かくれんぼ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
side爆豪
「そっち行ったよ、かっちゃん!!」
「わーっとるわ!!」
指名手配中のヴィラングループを一網打尽にするために他事務所とチームアップして長ェ期間かけて動向探って、ついに追い詰めたが1人が隙ついて逃げやがったのをデクと追いかける。
外は雨が降っとって気温も低い。俺の個性には不利だがプロになった以上それを言い訳にするつもりもねェ。
デクが黒鞭を使いながら退路を塞ぎ俺が先回りした路地にヴィランを誘い込んでいく。
「手ェ焼かすんじゃねェよクソヴィラン!!徹甲弾(A・P・ショット)!!」
一応威力は下げといたが、しっかり攻撃が当たったヴィランはその場に倒れ込んだ。
個性自体は強くなかったが厄介だった。だからこそ長期間をかけていた。
合流したデクは「これで一件落着だね」と言いながらヴィランの体を黒鞭で拘束し、警察に受け渡すために大通りに戻る。
路地を抜けて大通りに出る頃には雨は上がっていた。
「あ!かっちゃん!虹出てるよ!」
広くなった空を見上げてデクがガキみてェにはしゃぎやがるから思わず俺も空を見上げると虹が視界に入り込む。
虹なんていつぶりに見たか。
そーいや、昔同じような光景を見た気がする。
「雨上がりの虹は幸運のしるしなんだよ!」
ふと、女の声が聞こえた気がした。
周りを見渡すが俺とデクとヴィラン以外には誰もいねぇ。
どっから、誰の声だ。
「今の誰だ」
「え?今のってなに?」
「は?女の声聞こえただろーが」
「き、聞こえてないけど」
出久が嘘を言ってるようには見えねぇが、たしかに聞こえた気がした。
知らねぇ女の声。なのにすげェ心地よくて、耳に馴染んで、懐かしくて、もっと聞きてぇと思って、なんでか知らんが苦しくなる。
「かっちゃん!?どどどどどうしたの!?」
「あ?」
「な、なんで泣いてるの!?」
デクにそう言われて自分の顔を触るとさっきの雨で濡れたせいじゃねぇ、たしかに涙が流れてた。
なんなんだよ、意味わかんねぇ。
こんなクソだせェとこ見られたらなまえにバカにされんだろ。
……なまえって誰だ。
なんで急に知らねぇヤツの名前が浮かぶんだよ。
「……なぁ、出久。なまえって知ってるか」
俺が出した名前に出久は目を見開いて、その後はなんて言葉を返すべきか言い淀んでるみてェだった。
昔から嘘が下手なのは知っとる。
「……えっと」
「全然記憶にねぇんだけど、なんか突然なまえって名前が頭に浮かんだ。誰だ」
出久の反応からしてなまえってやつを出久は知ってる。
俺の記憶にはそんな女はいない。
けどなまえって名前を口に出す度に穴が空いた物が塞がっていくような、満たされていくような感覚になる。
出久の顔を見ると苦しそうな、今にも泣き出しそうな顔をしとった。
なんでこいつはこんなにツラそうな顔しとんだ。
「…ごめん、かっちゃん。僕の口からは詳しくは言えない。でも、かっちゃんが思い出したいと思うなら、ちゃんと自分で思い出してあげて欲しい」
なんだそりゃ。わけがわかんねぇ。
思い出す?俺が何か忘れてることでもあるっつーのかよ。
なまえってやつは出久と俺にとってなんなんだ。
忘れてるってことは俺にとってはどうでもいいヤツなんじゃねぇのか。
だとしたら満たされるような感覚はなんだ。
俺は本当に何かを忘れとんのか?
