400字小説

愛と毒の類似性(火アリ)

2024/10/08 17:30
火アリ

 湿度を含んだバリトンが鼓膜を揺らす。見上げる火村の顔は切なそうな、どこか思い詰めたような表情で深い色の瞳は涙に濡れていた。一瞬、彼が泣くのかと思って精悍な頬に手を触れると唇が重なった。薄らと香るキャメルのフレーバーに今でも信じられない思いがする。キスをしている、あの火村と。
 素肌に触れる掌はやたら熱くてその手付きは酷く優しい。自分へ差し出された愛を確かめるように彼の手が私の輪郭をなぞると躰の奥から滲み出るような甘い感覚が湧き起こる。ただ肌を撫でられているだけなのにこんなにも気持ち良いなんて。これから先にある行為を思って戦慄する。この男に全てを暴かれてしまったら一体私はどうなってしまうのだろう。きっともう戻れない。それがまた恐ろしい。
「アリス?」
 不思議そうに瞳を瞬く火村の頭を掻き抱いて口付ける。――毒を食らわば何とやら。
「最後まで一緒におって」
もちろんアブソルートリー
 いつかのように答える火村に私は笑った。

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