かくれんぼ
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その日はもう秋だっつーのにジメジメと湿った空気で不快感が体にまとわりついていた。
プロヒーロー2年目の俺とデクは管轄地域のパトロールを任された。
こうして街を歩けばそれだけで犯罪の抑制になる。
「…なまえのこと、少し思い出した」
「…そっか」
「アイツも雄英通っとったんだな」
「うん、3人で通えるって喜んでた」
街中に意識を向けながらも出久との会話の内容はなまえの事がほとんどだ。
すれ違う子供に「デクだぁ!」と言われりゃ、出久は会話を続けながらも手を振りながら歩いとる。
っつっても出久は俺に言っても差し障りねェようなことを選んで喋ってるみてぇだった。
「他には何か思い出した?」
「…………」
「かっちゃん?」
「なんでてめェに言わなきゃいけねェんだ!!ざけんなクソ!!」
「理不尽!」
クソ、言えるわけねェだろ。なまえが好きだったなんてよ。
過去の話で今もう吹っ切れてるンだったらいいが、思い出したと同時に好きになったみてェな。
昔の記憶しかねぇのに、思い出してから会ったわけでもねぇのに、どんどんなまえの存在がでかくなっていっとる。
「ンで、なまえは今どこにいンだよ」
「…言えない。かっちゃんには言わない約束してる」
「は?」
街から出久に目をやると俺から顔が見えねぇように向こうを見てやがる。
表情はわからねぇが、いろんなモンをこらえるような声だ。
ババアも遠くに行ってるけど場所まではわからねぇって言ってたし、結局すぐになまえに会うことも出来ねぇんだろうな。
それに俺には居場所言わねぇってなんなんだよ、喧嘩売っとんのか。
こっちは思い出したら顔見たくてしょうがねぇってのに、手の届くところにいやがれバカなまえ!
「いいわ、そのうち思い出す」
「…そうだね」
ババアも出久もなんでこんな俺がなまえを思い出すのに否定的なのかわかんねぇ。
それに実家で見たアルバム。
ババアが几帳面にちっせぇ頃からずっと写真入れとるくせに最近の写真がなかった。
まァ、息子がでかくなりゃ写真の枚数は減る。
現に中学辺りの写真から一気に枚数は減っとった。
それにしてもだ、雄英の卒業式の写真にはなまえが写ってなかった。
一緒に写ってたのは切島と上鳴と瀬呂。
俺が撮らねェって言ったのを無視して無理やり撮ったんだったわ。
幼稚園、小学校、中学校、全部の卒業式の写真になまえはいた。
…じゃあなんでいない?
撮ってねぇんか? なまえはババアと一緒になって無理やりにでも写真撮るだろ。
そもそもなまえは卒業式に出てないンか?
その頃からどっかに行っとんのか?
なんでだ、なんのために?
考えたところで答えなんかわかるはずもねぇ。
ただグルグルと考えが巡るだけだ。
考えるのをやめようとしたとこで、ここからは目視することは出来ねぇが何本か先の通りが騒がしくなるのを感じた。
それをデクも感じ取ったらしく、俺は通りに向かい、デクは市民を誘導する。
何も言わなくてもお互いが考えてることがわかった。
てめェとこんなふうになるなんざ思ってなかったけどな、デク。
今はなまえが言ってた出久のすごさもわかる。
「デク!!ダイナマイト!!向こうにヴィランがっ!!!」
「わかってんだよ、てめェら巻き込まれンなよ!!」
「みなさん落ち着いて!大丈夫です!こっちに避難お願いします!」
騒がしい原因はやっぱヴィランだったか。
市民を吹き飛ばさねぇよう空中に飛び、爆破を使ってほんの数秒だ。
現場に着くと何人か血を流して倒れてるヤツもいて、我先に逃げようと市民はパニックを起こしてやがる。
「大型ルーキーの大・爆・殺・神 ダイナマイトじゃないですか!まさか貴方が来てくれるなんて嬉しいなぁ!」
「俺の管轄で暴れるたァ、度胸だけは認めてやんよ!!」
少し目線を外せば遅れて現着したヒーローが避難誘導を始めたのが見えた。
市民共はこれで大丈夫だろうと俺は目の前のヴィランに集中する。
ヴィランはひとり。個性がわかんねぇ。
出血してるヤツは切られたような傷だ。つーことは攻撃系の個性か?
どちらにせよ後手に回るのは好きじゃねぇ!
「攻撃できますか?」
一気に方をつけようと攻撃力の高ぇA・Pショットを撃つために構えたが、撃つ直前、ヴィランを庇うように現れたヤツの姿を見て一瞬体が強ばる。
なんでてめェがそこにいンだよ。
「なまえ…!」
目の前に突然現れた。なんだ、ヴィランの個性か!?本物か…?
ずっとツラを見てぇと思っとったなまえがそこにいるってだけで思考が鈍る。
なんだ、なんで…。
「ダイナマイトも人間なんですね」
一瞬迷った。
やべぇ、そう思った時にはヴィランがなまえの影から刃物構えて向かって来る。
間に合わねぇ…!
なんとか爆破を撃って速度をつけ、自分の身体をヴィランから遠ざけるが深くもねぇが腕を切られた。
ンだ、クソがっ!
