400字小説

告白(火アリ)

2024/10/13 19:32
火アリ
 私が風呂から上がるとソファで寛いでいたはずの火村は眠っていた。気持ち良さそうに寝息を立てている姿を見てしまうと起こすのも憚れた。風邪ひかないようにと寝室から毛布を持ってきて掛けてやる。
 あまりにも穏やかに眠っているものだから、このまま彼はもう目醒めないような錯覚を憶えてしまう。――今なら。今だけは。私はソファの前に膝をついて火村の胸に耳を押し当てた。規則正しい心音に目を閉じる。
「君が誰かと付き合って家庭を持ったら、もうこんなふうに俺の前で眠ったりせんのやろうな。飲みに行く回数も今より減って、俺もお前んに気軽に遊びに行かれんようになって……考えたら寂しいなあ」
 彼の幸せを誰より願いながらそこに自分がいないことに酷く落ち込む。我ながら随分勝手なものだ。
「好きや。ずっと好きやった」
「それは奇遇だな」
 突然聞こえた声に慌てて身を起こすと「俺も好きだって言ったら、どうする?」火村が悪戯っぽく笑っていた。

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