かくれんぼ
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そうだ。全てが変わったのはあの日からだ。
俺たちは3人揃って雄英に入学した。
なまえは普通科。俺とデクはヒーロー科。
雄英での毎日はとにかく忙しねぇ。毎日のことをこなしてるとあっという間に季節は過ぎて早いもんで俺達も3年だ。
入学当初はなんで無個性のデクがヒーロー科に受かったのか、アイツがどんな手を使ったのかわからねぇことばかりで、なまえが前に言ったデクの頑張りがすげェってのは微塵も理解出来なかったが、今ならそれもわかる。
「お、お二人さんお揃いでぇ!」
「お、上鳴くんに瀬呂くんに切島くんだ!お揃いでぇ!」
小学校、中学もずっとなまえと登下校するのが当たり前で、寮生活になった今も校舎までの徒歩5分の行き帰りの道をなまえと歩くのが当たり前になっとる。
ンで、なまえと校舎から出るとうるせぇ3人組とばったり遭遇しちまった。
ずっと俺と一緒にいるから学科は違ェがいつの間にかこいつらとも仲良くなってた。
「爆豪、相澤先生に外出許可もらってたろ」
「こいつが買い物付き合えってうるせぇから仕方なくな。外出許可もらうのだってめんどくせぇのによ」
「って言いながら付き合ってくれるから勝己は優しいよね!」
行かねぇっつっても無理やり連れてくのは誰だよ。
…まァ惚れた弱みっつーのもあンだろうけどな、クソうぜぇ。
「君たち目立つからさぁ。今年の1年もみょうじ先輩には狂犬がボディーガードしてて近付けないって泣いてたよ」
「誰が狂犬だ!!!」
「そういうとこだぞ、爆豪!」
「これで付き合ってないのが最大の謎じゃね?本当にただの幼馴染なわけ?」
今まで何回も言われて来た。付き合ってるだろって。
こちとら何回も告ろうとしとんじゃ。だけどそういう時に限っていつもなまえはそれを交わしていく。
手を伸ばせば届くのに、それが遠すぎる。
「幼馴染っていうか、もう家族みたいだよね」
悪気のねぇなまえのその一言に心臓が抉られたみてぇな感覚になる。
ンだ、それ。てめェの眼中にもねぇってことかよ俺ァ。
「みょうじモテんのに彼氏出来ねぇのはいつも隣に爆豪がいるからだな」
「そういうことかぁ!じゃあ勝己に彼女が出来ないのも同じ理由だ」
「俺は出来ねぇんじゃねェ!いらねェんだよ!意味が違ぇわボケ!」
「爆豪はこんなんだし、そもそもな」
「好き勝手言ってんじゃねぇ!ぶっ飛ばすぞてめェら!!さっさと帰れや!!」
怖い怖いと言いながらなまえと手を振りあってヤツらは寮に帰って行った。
こんなくだらねぇやり取りでもなまえはいつも楽しそうに笑ってやがるから、まァ悪くねぇかなんて思っちまう。
もしなまえが選んだ男が出て来たら離れてやるべきだと思ってはいるが、そもそも彼氏はいらないと言っとった。
「彼氏がいたら勝己と一緒にいれなくなっちゃうもん」
そう能天気に笑うなまえは悪気もなく、ただただ期待だけをさせて、それと同時に俺は男として見られてねぇと痛感させられる。
そういうとこ本当にうぜぇし、期待するだけ無駄だとわかっててもなまえの隣を誰にも譲りたくねぇと思う自分がいて、結局はただの幼馴染のままだ。
電車で20分くらいのショッピングモールの中の雑貨屋やら、アクセサリーショップやら、服屋やらを次から次に見て回るなまえは目を輝かせたガキみてぇだ。
俺は興味がねぇから少し離れた場所でなまえを眺める。
すげぇ楽しそうにしとんのに時々顔を歪めるのを見逃さなかった。
「体調悪いんか」
「え?なんで?」
「気付いてねぇと思っとんのか」
「勝己はすぐ気付くなぁ。最近なんかたまーに心臓ら辺が痛くなるんだよね。あ!でもすぐ治まるし、恋煩いかもしれない!」
おどけて俺に心配かけさせねぇようにしとんのバレバレだっつの。
そっからはもっと注意深く様子を見てたがいつも通りうるせぇくらい元気だった。
事前に夕飯は外で食って来ると断りを入れといたから、激辛料理を食うっつってなまえはやけに気合いが入っとった。
くだらねぇことばっか言って笑って、なまえが隣にいるのが当たり前で心地良くて、ずっとこいつの隣にいるんだと思う。
こいつの隣に違う男が現れたとしたら、俺は本当にそいつにこの場所を譲れるんか。
帰り道、なまえの笑う横顔を見てやっぱり俺はなまえが好きだと実感する。
「なまえ、俺お前のこと」
「あ…か、つき…ぃっ」
俺の隣を歩いてたなまえが突然立ち止まり、胸を押さえてその場に座り込む。
