空音の新生


 神託の盾の本部で、僕の執務室に奴らが飛び込んできた時には眼を疑った。数日前に見たばかりのお仲間共が顔を揃えていた。

「大変だ! アリアが……」

 その言葉だけで判断するには十分だ。僕は迷わず仕事を放り出す。今の僕にとって、彼女より優先されるものはない。僕の生きる道なのだから。

「時間が惜しい。向かいながら話せ」

「あ、ああ!」

 向かう先はザレッホ火山だった。僕の捨てられた場所。嫌な記憶に眉を潜めながらも火口へと急ぐ。

 話を聞けば守護役が裏切り、モースの命令でアリアと導師を連れていったらしい。ザレッホ火山には第七譜石が置かれているらしく、それを導師に詠ませるつもりだそうだ。アリアは予備ということだろう。

 リグレットとアリエッタの生存も確認したらしいが、どうでもいい。今は一秒が惜しかった。

「イオン!」

 駆け付ければ、同じ顔をしたバカは今にも死にそうだった。それに何故か苛立ちがあって、アリアを探せばすぐに見付けられた。守護役の譜業人形を押し退けて、自由にしてやる。

「シンク……」

「……なんて顔してるのさ」

 分かりやすい喜怒哀楽なんてない、何かが抜け落ちたような顔をしていた。絶望や哀しみなんてありきたりなものすらない。ただ空虚に、全てが終わってしまったと顔に書いてある。色濃く見えるのは自分自身への失望か。

「……アリア。すみません……貴女を、側にと望んだのは僕なのに……。貴女の願いの通りに……生きましたよ」

 申し訳なさそうに、だが満ち足りた顔で微笑む顔に苛立ちが勝った。理由なんて知らない。ただ導師には今、アリアの顔が見えていないのではないか。そんな疑いが腹の底を煮えさせた。

「シンク……僕はもう少し、貴方と生きてみたかった……」

「……小言がなくなって、清々するよ」

 吐き捨てるように返す。その言葉にすら導師は満足そうに微笑んだ。その顔が、余計に神経に触れる。

「……アリアを、頼みます」

 知らない。頼みを聞いてやる義理なんてない。途中退場をする半端な奴のことなんて、すぐに忘れてやる。元々必要なんかじゃなかった。アリアが望んだから、見たくもないのに近い場所にいただけだ。お前がいなくなったって、僕は何も変わりはしない。

「アリア……僕の……愛しい……」

 声が掠れる。伸ばされた手が力を失い、命が尽きようとするのが分かった。肉体を構成する第七音素が乖離を始め、淡い光に変わる。それを苛立ちと共に睨み続けた。

 早くいなくなってしまえと念じる。側に望んでおきながら、お前はアリアを置いていく。自分に代わりなどいないと、僕に偉そうに説教したクセに。

「……やだ」

 すぐ側で、声が上がる。ぽつりと落とされたそれは、小さく繰り返される。

「やだ、やだ、やだ、やだ」

 子供が駄々をこねるように、頭を振って何度も。それでも導師を包む光は薄れることがない。アリアの願いを無視して消えようとする。顔を顰めた。───その一瞬に、彼女は動いた。

「……?」

 最初に認識したのは、ぱき、という何かが砕ける音だった。やけに耳についた音に振り返れば、アリアの手にはナイフが握られていた。何かに突き立てられていて───その何かが存在を繋ぎ止めている響律符だと気付いた時には、遅かった。

「アリア!!」

 名を叫ぶ。そんな必死な声が、自分から発されるとは思っていなかった。手を伸ばす。だが、そのどちらもが届かない。瞬間的に大量の音素が彼女を包み、僕は弾き飛ばされた。

「うわっ!?」

「何!?」

 そうなってからようやく、事態に気付いたらしい奴らが声を上げた。僕は受け身をとって奥歯を噛む。どうして、と胸の内で問いがあった。それが事態の変化に気付くのが遅れた自身へ向いたものなのか、唐突に終わりを選択した彼女へ向いたものなのかは分からない。