「かっちゃん!!なまえちゃんがこんなところにいるはずない!!!ニセモノだ!!」
避難を他のヒーローに任せて来たであろうデクがそう叫ぶ。
…だよなァ。仮に本物だったとしたらアイツが人を切り付けるヴィランなんかを庇うはずがねェ。
一瞬でもその姿を見て躊躇しちまった自分に腹が立つ。
「勝手に人の姿使ってんじゃねェよ!!」
地面を蹴ってヴィランに突っ込むとニセモノのなまえはまたヤツを庇うように立つ。
ヴィランが直接刃物で攻撃して来たことを考えるとなまえはヴィランの個性だ。幻覚ではない、人形の類かなにか。
どっちにしろお前じゃ俺に勝てねぇよ、なまえ!
「貴方にこの人は攻撃出来ないでしょう!!」
「しなきゃいいだけだろーが!!」
爆破で推進力を付けて素早くなまえの脇を抜け、そのままヴィランの胸ぐらを掴む。
こいつ自体は早くも強くもなく、個性もニセモノだとわかりゃァ大したこともねぇ。
ニセモノとは言えなまえを戦いに巻き込むんじゃねぇよ。
「くたばれクソヴィラン!!!爆破式カタパルト!!!」
ヴィランを掴んだまま爆発を使って回転力を付け投げ飛ばすと、その勢いのまま硬いコンクリートに激突した。
それを見たデクがすかさずヴィランを拘束する。
今の衝撃で気を失ったヴィランの個性で出来たなまえはあっという間に形を無くしていく。
その姿が無くなるのを見届けてからデクの方に向かう。
「かっちゃん腕がっ!」
「かすり傷だわ、こんなン。いちいち騒ぐんじゃねぇよ」
「いや、結構血出てるし、一応病院行こうよ!」
「行かねぇよ、うっせぇな!」
「処置だけでもしてもらわなきゃダメだ!」
心配なんざしなくても大した傷じゃねぇってのに出久はずっと騒ぎ立てやがって。
めんどくせぇな。
怪我した市民は駆け付けた救急隊員が処置をして病院まで運んで行った。
あとの事は警察に任せりゃいい。
「おい、出久。お前なんですぐにアレがニセモンだってわかったんだよ」
「あ、え、いやそれは…だってなまえちゃんがヴィランに付くはずないから」
ヴィランの個性は相手の大切だと思うヤツを具現化して操るというものだった。
あそこでなまえが出て来ちまったのも俺がなまえを好きだって自覚しちまったからか。
あーーーてめぇは勝てねぇっつったけど、勝てねぇのは俺の方かよクソ。
「ダイナマイト!病院までお連れします」
「はァ!?救急隊の世話にはなんねぇ!自分で行くわ!」
「あなたのそれ信用ならないんで。乗ってください。あ、デクも同行お願いします。ダイナマイトが暴れたら止められないんで…」
「ガキじゃねぇんだから一人で行けるわ!ざけんな!話聞けや!」
救急隊のヤツもデクも俺の話なんざ聞きもしねぇで無理やり救急車に押し込まれて、デクも俺に続いて救急車に乗り込む。
こんな怪我くらいで救急車なんか動かすんじゃねぇよ。
腕を組んでシートに座り誰もいねぇストレッチャーを見遣ると何故だか前にも同じようなことがあった気がする。
いや、救急車に乗るなんざ任務で大怪我した時くらいでストレッチャーに乗せられてる側。
誰かに同乗することなんざねぇはずだ。
救急車はすぐ近くの大学病院で止まり、扉が開けられると一応礼を伝えて降りる。
ここいらじゃ有名な病院だが初めて来た。
顔を上げて病院全体を見るとでけェ。有名なだけある。
「おい!しっかりしろ!!」
それは間違えるはずもねぇ自分の弱々しい声。
俺は今言葉を発してねぇ。そんな言葉を言った記憶もねぇ。
なんだ今の。
「やだよ、そんな顔したら」
「大丈夫だよ、私がんばるから!」
「勝己、ありがとう」
「幸せに、なってね」
「勝己」
「勝己」
なんだ、なんだこれ。
なまえの声。顔。
次から次に記憶にないなまえが頭の中に流れ込んで来る。
頭、割れる…痛ェ…!
「…ちゃ……かっ………かっちゃ……」
遠くで出久が俺を呼ぶ声が聞こえる。
なんなんだこれ。
なんでてめェはそんな泣きそうな顔しとんだ。
「勝己、ばいばい」
頭の中でなまえの声が響いたと同時にさっきまでの激しい頭が割れるような痛みはなくなっていった。
肺が空気を取り込んでいくと頭に酸素が回る。
出久の声が鮮明になる。
それなのに苦しくてしょうがねぇ。
「かっちゃん大丈夫!?」
「………なんで…記憶…くそ…っ」
「………え?」
この病院、初めてなわけねぇ。
毎日通ってた。
毎日、毎日、会いに来てた。
なんでだよ…。
「俺もう、会えねぇのかよ…っ」
「かっちゃん…記憶…」
「…全部、思い出した」
思い出してようやく、出久とババアがなんでああも記憶を思い出すのに否定的だったのかを理解した。
俺が同じ立場だったとしても否定する。
思い出すことなんて許さねぇよ。
「今は遠くにいてどこにいるかわからない」
そりゃそうだ。わからねぇよな、会えるはずもなかったわ。
だってお前もう
「…なまえ……この世にいねぇ……っ」