慌てて体を抱きしめると尋常じゃねぇ量の汗をかいて呼吸も浅ェ。
「なまえ!」
「ぅあ、…は、っ」
なまえを抱きしめながら携帯を取り出し救急車を呼ぶ。
頭が真っ白になって苦しむなまえを抱きしめて声をかけることしか出来ねぇ。
すぐに救急車が来たがその頃にはなまえの意識はなく、処置をしながら病院に運ばれた。
救急隊が必死に処置をする横からなまえの手を握りしめる。
「おい!しっかりしろ!」
ピクリとも動かねぇなまえを見て自分らしからぬ弱々しい声が出て、想像もしたくねぇことを想像しちまう自分が嫌でたまらねぇ。戦闘のセンスはあってもコイツが苦しんでる時に何もしてやれねぇ無力さを痛感する。
なんでだ、さっきまで元気にはしゃいどったろ。
さっさと帰らねぇと先生たちに怒られんだろバカなまえ。
病院に着くとなまえは集中治療室に入って、間もなくしてなまえの両親が病院に駆け付けたが、俺はこの時の記憶があまりない。
「俺が近くにいたのにごめん」そう謝ると「勝己くんがそばにいてくれたからすぐに搬送出来たのよ」と逆に気ィ遣わせちまったのだけは覚えてる。
無事でいてくれ、そう祈りながら処置が終わるのを待ったが、その時間は永遠に終わらねぇんじゃねぇかって思うくらい長かった。
どれくらい待ったのか、やっと医者が来てなまえが一命を取り留めたことを伝えられ、安堵から体の力が一気に抜けるのがわかる。
それと同時に勝手に涙が出て来やがった。
「みょうじさん、なまえさんの状態についてご説明しますのでこちらに」
「…勝己くん、一緒に来てくれる?」
「…いや、俺家族じゃねぇし」
「もう家族みたいなものだよ」
親族でもねぇから俺は一緒に説明を聞くつもりはなかったが、両親にそう言われたから聞くことにした。
かーちゃんたちも不安で、俺ですらそこにいた方が強くあれたのかもしれねぇ。
個室に案内されて両親と一緒に椅子に座る。
空気が不快だった。
「…なまえさんですが、心臓の病気です」
「…………え?」
は?心臓っつったんか?何言っとんだ…?
ずっとうるせぇくらい元気に走り回ってる女だぞ…?
診断、ミスっとるんじゃねぇのか…?
「今まで何事もなく元気だったのが不思議な状態です」
「な、治るんですよね!?お願いします、どうかなまえを助けてくださいっ!」
医者の言葉に段々と酸素が無くなっていくみてェに呼吸が苦しくなる。
なまえの両親は医者にすがるが医者の顔は曇ったままだ。
「…酷なことを言いますが、なまえさんの心臓は1ヶ月もつかどうかわかりません」
地獄に突き落とされたような感覚だった。
なまえの両親は泣き崩れて、俺はそれを視界の端で見てた。
この医者が何を言ってんのか理解出来なかった、したくなかった。
ほんの数時間前まで一緒にいた。喋ってた。笑ってた。
なまえが死ぬ……?
「……テキトー言ってんじゃねぇよ…なぁ!あいつ、なまえっ!さっきまで笑っとったんだぞ!ンなもん納得出来るかよッ!!」
誰に怒りをぶつけても仕方ねぇ。頭ではわかってても制御なんて出来るはずもねぇ。そんな冷静でいられるわけがねぇんだよ。
ずっと一緒にいた、体が悪そうな素振りなんて見せたこと無かった。
今日が初めてだった。なんでもっと早くに気付けなかった?
誰よりも近くにいたのは俺なのに。
あの後俺はどうやって帰って来たんだかもわからねぇ。
気が付きゃ自分のベッドに腰かけてて外は明るくなってた。
俺は悪夢を見とったんか。
ああ、そうだ。早くなまえ迎えに行かねぇとアイツすぐ寝坊すっからな。
少し離れた普通科の寮の玄関を開け、もう何度も来てる女子棟のなまえの部屋の前で足を止めてノックをする。
「おい、なまえ!」
そう呼んでも応答がねぇ。寝てやがんのか。
なかなか起きねぇからと一応先生に許可もらって作った部屋の合鍵で鍵を開けて扉を開ける。
いつも寝てるはずのベッドはもぬけの殻でそこにはぬくもりすら残ってねぇ。
あれは現実の出来事だったんだと突き付けられる。
「……そんなに俺に告られんの嫌なんかよ、クソなまえ」
いつも俺が告ろうとするとてめェは上手いことかわしやがるからな…。
今回ばかりはもっとマシなかわし方があっただろうが。
…でももう言わねぇよ。てめェを好きなことは一生隠しとく。
幼馴染のままでいい。だからそこまでして逃げんじゃねぇ。
早くアホみたいにヘラヘラした顔晒して帰って来い。
それからなまえの意識が戻ったと連絡が来たのは3日後のことだった。