……そうかも」
「後悔するよ」
「しないよ」
断言する。ボクが後悔するようなことは、彼はしない。そう信頼してる。シンクは少し苦しげな顔をしてから、ボクの寝衣に手を掛けた。するすると器用に脱がせてしまい、あっという間に肌が晒される。
上の下着も一緒に強奪され、胸に外気が触れた。少し体を震わせれば、彼は意地悪に笑う。
「寒いの?」
「ちょっとね」
「なら、温めてやらないとね」
彼の手がボクの胸を優しく包む。掌全体で刺激を与え、少しずつ慣らしてくれる。息は漏れたが、羞恥はあまりなかった。既に意識は快楽に溺れたがっている。
空いている方の手が肌を撫でる。腹部や脇に熱を与え、体のラインをなぞる。そうして触れられている内に安心が与えられ、心地好さが増す。
「ふ……、」
やがて胸のそれに指先が触れ、いつものように優しく刺激が送られてくる。焦らすような触れ方に声が漏れ、身を捩る。
ふと、息が掛かった。まだ慣らされていない方の胸。その突起に熱い舌先が触れる。
「あっ……!?」
突然の刺激に声が上がる。いつもと感覚が異なる。戸惑っている内に口に含まれ、遊ばれる。両の胸から与えられる刺激が気持ちが良くて、快楽をどこかに逃がしてしまいたい。
シンクとの触れ合いはもう長い。快楽を教えられた体は従順で、胸から送り込まれた刺激に下腹部のその下が疼いた。触られている訳でもないのにそこに「快」が集まって、脚を閉じてしまう。
腰が逃げ始めたボクに、シンクはまた笑った。
「すっかり覚えたみたいだね。これが『気持ちいい』って」
「……ぅ」
「はは。ボクに教えられた通りに体が変わっちゃうんだ……従順に、素直に……淫らにさぁ」
「ひぅ……!」
指先が閉じた脚の間に潜り込み、下着の上から中心に触れる。熱が集まり始めて半端に膨らみ始めたそこ。軽く圧すように断続的に刺激が与えられる。
「あ、あ、あ」
波が起きて、脳が揺らされる。気持ちが良くて、でもまだ足りなくて。
「気持ちがいい?」
「……ん」
「ちゃんと言ってみな。そうしたら、もっと可愛がってやるから」
囁かれる。分からない。でも、もっと。
「気持ちよく、して」
「───は。仰せのままに」
指先が滑る。そこを撫で、通りすぎ、下着をずらして潜り込んだ。男性器を迎えるための穴。その入り口へ緩い刺激が与えられる。
「あ……や。やだ……知ら、な」
「すぐに分かるよ」
指先が、入り込んでくる。内部に生じる熱と、違和感。ゆっくりと中を探り、撫でられる。
「あ、ぅ」
「キツいね。アンタ、自分で広げたりしたことないの?」
「ない、よ」
「仕方ないな……幸いよく濡れてはいるし、そう時間はかからないだろ」
「……?」
指先が中を弄る。何かを探すように動いて、不意に触れたところから「快」の刺激が上がってくる。腰が動き、体が震える。
「あっ……!」
「ここがイイんだ?」
「やめ、あっ」
シンクは触れ方を変えてくる。撫でたり、圧したり、弱い刺激を与えたり。その度にボクは腰を震わす。体の外から生じるものと、内部に生じるものでは違う。より深く快楽が体を貫いていく。
「やだ、やだ、ぁ」
「その割にここは嬉しそうだけど?」
「知、らな」
「もう一本くらいなら入るかな……痛かったらいいなよ」
「え、……あっ」
入ってくる。認識していなかったけれど、さっきまで入ってきていた指の数は一本で。それが二本になる。痛くはない。でも違和感が凄い。
「ぅ……ふ、ぅ」
「ホラ。ゆっくり動かしてやるから、意識しな」
「……ん」
応えれば、シンクはゆっくりと二本の指を動かした。それがどういう意味のある行為なのかはなんとなく分かる。濡れている、という言葉の通り音がして、僅かに羞恥があった。
「ん……ふ、ぁ」
不思議なことに痛みよりも緩やかな「快」が送られてくる。それは彼が優しくしてくれているからで、傷付けないように気を付けてくれているからだろう。
時折シンクの指先は狙ったように「イイ」所を撫で、強い「快」が生じる。その度に身を捩りながら声を大きくしてしまう。彼の掌の上で転がされるように、ボクに選択肢なんかない。
「そろそろこっちも触ってやらなきゃね」
「あっ……あ、や、ぁあ!」
指を中に入れて奥を責めながら、別の指が下着の上から膨らみを刺激した。そこはすっかり熱を溜め込んでいて、少しの刺激でも意識が飛びそうな快楽が生じる。
