Draw a Heart

1.

 さく、さく、と白雪を踏み締める。吐く息が白く凍る。凍てついた空気が肺を充たす。ローは鬼哭を強く握り締めて重たげな曇天を仰ぎ見た。雪が降っていた。
 雪は嫌いだ。白くて綺麗で冷たくて音がしなくて――まるであの人みたいで。
 ローの意識は否応なしに十年前のあの日へと連れ戻される。無力だった子供の頃。優しい魔法をかけられて宝箱の中に閉じ込められた。不器用な笑顔で言われた『愛してるぜ』。それから宝箱の中で聞いた無慈悲な五発の銃声。積雪を染める真紅の中に倒れていたあの人の姿。喉が割れるほどに泣いた。痛みに嘔吐いて、喪失に打ちのめされて。
 躰の奥で疼く痛みにローは指先の色が抜けるほどに愛刀を握り込んだ。唇を噛み締める。もう珀鉛病は治ったのに。まだ、こんなにも痛い。
「……痛ェよ、コラさん」
 いつかのように大丈夫だと笑いかけて欲しいのに。
 もうあの人は、どこにもいない。
 音もなく空から白い欠片が夥しく舞い落ちてくる。熱のない純白に埋もれてしまえば、この身を苛む痛みも消えるのだろうか。
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