『──────』

 暴風のような音素が晴れ、何かがそこに現れる。それは人の形を留めていた。否、皮肉なまでにアリアの形を留めていた。異なるのは纏う空気と髪色か。

 数多の音素を従えて宙に立ち、解かれた髪は雪のように白い。それが何によるものかは分からない。ただ一帯の音素濃度が急激に上がったようで、呼吸が苦しく感じられた。同じ空間にいてはいけないと本能が訴える。火山にいるというのに、冷えた汗が伝う。

「これは……!」

「何が起きましたの!?」

 その問いに答えられるのは、不本意ながら僕だけだろう。だが胸を占める焦燥が、その選択肢を僕に忘れさせた。違う、何かの間違いだ、どうにかしなくてはいけない。そんな焦りに思考が侵される。

 アリアが眼を上げた。うんざりする程に向けられた頑固な意志などどこにもない。そこに在るのは空虚な貌。感情の窺い知れない朱の瞳に、緊張で喉が鳴る。

「イオン!?」

「どうなってるの……!?」

 聞こえた名にちらりと眼を向ければ、音素乖離を起こしていた導師の体が奇妙な現象を起こしていた。離れた音素が再度集束し、再構成される。

 音素の輝きから現れたのは、音素結晶にしては固定されて見える何かだ。半透明のそれは中空に浮き、滑るように移動した。変異したアリアの掌に収り、ひと撫でされる。

 表情は変わらない。無機質な伽藍の瞳だ。だがその仕草がまるで結晶を慈しむようで、その些細な筈の違和感に胃が不快感を訴えた。───気持ちが悪い。

「オイオイ……誰か説明してくれよ」

「ひ、ひぃぃぃ!」

 冗談はやめてくれと言いたげな呟きに、次いでモースが悲鳴を上げた。気圧され、背を向けて逃げ出す無様な姿にアリアが動く。

 朱の瞳がそれを映し、片腕が持ち上がると真っ直ぐに人差し指が向けられた。まるでそれを選んだと示すように。

 ───直後、空間が歪む程の音素がその指先に集められ、小さな譜陣が幾重にも展開された。

「ガイ!」

 死霊使いの声に世話役が射線へ飛び込む。黒い稲妻が空間を裂き、指先から放たれたそれは一切の迷いもなくモースの背へ向かう。剣閃がそれを斬り裂いた。

「大丈夫か、ガイ!」

「なんとかな……」

 苦笑いが返るが、実際は紙一重だ。剣は触れた箇所から分断され、既に使い物になる様子ではない。どんな力で破壊されたのかは一瞥程度では判別がつかなかった。

 ついでにモースの背も探すが見える範囲にはない。逃げ足だけは立派なようだ。舌打ちをする。

「ジェイド! どうなってるんだよ、これ!」

「分かりません。音素濃度が異様に高い……彼女に吸い寄せられているのか……?」

「響律符を砕いたんだよ、あのバカ」

 あまりに滑稽で聞くに耐えない。僕が早々に答えを与えてやれば、ヴァンの妹が非難するように声を上げた。

「なんでそんなこと……!」

「バカの考えることなんて知るわけないよ!」

 思わず声を荒くした。本当に知らない。何を考えてそんな自殺行為をしたのか。あの響律符はアリアを化け物にしないための命綱だった。それを砕いて化け物になって、何が変わるというのか。何がしたくて人をやめたと言い訳するつもりか。

「ではあれは、以前仰っていた音素暴走を起こしているのですか!?」

「そうなりますね。ですが、おかしい。先程の攻撃は……」

 死霊使いが何かを言い掛ける。だがその最中、アリアが動いた。片手が頭上へ掲げられ、真っ直ぐに天を指す。

 嫌な予感というのは当たるもので、僅かな瞬きの間に頭上一面に見慣れない譜陣が敷き詰められた。その数二十は下らない。黒い譜陣が重なり合って蠢く様は、文字の集合のようで生理的な嫌悪を抱かせる。

