前日譚


 この世界が滅ぶと知って、遊び尽くそうと考えるのは罪だろうか。

 

 先代導師エベノスの病死で、八歳で導師を継いだ僕は世界の真実を知った。惑星預言───その中の消滅預言の存在。世界は滅ぶ。繁栄のために、存続のために始祖ユリアが預言を詠み残した、というのは全くの嘘だ。譜石にあったのは世界の終わりなのだから。このオールドラントは障気に包まれる。病が広がり、人々は死に絶えるのだ。

 世界の滅びの中に僕の終わりもあった。たったの十二歳で死ぬという預言。残り四年の命と知ったのだ。けれど、それが何だろう。世界の滅びの中ではたった一人の死などちっぽけなものだった。僕が死のうが生きようが、世界に大した影響はない。その程度で世界の滅びは変わらない。

 

 生きているとは何だ? 死ぬとは何だ。

 預言とは何だ? 従うことの意味とは。

 僕らは死ぬ。消える。生きようと、世界と共に。

 それなら、好きに生きよう。好きに死のう。

 僕の命は世界よりも先に消えるけれど、些細なことだ。誰もが不意に死ぬ。その死は全て預言に詠まれている。預言された未来。なら、僕一人の死など今更と言ってもいい程度だ。



 好きに生きるにあたって、導師という地位は丁度良かった。権力も地位もあるし、面白い遊びを提案する男も現れた。預言に固執するつまらない男もいるけれど、まぁそれくらいの汚れには眼を瞑ろう。どうせ短い付き合いだ。

 そういう意味では、導師としての生を詠まれたことは幸運だったと思わなくもない。お陰で生活にも困らなかったし、世界の真実を知ることも出来た。

 ただ、一つ文句を言うならば、十二歳で死ぬということだろうか。あまりにも生が短い。このいつか必ず滅ぶと知っている世界で、長く生きたいかと言われればそんなことはないのだけど、それでも遊び尽くすには足りなかった。欲を言えば音を立てて滅んでいく姿を見たかったのだ。世界が、人々が終わる姿を。そして、預言が壊れる有り様を。

 当たり前だろう?

 決められた未来、決められた終わり。

 面白くない。遊ぶならコレだ。

 コレを崩して、ようやく楽しくなる。

 と言っても、簡単に壊れるとは思っていない。だからこれは実験だ。遊びなのだ。僕が死ぬまでに、預言に綻びを生む。預言はちょっとやそっとでは揺らがない。歴史を修正するかのように預言に従った結果を出してくる。

 だからこそ、この程度ではきっと世界の滅びは変わらない。変わらないなら、僕は何をしてもいい。預言に詠まれていないことをしてはどうか。星の記憶に刻まれていない存在を生んではどうか。彼らが世界を覆えば? 星はどんな風に歴史を修正する?

 

 これは僕の遊び。壮大でちっぽけな計画。

 預言を贈った世界に、導師が贈るサプライズ。

 遊んでくれよ。存分に狂ってくれ。

 乱されて、予定にないと慌てふためけ。

 気付いた時には人々は星の記憶から解放されている。お前が詠んだ終わりから離れているんだ。

 全てが偽物と入れ替わることで、お前の記憶よりずっと早く人々は死ぬんだ。

 お前はそれに気付かない。気付かないままにのんびり、ゆっくりとこの世界の終わりまで歩く。



 滑稽だ。怠慢だ。油断だ。傲慢だ。

 僕は世界を欺く。預言を欺く。

 遊んでくれよ。狂ってくれ。

 始まりから終わりまでが詠まれたこの世界は。

 終わりに向かうために生まれ育ったこの星は。

 それを盲信し、滅びに進む人間達は。

 最初から十分に狂っているんだから。

 

 


 

 いつか終わる世界なら、僕が終わらせる。

 理に適った遊びだろう?
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