シンク&アリア④


 最近、アリアの距離感に変化があった。

 それは例えば座る時に表れる。アリアは広い椅子を好むらしく、大体がソファに座る。触れ合う時間を持つまではボクはその対面に座ることが多かった。

 だが、触れ合う時間を持つようになってから、アリアはわざわざボクの隣に座ることが基本になった。二人しかいない時でも変わらない。まるでそこが自分の居場所だというように、当たり前に腰を下ろす。

 ボクが抱く劣情を理解できないアリア。同じものを抱けず、ボクの隣が居心地いい筈もない。それなのに、どうしてか。ボクは問いを掛ける。

「なんでボクの隣に座るの?」

「え……なんでだろ」

 アリア自身も首を傾げる。考えてそうしている訳ではないらしい。なら無意識か。無意識に、ボクの隣を選んでいる。

「隣にいたいから……かな」

「なにそれ」

「うーん。よく分かんないけど……シンクの隣がいいんだと思う。こうやって、触れられる距離にさ」

 言って、アリアは頭をボクの肩に預ける。それ程重さのない軽い寄りかかり方だった。触れているだけに近いそれ。たったそれだけが、どれだけボクの内面を乱すかも知らないで。

「シンクはボクが隣にいると落ち着かない?」

「落ち着かないよ。こっちはそれどころじゃないんだから」

「そっか」

「でも、嫌な訳じゃない。寧ろ役得だね。アンタの言う通り、いつでもアンタに触れられる」

 今だって言葉を証明するように手を伸ばしたい。肩に寄りかかる微かな重さがあるから堪えているだけだ。アリアの声に僅かに戸惑いが混ざる。

「……そんなに、ボクに触れたいの?」

「触れたいよ。アンタに触れてる時間は……特に意味があるから」

「……そっか」

 アリアは逃げない。ボクを拒絶しない。未だ理解できないその感情に居心地を悪くしているのに、自分からボクの側へ寄ってきてボクを受け入れる。本当に甘くて、弱くて、愚かしい。

 胸の内に黒い満足が広がる。捕まえて、腕の中に閉じ込めて、組み敷いて。その瞳にボクだけが映り、その声はボクだけを呼ぶ。逃げようと思えば逃げられる筈なのに、手離せないから逃げられない。何も分からないまま溺れて欲しい───ボクの欲に。

(アリアはボクのモノだ)

 誰に譲ってやる気もない。欲に塗れたこの手はすっかり触れることを覚えてしまった。手を伸ばせば届いてしまった。許されたなら……奪ってしまえ。

 深い深い、光の差さない水底。自ら沈み、繋いだこの手も沈める。互い以外の存在がない閉じた世界。そこに二人だけで。

 それはあまりに甘美な誘惑で。







 ボクは彼女の意志を手折ることすら、厭わなかった。
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