「お、おい……これマズいんじゃ……!」

「ティア! ユリアの譜歌を!」

 死霊使いの声に既に詠唱に入っていたヴァンの妹が応える。身を守る障壁が張られるのと、黒い稲妻が一斉に空間を埋めるのは同時だった。

「……っ!」

 悲鳴も上がる中、膝をついて衝撃に耐える。ユリアの譜歌というだけあって命拾いはしたようだが、障壁を揺るがした霹靂は空間を震わせた。砂埃が視界を遮り聴覚も一時的に麻痺する。それでも動くものを見付けようとすれば、それは音もなく突然に目の前へ現れた。

「──────」

 呼吸が止まった。あまりにも近い距離にそれは在る。雪のように白い髪に、血のような朱の瞳。綺麗だと見惚れる人間的な感覚と、気持ちが悪いと訴える動物的な拒絶が僕を襲う。

 それは身を屈め、ゆっくりと僕の頬へ手を伸ばした。触れる指先はあまりに温度がなく、生きている心地がしない。

『シンク』

 耳朶を打った声だけはいつも通りで、伽藍の瞳が笑みを形作ったのが見えた。その顔は確かにアリアのものなのに、本能が受け入れられない。───吐きそうだ。

「くそっ!」

「いけません、ルーク!」

 声が聞こえる。剣を鞘から抜く音と、駆けてくる音。伽藍の瞳が表情を落とし、そちらを向いたのが分かった。マズい。その手が上がる。

 僕の体は動かない。まるで何かに支配されたように離れられない。瞬きをしているのかも分からなかった。心臓の音が、煩い。

『───人間は、要らない』

 冷酷な囁きと共に黒い稲妻が迸る。悲鳴が上がって大きな音も光もあったと思う。だが僕は眼を逸らすことが出来ず、目の前に在るアリアだった何かを見上げ続けた。それは繰り返す。壊れてしまったように、何度も。

『人間は要らない』

『こんな世界は要らない』

『大事なものを』

『奪われる前に奪わなきゃ』

『それが審判』

 その朱に在るのはどんな意志か。僕には見えない。分からない。無機質な瞳が世界を映す。気持ちが悪い。コレはアリアじゃない。僕の手を掴んだアリアではないと繰り返す。

(───それでも、アリアだ)

 唾を飲む。動かない体を叱咤する。彼女をこのままには出来ない。世界なんて滅べばいいが、彼女が我を失うことは許せない。

(この手を掴んだクセに)

 ぎり、と奥歯が鳴る。渇いた喉を無理矢理に震わせて、小さな痛みと共に血の味がした。それが事実か錯覚かも分からない。だがお陰でようやく息が吸えた。僕は痛みを声に変える。

「───アリア」

 ぴたり、と。彼女は攻撃を止める。顔がこちらを向き、視線が交わった。そこに戸惑いのようなものが見えて、あくまでアリアのフリを続けるそれが耐え難い。込み上げる吐き気に押されるように言葉が出た。自分の声にどんな感情が乗ったかなんて、分かるわけもない。

「帰るよ、アリア」

『……どこに?』

 返った問いは幼くすら聞こえる。だが同時に責めるような響きを伴っても聞こえた。帰る場所なんてないと言いたげに、無機質な瞳が僕を見下ろす。その場所は今失ったばかりではないかと、幻聴が耳に触れた。

『テセは、死んだ。死んだ人間は、喋らない。願わない。祈らない───帰れない』

「……だから世界を壊そうって?」

 感情を伴わない瞳。その理屈はあまりに極端が過ぎて嗤ってしまう。導師を失って世界を壊すなんて、頭のネジが幾つ飛んだのかも分からない。そして「仲間」すら攻撃対象となった中で、自分だけが彼女の庇護下にあることが余計に嗤える。何故、自分が選ばれたのか。

『一緒に行こう。全部壊せば、ボクと君しか残らない』

 細められた眼が示す表情は何か。考える気なんてない。形だけ在ったって意味がない。思考を放棄して、アリアのフリが下手な化け物に手を伸ばす。嫌悪感を植え付ける白と朱に触れると、その体を引き寄せ胸に抱いた。体温がない。それが彼女は既に人ではないと知らせるようで、僕は腕の力を増した。

(……逃がさない)