前後、別々に与えられる刺激。下半身に集中するそれは、さっきまでの比較的緩やかな「快」とは違う。駆け上るようなそれに体が震え、頭の中が真っ白になりそうになる。
でもその前に刺激が弱くなる。ボクの様子に気付いたシンクが触れる力を変えていた。心地いいのにもどかしい波が押し寄せ、自分から刺激を求めて腰を揺らしてしまう。
「足りない?」
「ぅ……」
「言ってみなよ。どうして欲しいか」
わざとだ。わざと、彼はそういう言葉を選んでいる。聞きたいのだろう。羞恥に震えながら快楽を求めるボクの懇願を。でも今のボクは彼が思うより余程快楽に溺れていて───シンクが触れてくれることが、悦びに変わってる。
言葉は勝手に滑り落ちる。
「だめに、して……シンクの、手で」
「───ホント。煽るのが上手いよね」
彼は少し忌々しそうに顔を歪めて、でも希望は叶えてくれる。前後で同時に与えていた刺激を強め、快楽をはしらせる。それは待ち望んだように体を駆け上がり、脳まで至った。
「あ、ぁあっ───!」
腰から下を一際強く震わせ、次いで内部に痙攣が起きる。まだそこにはシンクの指があって、その形をしっかりと伝えるように躍動する。
いつもよりもその時間が長く、深く体が快楽を得たらしい。心地好さと余韻が強い。やがて、熱いものが垂れ落ちるのを感じながら力を失った。
ずるり、とシンクの指が逃げていく。下半身はもう動かない程の怠さを覚えていて、頭の中も空っぽだ。心地好さに包まれて意識を手放してしまいたい。
でもボクはゆっくりと体を起こした。どうにか見ると、シンクが自身の指についた液を舐め取っているところだった。艶やかな舌に絡め取られ、ボクの体から作り出されたものが飲み込まれる───胸の奥が妙に疼く。
「……なに?」
妖しい色を持っている千歳緑の瞳がボクを見やる。その体に近付いて、服の上からそれに触れた。知識として知ってはいるけど、まだ見たことはない……男性器。
「っ……なに、してる」
シンクのそれは大きくなっている。服の上からだって分かる。それを緩く刺激するように撫でながら、問いに答える。
「いつも、ボクばっかりだから」
「当たり前でしょ。約束は『ボクがアンタに触れること』だ。アンタがボクの手伝いをする必要はない」
「でも、ホントは挿れたいんでしょ?」
「………………」
シンクは否定しない。ただボクに撫でられて、苦しげに表情を歪めてる。その場所は今でも熱を持っている。
「挿れるのは出来ない。だからせめて、手伝わせて」
「……自分でやるよ」
「シンク」
名前を呼ぶ。呼びながら中に手を潜り込ませた。服の下で苦しそうにしているそれに、直に指を這わせる。
「っ……やめ、」
「どうして?」
「……アンタに、汚いものを見せたくない」
「ボクは散々恥ずかしいところを見られてるのに?」
「アンタは綺麗だよ。乱れても」
「同じだよ。君と同じに、欲に眩んでる」
そっと撫で続けながら言葉を重ねれば、やがて彼は苦しげに息を漏らして……自身の腰から服をずらした。途端それが姿を現す。ボクが今の今まで撫で回していたもので、初めてみる男性器。……想像より、大きい。
「わお……」
「まじまじと見ないでくれない?」
「いやだって……これが入るんでしょ? ホント?」
「挿れてみる?」
「それは心の準備が欲しい」
思わず答えれば、シンクは動きを止めた。少なからず衝撃を受けた顔をしていて、慎重にボクに問う。
「準備が出来たら……いいの?」
「……分かんない。まだ、どこまでが良くてダメなのか、よく分からないんだ」
本音だ。ボクはシンクが好きで、こういうことをされたって嫌じゃない。ただそれが恋愛感情なのかと言われると違うというだけ。その関係に、どこまでを許していいのかなんて誰も分からない。
「触っていい?」
「散々撫で回しておいて今更聞くの?」
「ごめんて」
「……手伝ってくれるんでしょ」
「! うん。勿論」
正式に許可が降りて手を伸ばす。それを握り、緩く刺激を与えてみる。
「……っ、男のモノは、女のモノと違って強い刺激の方が感じられる」
「えぇ……怖いよ、流石に」
「……まぁ、いいよ。好きにして」
「うん。好きにするね」
言質はとった。応えて、ボクは身を屈める。その先端に舌先を這わせた。
「なっ……なにして、」
「好きにしていいんでしょ」
「……どこで覚えたのさ。そんなこと」
