かくれんぼ
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あれから記憶が戻ることはなく、出久も自分から俺に話すつもりもないらしい。
約束がどうの言っとった。
手がかりがあるとすりゃァ、ババアが保管してるであろうガキん時のアルバムだ。
唯一思い出したのはガキん時だったから、深い関わりがあんなら写真の1枚や2枚あるはずだ。
仕事が休みの日、久しぶりに実家に帰った。
「あら、勝己おかえり。アンタが帰って来るなんて珍しいじゃない」
テレビで見てるだとか、ちゃんとご飯食べてるのかだとか、帰ってくりゃァ毎回お決まりの会話をテキトーに済ませてから帰って来た目的の話題を口にする。
「あのさ、なまえって知ってっか」
「え…アンタなんで…」
「……やっぱ知っとんだな」
明らかに動揺してやがる。
ババアも知っとるっつーことは間違いなく関わりは深かったはずだ。
俺だけになまえの記憶がねぇ。すっぽり抜けちまってる。
誰とも会話が噛み合わなかったことなんてねェのに。
「写真とかねぇの」
「あったとしてどうすんの」
「あ?思い出すんだよ、それ以外ねぇだろ」
「…無理に思い出す必要ないと思う」
「は?」
ババアの顔は曇ってて、苦しそうでツラそうで、あん時の出久と同じだ。
俺がなまえの話をするとみんなが同じ表情をしやがる。
それに思い出す必要がねぇってなんだ。
「…忘れてるってことはさ、勝己にとって必要ない記憶なんじゃないの?」
「思い出してみねぇとわかんねェだろ」
「思い出して後悔しても遅い」
「いやに否定的だな」
「…これでも息子は大事なの」
多分、俺のなくした記憶をババアは全部知っとる。
この言い方、それに出久とババアの表情を見るとなまえのことは思い出さねぇままの方がいいのかもしれねぇ。
でも断片だけでも思い出しちまったんだよ。
自分が辿ったはずの記憶がねェなんて気持ち悪すぎんだろ。
「…いいよ、キツいことでも。どんな事でも俺の辿ってきたことだし。今は全然知らねぇヤツだけど思い出さなきゃいけねぇ気がする。俺の中から見付けてやらねぇとって、わかんねぇけど」
俺の言葉を聞いてババアは何かを考えるように少し黙った後に「ちょっと待ってて」とだけ言うと2階に行って、少ししてから数冊のアルバムを持って戻って来た。
「なまえちゃんとの約束をやぶることになっちゃうけど、なまえちゃんを見付けるのはいつも勝己だったからね」
そう言いながらババアはアルバムをケースから出してテーブルに置いてページをめくる。
そこには俺の隣で楽しそうに笑う、この前思い出した記憶の中にいた小せェ頃のなまえがいた。
「……こいつ今どこにいんの」
「今は遠くに行ってる。場所まではわからないけど」
「ふーん…」
「私は部屋に戻ってるから、満足するまで見てな」
イスに座ってアルバムと向き合ってページをめくる。
お揃いの幼稚園の制服を着て俺と出久の間で笑うなまえがいる。幼馴染は出久だけかと思ってたがなまえもだったんか。
実際に写真は残ってるのに記憶にはこれっぽっちも残ってねぇ。
なんなんだ、お前は。なんで俺だけお前の記憶がねぇんだよ。
次のページをめくるとなまえが泣き笑いしながら迷惑そうにしとる俺に抱きついてる写真。
そうだ、この時は友達とみんなでかくれんぼしとったんだ。
「もういいかーーーーい!!!」
「もういいよーーーー!!!」
ガキの頃よく遊んだ近所の公園。
その中にはなまえもいて、こいつは隠れんのがとにかく上手かった。
この日もなまえは隠れとって、俺はそこそこに見つかったがなまえはなかなか見つからなくて、日も暮れ始めて夕焼けチャイムが鳴る時間になっちまう。