 この手を掴んだのはアリアだ。今更逃げるなんて許さない。壊れて終わりにするなんて認めない。

 それは一切の抵抗をせず、大人しく僕の腕に捕まった。バカだ。そんなところはアリアのままだ。何故か胸が痛くて、僕は耳元で呻いた。

「帰る場所なんてどこでもいい。アンタが連れて行ってくれるんでしょ」

『なら』

「言った筈だよ。手離すなって」

『手離さないよ』

「……ああ、そうだね。でもそうじゃない」

 アリアだった何かは僕の言葉を理解しない。同じではない。僕がアリアに伸ばした手と、コレが僕に吐いた甘言は違うものだ。

 離さないという言葉の通りに僕を連れていこうとする。僕の依頼を覚えているから僕を殺さない。だから僕も騙されない。これがアリアの意志だなんて笑わせる。

(僕を転落させた意志は、こんなものじゃない)

 頑固で、融通が利かなくて。馬鹿力で、暫く掴まれていた手が痛みもした。眼を閉じれば簡単に思い出せる。

 僕を映した水色の瞳には理解を越えた自信があって、願われた。その意志に僕は命を繋がれたんだ。理不尽に、暴力的に、絶対的に。

 無防備な背に譜陣を描き終わり、答えを提示する。今ここで、僕が身勝手に引き留める理由を。

「アリアが僕を引き上げたんだ。───勝手に堕ちることは許さないよ」

『──────』

 背の譜陣へ複雑な術式を組み込む。音素の輝きが一層増して、アリアの体を包み込んだ。肺を叱咤し空気を吸い込む。

「手伝え! 死霊使い、ルークレプリカ!」

 僕の叱責に弾かれたように二人の人物が駆けてくる。アリアの反応はない。近付く人間に攻撃をする様子も、僕の手を払い除けることもしない。ただ大人しく僕の腕に収まっている。

「な、何だ!?」

「見て分からない? もう一度抑え込むんだ」

「……なるほど。譜陣で彼女の体内の音素を逆流させ、術式に流し込んでいるのか」

 この方法はアリアの師の置き土産だった。難解な術式に気力も体力も削られるが構わない。さっさとこのバカの眼を覚まさせればいいだけだ。

「今のこいつは音素を取り込みすぎてる。それを利用して僕が術式を再起動させる。死霊使い、アンタは譜陣を代われ。アリアみたいに音素を操れなくたって、こうして直接譜陣と術式を繋げば音素の流れを操作するくらい出来るでしょ」

「ええ。ですが、私に扱えるのは第六音素までですよ」

「分かってるよ。そのためにそこのレプリカを呼んだんだ」

 話が自身に及び、ルークレプリカが僕を向く。真っ直ぐと自分のやるべきを知ろうとする、悪くない顔だ。

「俺はどうすればいい?」

「お得意の超振動だ。アリアが取り込む第七音素を再構成しろ」

「はぁ!? 無茶だろ! 人の体なんだぞ!?」

「出来なきゃ仲良く死ぬんだね」

「っ……くそ!」

 手が翳される。途端、術式に流れ込む音素が安定した。自信のない顔をしておいて、やるからにはやるんじゃないかと嗤った。

 僕は糸を繰る様に音素を絡ませる。ともすれば乱雑になりそうな術式を、一切の齟齬なく結び上げ強引に鍵へ接続させる。

 ───瞬間、世界が瞬いた。強烈な光が視界を焼くが、害はない。音素の輝きは散り、アリアの体は力を失って僕に預けられる。姿は元通りで、意識はない。自分がホッと息を吐いたのが分かってしまった。

「こ、殺すかと思った……」

「大丈夫か!?」

「何が起こったの?」

 ルークレプリカがへたりこみ、他の奴らが駆け付ける。ヴァンの妹の疑問に答えたのは死霊使いだ。

「暴走して過剰に取り込まれた音素を使い、彼女に施されていた封印を蘇らせたんです。かなりの力業でしたが……私とルークはその補助を。術式はシンクが知っていました」

「シンクが? なんでまた……」

「グランコクマであの胡散臭い師匠に叩き込まれたんだよ。絶対このバカはまた封印を破るってね」

「何時の間に……」

 何時、と問われればアリアが目覚めるまでの空白の時間だ。あの自分勝手な師は自分の弟子の不始末を付ける存在として、勝手に僕を選んだ。頼んでもいないのに。それは僕が不本意にも適任だったからか───或いは、弟子の無茶同様に見透かしていたのかもしれない。僕がこの師譲りの無茶苦茶の側から離れられなくなることを。何となく不愉快で、鼻を鳴らす。