「ちょっと勉強してきました」
色気のない会話をしている自覚はある。だから答えることをやめ、それに触れる行為へ戻った。先端を舐め、吸い、這わせる。
「ぅ……」
「裏側が気持ちいいんだっけ」
「……っ、は」
明らかに息が漏れて、「快」の刺激が送られていると分かる。そのまま先端以外も舐め、緩く食んだりして反応を見る。
シンクは苦しげにしながらも時折表情を緩めて、ボクが与える刺激を享受しているようだった。多分、上手いとか早いとかで言えば自分でやる方が余程もどかしくないのだろう。でも彼は大人しく任せてくれる。
「……最悪な眺めだよ」
「ん……なにが?」
「よりによってアンタがボクのモノを咥えてる景色が、に決まってるでしょ。優越感より背徳感が凄いね」
「君はボクを神聖視しすぎだと思う」
「したくもなるよ。アンタはどう考えても普通じゃない」
どういう意味か気にはなる。でも今は話すより優先されることがあるので、ボクはそちらへ戻った。口を開け、それを中へ受け入れる。シンクの側が大きすぎるのか、ボクの口が小さいのか。入りきりはしない。歯を立てないように気を付けながら、前後に刺激を与える。
「ぅ……は、」
苦しげな息が落ちてくる。それを聞きながら圧を増し、性的な感覚がより生じるように努力する。入りきっていない部分は掌で撫で、圧を加えた。
「く、ぁ……!」
途中から明らかに反応が変わる。多分、一定の刺激を受けると快楽のパスが通りやすくなるのだと思う。少なくともボクはそうだ。そして一度そうなったなら、刺激を与える手は緩めるべきじゃない。
「ぅ……あ、は、だめ、で、る」
「………………」
「駄目だって言って……! あ……く、ぁあ……!」
シンクが何を要求しているか分かってる。でも無視して続けた。君は飲んだのに、ボクが飲まないなんて、ない。
「あり、あ……ぁ、あっ───!」
声を噛み殺すようにして、シンクの腰がふるりと震えた。同時にそれが射出される。ボクは予定通り口の中で受け止めて、躊躇わずに飲み込んだ。それから力を失った男性器を軽く舐め、掃除をしてから口を離す。
体を起こして口元を拭った。
「苦いね」
「……ホントに……飲んだの?」
「嫌だった?」
問えば彼は躊躇いながらも首を横に振る。ただ今抱いている感情をどう言葉にしていいのか分からないようだ。罪悪感、戸惑い、優越感……その辺が妥当だろうか。どれでもボクは構わないのに。
そっと体を近付け寄り添わせる。本当はキスをしたい心地だったけど、流石に飲み込んだ直後には出来ない。だから彼へ囁いた。
「体、綺麗にしよ」
「……一緒に入る気?」
「時短になるじゃん」
「色気のない回答をドーモ」
応えるとシンクは一度ボクを引き剥がし、中途半端に着ていた服を放り捨ててしまう。そのままボクを抱え上げ、備え付けのシャワールームへ運びだす。
「自分で歩けるよ」
「大人しく運ばれてろ」
すげない。多分、運びたいから運んでる、ということなのだろう。それはきっと一種の愛情表現で……だから、ボクは抵抗しないで身を委ねる。彼がボクに与えたいと思ってくれるものを、取り零さないように。
「体、洗ってやろうか」
「二回戦始まっちゃうじゃん」
「ボクは平気だけど?」
「こっちの身が持ちません……」
結局一緒に風呂に入った結果、二回戦は……始まったかどうかはさておいて。治癒術でシンクの体にあった傷はすっかり治した。跡形もなくなって、少しはホッとする。
体を綺麗にしてベッドに戻ってから、ボクは自分からキスを送る。触れるだけの、ささやかで柔らかいもの。当然シンクは驚いた。ボクからキスをするのは、交わした約束に照らせば過剰な行為だから。
「どういうつもり?」
「分かんない。したかったから」
「………………」
「おやすみ、シンク」
目覚めた時には手を繋いでいた距離。それを抱き締め合う距離にボクの方から変えて、眠りを宣言する。
温かい、互いの体温の交換。こうして触れることに、意味は生まれつつあるように思う。それはシンクが抱く意味とは違うだろうけど……許されたい、と思う。
もし神様がボクのことを裁いても、彼のことは許して欲しい。彼に罪があるなら代わりにボクが貰うから。
触れ合う距離は、少しずつ変化していた。
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