かくれんぼ
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なまえが意識を取り戻したと連絡が来たが、それから数日間はICUで経過観察となり久しぶりになまえの顔を見れたのは1週間後のことだった。
「あ!デクくん!勝己!来てくれたの!?」
出久と学校を休んで病院まで行く道中、アイツは病気のことを聞いてるだろうからなんて言葉をかけたらいいのか、衰弱しきってるだろうからと、なまえのことを考えて初めて足取りが重かった。
予め個室に移ったと部屋番を聞いてたから、出久と2人で意を決して扉を開けると拍子抜けしちまうようないつもと変わらない様子のなまえが嬉しそうに俺たちを出迎えた。
「なまえちゃん体調は大丈夫なの!?3日も意識なかったんだよ!?」
「この通り!私もそれ聞いてびっくりしちゃったんだよ!」
扉を閉めると「どうぞどうぞ」とベッド脇のイスに座るようなまえに促されてそれに従う。
あのまま目を覚まさねぇんじゃねぇかって、そんな考えたくもねぇことがずっと頭にチラついてた。
ヘラヘラと緊張感のない笑顔を見て、心の底から安心した。
「…勝己、泣かないで」
「は、誰がてめェみたいなバカ女のために泣くかよ!」
「うん、心配かけてごめんね」
なんで泣いてると思ったんか。実際には涙なんざ出てもいなかった。
…いや、堪えた。好きな女の前で泣くなんてありえねぇだろ。
切なそうなツラして笑うなまえを見て、コイツは全部聞いちまったんだなと悟った。
じゃあ、なんでそんな笑っとるんだ。
お前もう、1ヶ月……。
ああクソッ!!
いっそ喚き立ててくれた方がよかった。なんでなまえは何でもねェように気丈に振舞っとんだ。
てめェがそんな強くもねェことも知ってる。
俺はお前に何をしてやれる…?
「もう!やだよ、そんな顔したら」
今度はムスッとした顔をしながら俺と出久の頬を片方ずつつまんで来やがった。
出久はともかく、さっきから俺は表情は変えてねぇはずなのに、まるで心ン中見透かされとるみてェだ。
「大丈夫だよ、私頑張るから!」
そう言って屈託のねェツラで笑うなまえがあまりに眩しすぎて、見てんのがつらくなって、頭から離れなかった。
それから毎日病院に通った。
「訓練もあって大変なんだから毎日来なくていいんだよ」と言われたが、俺がそうしたかった。
1分1秒でも長く、なまえの隣にいたかった。
それに俺にしてやれることなんざ、会いに来てくだらねぇ話して笑わせてやることくらいしかねェ。
余命宣告されてから、なまえは1度だって泣いたり、弱音を吐くことはなかった。
それどころか前よりずっと笑うことが多くなったように思う。
だがそれでも病魔は残酷にもなまえの命を削っていく。
日に日になまえの体は衰弱して来て顔色も悪い。
それでもなまえは明るいままだった。
「わぁ…勝己だ…雨降ってて、濡れちゃったでしょ?」
ベッドの背もたれを起こし、それに寄りかかりながらも俺を視界に入れると嬉しそうに笑う。
もう体を自力で起こすことすらキツいらしいが、それを1度だって言わねぇし、それを感じさせようともしなかった。
「私頑張るから」その言葉通り、1ヶ月もつかわからないと言われた命を1ヶ月を過ぎた今も繋ぎ止めてる。
「余裕だわ。それにもうすぐ上がりそうだしな」
「そっかぁ。虹出るかなぁ」
「どうだかな」
荷物を置いていつものようにベッドの脇にある椅子に座ると穏やかな表情で俺を見てた。
それはまるで名残惜しむようでムカついた。
「ンだよ、そのツラ」
「…かわいい?」
「可愛くねェよ。ヘラヘラしとる方がまだ可愛げあるわ」
「うへー、厳しいなぁ」
やっといつもの緊張感のねェツラ見せやがった。それがお前だろ。
少し窓の外に視線を移してからまた俺に視線を戻した。
「幼稚園の時のかくれんぼ、覚えてる?」
「あ?お前が建物の下隠れて寝とったやつだろ」
「あはは、そうそれ。あの時ね、勝己が見付けてくれて嬉しかったの今でも覚えてるよ」
「そうかよ」
いつからなまえを好きなんかもわかんねェくらい、ずっと一緒にいる。
その出来事ひとつひとつ、忘れるわけねぇだろ。
「高校の志望校のことで喧嘩しちゃった時もさ、勝己は私を見つけてくれたよね」
「人のことぶん殴ってどっか行くヤツの機嫌取りはめんどくせぇんだよ」