「今回の暴走は、響律符を壊して術式に穴を開けたようなものだ。鍵そのものは壊れちゃいない。それに助けられたね」

「完全に壊れたわけじゃなかったから復元が出来た……ってことか?」

「その認識で構わないでしょう」

 しかし、と死霊使いが続ける。

「この術式を用いるには術者が第一から第七までの、全ての音素を扱える必要がある筈です」

 向けられた鋭い赤に溜め息を吐く。そんなことか、と疲労に呆れが混ざった。部外者が知らないのも道理だが、今更が過ぎる。さっさと街に帰って休んでしまいたくて、親切に答えてやった。

「知らなかった? ダアト式譜術は七属性の音素全てを使うんだよ」










*****










 ダアトの教会に戻り、無茶をしたバカをベッドに寝かせる。お仲間共はアリエッタの様子を見に行くと立ち去ったが、そちらについていく理由もない。

(……どうでもいい)

 胸の内でわざとらしく唱えて、それを眺めた。僕の手に収まるのは、導師から再構成された涙型の結晶だ。これが何なのかは、結局誰にも分からなかった。思考は自然と、これを作った張本人へと流れる。

「アンタ、ムキになると手がつけられなくなるよね」

 意識がない人間に聞こえる筈もない。聞こえないと分かっているから言葉はするりと出ていった。

 駄々っ子で、癇癪持ちで、衝動的で。頑固で人の話は聞かないし、勝手に泣いたり怒ったりで忙しい。冷静ぶって冷めた人間だと自分では思い込んでいる節があるけれど、僕からすればそうではない。

 矜持が高くて偉そうで、意地を張れば地核にまで飛び込んでくる。考えなしの、とんでもないバカで……とんでもないお人好しだ。僕なんて死なせておけば良かったのに。

「導師が死ぬからって、世界を壊そうなんて極端でしょ。その結果でアンタまで死んだらどうするつもりだったの?」

 責める声に返事はない。

 ずっと、死ぬということがどういうことか、僕にはよく分からなかった。今だって分かっていない。ただこの苦々しい生から解放される。それしか思っていなかった。けれど、

「……イオンは死んだんだよ」

 言葉が苦い。満足そうな笑みだった。成すべきを成したのだと、誇るような死。理解が出来ない。何故あんな顔が出来る。終わるだけなのに、ちっぽけに世界の隅で消されるだけなのに。お前の意志程度、世界にとってはなんでもなかったのに。

「バカだよね。詠まなくていい惑星預言なんか詠んじゃってさぁ。ヴァンの妹の障気まで引き受けて、やってやったみたいな顔して……使い捨てられただけのクセに」

 鳩尾の辺りに不快感があって、そこを掴む。ザレッホ火山に捨てられた僕と、導師として生かされた七番目。結局はどちらも利用されるための道具でしかない。道具として生き、道具として終わる。好き勝手に生き、他人なんかどうでもいいアリアとは雲泥の差だ。

「そのバカのために、もう一人バカが死のうとしてさぁ……なんなの、アンタ達。そんなに死に急ぎたいの? なら一人で勝手に死んでよね。見えるところで死なれたら迷惑だ」

 七番目の死に自分が何を思ったのか分からない。何かを願ったり、祈った覚えもない。哀しいだとか悔しいだとか、アリアみたいに行動に移すこともなくて。ただ、消えていく姿に無性に腹が立ったことだけは覚えている。響律符を粉々にしたアリアの気持ちだって分からない。どいつもこいつも、勝手だ。

「……迷惑なんだよ」

 考えることも嫌になって、床に腰を下ろす。ベッドを背もたれ代わりにして、ゆっくりと息を吐いた。生きていることがこんなに煩わしいことだったなんて、知らなかった。心の中でそう溢して、僕は眼を閉じた。



 目が覚めたら、このツケは払ってもらう。
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