「あいつ帰っちゃったんじゃねーの?」
「こんだけ探して見つからないもんなぁ」
「もう帰らないとママに怒られちゃうよ」
一緒に遊んでたヤツらは帰っただとか、公園の外に隠れてズルをしてるだとか好き勝手言ってやがったが、俺はそうは思わなかった。
なまえは嘘やズルが大嫌いだったからだ。
結局チャイムが鳴っちまって他のヤツらは帰って行ったが、俺は絶対にこの公園のどっかにいると思って探した。
「勝己ィ!!アンタいつまで遊んでんの!!!チャイム鳴ったでしょーが!!」
「うっせぇ!!今なまえ探してんだよ!!」
チャイムが鳴ったのに俺が帰らなかったからババアが怒鳴りながら公園に来やがったが俺がそう言うと一緒になってなまえを探した。
そのすぐ後になまえのかーちゃんも来て3人で探したけどなかなか見つからねぇ。
「もう、本当にあの子ったらどこに行ったの…」
かーちゃんも不安そうにぽつりと呟いてた。
何度も探したが公園に併設された集会なんかに使われてる建物がなんとなく目に付いてそっちに近付く。
「勝己くん、そこはもう探したけどいなかったのよ」
なまえのかーちゃんの言葉を聞き流して建物を見て回ると縁側があって、そこに子供が入れるくらいの隙間が出来てた。
そこに体を推し進めると丸まった小さい物が見える。
「おいなまえ!なにこんなとこで寝てんだ!!」
それは紛れもなく探していたなまえだった。
こんなとこで寝こけやがって。そりゃ見付からねぇわけだ。
「…ん、勝己?わぁ、勝己だぁ!」
「勝己だじゃねぇんだよ!バカなまえ!みんな帰っちまったし、かーちゃん心配してんぞ! 」
「全然見付けてもらえなくてね、ここ暗いし、寂しくなったんだよ」
「出てくればよかっただろ」
「だって見付けてもらえるまで出て行っちゃいけないんだよ。かくれんぼだもん」
変なとこ真面目というか律儀というか柔軟性に欠けるというか。
見付けてもらうのを待ってる間に寝ちまったらしいが、俺の顔を確認するとすげぇ嬉しそうに笑ってやがった。
こっちは必死こいて探してたっつーのに呑気なヤツ。
「勝己なら見付けてくれると思ってたよ!」
「めんどーかけさせんな!行くぞバカ!」
「バカバカ言わないでよ」
「うっせぇ!なまえなんかバカで十分だバカ!」
「あー!また言ったー!」
二人で親の元に戻ると二人とも安心した表情で駆け寄って来た。
なまえのかーちゃんは「みんなに心配かけたらダメでしょ!! 」となまえを怒って、怒られたなまえは「ごめんなさい 」と泣いとった。
それから少し落ち着いたなまえは「勝己、見付けてくれてありがとう」と俺に抱きついて来て、その時写真を撮られた。
「…ほんとバカなやつ…」
少しずつ記憶が戻っていくのがわかる。
アルバムをめくると庭でプール遊びをしてる写真。
真新しい大きく見えるランドセルを背負った写真。
花火をしてる写真。
宿題しながら寝ちまってる写真。
どれもこれも何気ない日常を撮った写真だけど、そこにはなまえがいて、どれも全部楽しそうに笑ってやがる。
1、2枚どころか、数え切れねぇくらいの写真が残ってる。
なんでこんなにずっと一緒にいたやつのことを忘れちまっとんだ、俺は。
少しずつ記憶が色付いていくのと同時になまえの存在が大きくなっていくような気がした。
小学校の卒業式。中学の入学式、卒業式。
それから雄英の真新しい制服を着た俺となまえ。
俺はヒーロー科でなまえは普通科の初めて少しだけ違う制服。
やっぱりいつもなまえが隣で笑ってる。
ああ、そうだ。高校受験の時はケンカしたんだったわ。
記憶を思い出していくとなんで俺はなまえに関することだけきれいさっぱり抜け落ちているんだと余計に疑問が大きくなっていった。