「僕、ヴィランを警察に渡して来るから。かっちゃんは先に事務所に戻っててよ。僕もあとから行くから」
そう言うと出久は警察の元に行くために勢いよく地面を蹴ってすぐに視界から見えなくなる。
空を見上げるとまだ虹が出てる。
「勝己、泣かないで」
またあの声。言われたこともねぇはずの言葉。
ここにいるはずもなくて幻聴なのはわかってる。
知りもしねぇその声が頭の中で響くと視界が滲む。
なまえってヤツは俺と何か繋がりがあると確信する。
そして出久とも。
「……なまえ」
呟いた名前はじんわりと俺ン中に広がっていくみたいだ。
近くの壁に背中を預けてしゃがみ込むと昔にも似たような事があったような感覚になる。
そうだ。あン時、5歳くらいの時だ。
「勝己、どうしたの?」
「…どうもしねぇよ!あっちいけ!」
「濡れちゃうよ」
しょうもねぇことでババアに怒られて、悔しくて思わず雨なのも気にせず家の外に飛び出してしゃがみ込んでたら、そこにたまたまなまえとなまえのかーちゃんが通りかかって、心配そうな顔で俺を傘に入れてくれたんだ。
家が近かったのと俺んちの敷地内ではあったから、なまえのかーちゃんは先に帰っちまったけどなまえは一緒になって濡れた芝生の上に座って小せェ傘に2人で入ってた。
「またママに怒られたの?」
「…怒られてねぇし」
「風邪ひいたら勝己のママ心配しちゃうよ。私も勝己が風邪ひいたら悲しくなるよ」
ああ、そうだ。
そういうヤツだった。
いつも人の心配ばっかすんだよな、お前は。
「なんでなまえは帰んねーの」
「だって勝己が一緒にいてほしそうだったから」
「ふざけんな、ばーか」
こいつは俺がひとりになりたくねぇって思ってる時は必ず隣にいてくれた。
不思議なやつだなって子供ながらに思ったことがある。
徐々に雨が止んで、少し日差しがさして来るまでなまえは隣でずっと喋りかけて来てた。
「あ!勝己見て!」
勢いよく立ち上がったなまえの服は泥まみれになってて、汚ぇから後でかーちゃんに怒られんだろうなって、俺のせいなのにそん時の俺はそんな事をボケーッと考えてた。
「虹!わぁ!きれい!!」
そうやってはしゃぐ泥だらけの後ろ姿がやたら眩しく思えた。
「雨上がりの虹はね、幸せのしるしなんだよってママが言ってたの!だから勝己も勝己のママと仲直りできるよ!」
こっちを振り返って笑うなまえは一段と眩しくて目がくらんで、それ以上はもう思い出せなかったが、黒く塗られた無いはずの記憶が少しだけ鮮やかになる。
こんな古くて短ぇ記憶がすげぇあたたかくて、なまえは俺の大切なヤツだったんじゃねぇかって思えた。
ああ、クソ。ふざけんじゃねぇ。なんなんだよ。
涙ってどうやって止めんだっけ。
side 緑谷
「じゃあ、あとお願いします!」
警察にヴィランを引き渡して事務所に戻る。
かっちゃんの口からなまえちゃんの名前が出た時は心臓が止まりそうになった。
記憶にないはずなのに涙を流すかっちゃんを見て苦しくなって、全部を話してしまった方がいいんじゃないかとすら思った。
でもそれは出来ない。
だって僕には約束があるから。
「僕にはなまえちゃんとの約束を破ることも、ツラそうなかっちゃんをほっとくことも出来ないよ…」
それで自分で思い出せなんて、かっちゃんには酷なことを言ってしまったのかもしれない。
まだあの虹が見えるかと空を仰ぐとやっぱりまだそこにあった。
あの時かっちゃんの前で虹が出てるなんて言わなければよかったと少しだけ後悔する。
「…なまえちゃん…」
彼女の屈託のない笑顔を思い出すと僕まで涙が出て来る。
ああもう、泣かないって決めたじゃないか。
この先全てを思い出したとして、一番つらくなるのはかっちゃんなんだから 。
だけどかっちゃんは意地でも全てを思い出すよ。
そういう人だって君もよく知ってるよね。
でもさ、君が思うよりももっとずっとかっちゃんは強いんだよ。
だからきっと心配しなくても大丈夫だよ、なまえちゃん。
「隠れるのが上手だった君をいつも最初に見付けるのはかっちゃんだったよね」
そうだよ。いつだって、どこにいたって、かっちゃんは最初に君を見つけるんだ。
それでかっちゃんを見た君はいつも楽しそうに嬉しそうに笑ってた。
やっぱりかっちゃんは必ず全部を思い出すよ。
そうして君を見付けて、君もやっぱり嬉しそうに笑うんだと思う。
そうなったら僕もとても嬉しくて、よかったって思えるかもしれない。
事務所に着くとかっちゃんがまだ帰って来てなくて、探しに行った方がいいかと考えていると少し遅れてかっちゃんが戻って来たので安心した。
いつもの勢いがなくてとても静かだ。
あの後も泣いていたのか目の周りが赤い。
記憶の断片を見ただけだと思う。それなのにこんなになるのか。
「…かっちゃん」
「俺、なまえってヤツと知り合いだったンだよな?」
「……うん」
「少しだけど、ガキん時のこと思い出した。なまえのこと思い出さなきゃいけねぇ気がするわ」
「……かっちゃんが全部思い出したら、僕も僕が知っていることを全部伝えるよ」
それでいいよね、なまえちゃん。
僕は二人のことを一番近くで見ていたから、最後までちゃんと見届けるよ。
約束も守るから。
1/9ページ