「あれはさぁ、勝己が悪かったよー」
「……あん時はクソみてぇな時だった」
「自覚あるんだ」
呼吸もしづれェんだろうが、それでもなまえは楽しそうに話して笑う。
ただ座って話をする、それだけのことがこんな苦しくて、大切で、ずっと続けばいいとすら思う時が来るなんて思わんかった。
「お父さんと大喧嘩して家飛び出した時も、見付けてくれたのは勝己だった」
「てめェの考えることがそんだけ単純っつーことだわ」
「…勝己の顔見ると安心する。大好きだから」
なまえのいう「大好き」は「幼馴染として」で俺と同じ好きじゃねェこたァわかっとる。
でもやっぱそう突きつけられると痛ェわ。
「勝己と一緒だと、楽しい。いつも笑ってられた」
「なんだそりゃ」
「…勝己がNO.1ヒーローになるの、見たいなぁ」
なんなんだよ、さっきから。
もうやめろ。これで最後みてぇな。
ざけんな、そんなこと俺が許すわけねぇだろ。
「すぐになってやるから隣でちゃんと見てろ」
「うん、そうだね…」
その表情は笑っとんのに苦しくて、強がって泣かねぇようにしてんのが丸わかりだった。
もうそんな力も入んねぇはずの手は強く握られてる。
「…あのね、勝己。嫌がること知ってるんだけど、抱きしめてほしい」
「は!?しねェわ!何言っとんだてめェは!」
「勝己はいつも頑張ってるからね、抱きしめてくれたら私もっと頑張れるよ」
真っ直ぐに俺を見るなまえに他意はねぇことはわかっとる。
好きな女に抱きしめろって言われてなんとも思わねぇ男なんざいるわけねぇだろ。
「ん」と力の入らねぇ体を起こしながら腕を広げて待ってやがるなまえに舌打ちをする。
「…っだぁ!一度だけだボケ!!」
「うん」
なまえを抱きしめると柔らかいなまえの匂いがしたが、倒れた時に抱きしめたよりもずっと痩せちまって少し力を入れれば消えて無くなっちまうんじゃねぇかと思う。
「…勝己の匂いだ」
そんな力まだ入ったんかと思うくらい俺の背中に回されたなまえの手は力強い。
俺の肩に顔を埋めてそんなこと言われりゃァ、本当だったら今すぐどうにかしてやりてぇ。
「もう少しだけ」
「……これっきりだからな」
「やっぱり、勝己は優しい」
いろいろと手を出すわけにもいかねぇから、せめてなまえが離れていかねぇように片手で頭を押さえた。
俺に回されたなまえの手がより一層力強さを増す。
「……ごめんね」
耳元でなまえがそう囁いた途端、力が抜けて意識が遠のいていく感覚に襲われる。
やられた、クソが…!完全に油断した。
お前は俺に個性を使ったことがなかったから、 使うことはねぇと思ってた。
あ…やべぇ…。
「勝己、ありがとう」
礼なんて、言ってんじゃねェ。
まだ、これからだろうが。これからもっと、なまえと…。
「夢叶えてね」
バカかお前は…。隣でちゃんと見てろっつったろ。
てめェがそこにいなきゃ意味ねぇだろうが。
「あ、虹だぁ…。雨上がりの虹は幸せのしるしなんだよ」
それ、いつかも言っとった…。
今度は俺がお前に傘を差してやるから。
また何度でもお前の買い物にも付き合ってやる。
お前がどこにいたって見付けてやる。
だから個性止めろやバカ女…!
「…幸せに、なってね」
勝手に諦めてンじゃねェ…。
俺、もうお前が好きって言われねぇから、幼馴染でいいから、だから隣にいろよ。
もういいだろ、これ以上俺から逃げんじゃねぇ…!
「勝己、ばいばい」
……やべ、意識、飛ぶ…。
体、動けや…。
まだ言わなきゃいけねぇこと、あんだよ…!
…あ、れ、誰に何言うんだっけか…。この女…誰だ…?
意識が途切れる直前で見たのは消えちまいそうなツラして微笑む知らねぇ女だった。
俺は半日意識を失っていたと後から聞いた。
なまえの存在なんて最初から無かったように俺の世界は再構築されていた。
「なんで、忘れとったんだ、俺はッ!!」
「かっちゃんが忘れたくて忘れたわけじゃない!」
「一緒だろッ!!個性に負けたんだよ、俺ァ……」
やっと思い出したと思ったらなまえはもういねぇ!
会うことすら出来ねぇのに、なんで忘れとんだ。
唯一守りてぇって、好きだって思った女だぞ。
何自分の好きな女にあんなツラさせとんだ。
「……もういいよね、なまえちゃん。かっちゃん、少し話すよ。なまえちゃんのこと」