短編
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寮の談話室。
なまえとうるせぇ3人組とだべってるとついてたテレビから流行りだっつー曲が流れ始める。
その曲を歌ってんのは男のアイドルっつーやつで、今まさにパフォーマンスを始めたそいつを見てなまえはテレビに釘付けだ。
「なに?みょうじこのアイドル好きなの?」
「うん、最近ね!あっこの人!いつも楽しそうに歌ったり踊ったりしてるんだよ」
「爆豪とタイプ正反対だな」
隣で展開される話を聞きながらなまえが好きだっつーテレビン中の男を見る。
瀬呂の言う通り俺とは正反対だ。
俺ァこんな笑顔振りまいて歌って踊ってなんざ死んでも出来ねぇ。
「こういうのタイプなの?」
「……えへへ」
この名前も知らねぇ男を思い浮かべたンか、柔けぇ笑顔を浮かべやがって無性にイラついてきた。
ざけんじゃねぇ。なんなんだよそのツラ。
「ヘラヘラしてるだけだろ」
「そう見えるかもしれないけど、この人たちデビューするまでにすごい苦労しててね」
「そんなこたァどうでもいいんだよ。モブ共に媚びへつらって楽しいンかよ」
「……なんでそんなイジワルなことばっか言うの?」
なまえの顔から笑みが消えて、切島たちもさっきまで騒いでやがったのに静かに俺たちの様子をうかがってる。
やめときゃいいのに口からは次から次に言葉が出て来やがる。
「こういう男がいいってンならてめェとは合わねぇな」
「…自分が何言ってるかわかって言ってるの?」
「すこぶる冷静だかんなァ!」
「だとしたら今日の勝己くんは話にならないよ」
「は?」
「だって私の話ちゃんと聞く気ないでしょ!」
イラつく。イラついてしょうがねぇ。
俺が発する言葉になまえも噛み付いてきやがって、口論の内容も2転3転して俺たちの怒鳴り声もでかくなる。
「おい爆豪、みょうじも!そろそろやめとけって、な?」
「俺ァこのクソ女泣かせねぇと気が済まねぇんだよ!」
切島たちが止めに入るが売り言葉に買い言葉で俺たちは完全に頭に血が上って引き返すことも出来やしねぇ。
あー、なんもかもうぜぇ。
「うぜぇから喋んな!俺の前から消えろ!目障りなんだよ!!」
怒りに任せて声を張り上げた後なまえの顔を見ると驚いたようなツラしながら大粒の涙を流して固まっとって一気に頭が冷えてくが、それを見ないように目を逸らした。
「……きらい。勝己くんなんて大嫌いっ!!!」
俺にそう吐き捨てながら走って寮を飛び出そうとするなまえの後ろ姿に切島と上鳴が呼びかけるがなまえが足を止めることはなかった。
今追いかければ追いつける。
アイツのあんな傷付いたみてぇなツラ見んのは初めてで、罪悪感が込み上げて来てなまえを追いかけらんなかった。
「みょうじ泣いちゃったけどほんとに気ィ済んだ?」
「……うるせぇ」
「少し頭冷やしなさいよ」
瀬呂が俺にそう言い残して切島と上鳴を連れて談話室から離れてくのを確認して1人になって広くなったソファに腰を下ろす。
なまえの泣いたツラが、大嫌いって言う声が頭にこびりついて離れねぇ。
……何しとんだ俺は。
テレビの中の男にあんな笑顔向けとるなまえに無性にイラついた。
ただの嫉妬だ。
本当に気が済んだか?済むわけねぇだろ。むしろ最悪だわ。
「……自業自得とはいえ堪えンな…」
女に興味がわいたことなんて初めてだった。
こんなに執着するなんて思っとらんかった。
嫉妬なんてもん、持ち合わせてると思っとらんかった。
自分にこんな情けねぇとこがあるなんざ思わんかった。
心底なまえに惚れてるとこんなことで認識させられる。
「…クソだせぇ」
しばらくして日が落ちてきたっつーのになまえはまだ帰って来ねぇ。
…まァ帰って来たくねぇよな。
寮を出て雄英の敷地内を探してみるがどこにもいやしねぇ。
本当にアイツどこに行きやがったんだ。
敷地内のどこにもいねぇってこたァ外出したか?
外出して何かあったから帰らねぇわけじゃねぇよな…。
そこまで考えて舌打ちをしたと同時に気付けば教師寮に向かって走り出してた。
「爆豪、そんなに慌ててどうした。珍しいな」
勢いよく教師寮に入った俺にすぐに気付いたのは目当ての相澤先生。
担任だから外出の情報は持っとるはずだ。
「みょうじどこ行ったか知っとるだろ」
「なんだ、お前ら喧嘩でもしたのか?」
「……うるせぇな」
簡単に言い当てられて悪態をつくが絶対ェなんか知っとんだろ。
俺が否定しねぇのをいつも通りのやる気のねェツラにあきれた顔までして見やがって。
「女の子には優しくしないと嫌われるぞ」
「あ!?」
「お前口悪いからな。それに荒い。女の子はそういうの苦手な子が多いだろ」
ついさっきなまえと喧嘩して嫌いって言われたばっかで強く言い返せねぇ…。
なんなんださっきから痛いとこついてきやがって。
…それでも、いつもヘラヘラ笑ってやがるなまえがあんなツラして泣くほど俺の一言がアイツを傷付けたのは紛れもねぇ事実だ。
「……わーってるよ」
「…みょうじはミッドナイトと一緒に出かけてるよ」
「は?なんでだよ」
「詳しくは知らんがみょうじがだいぶ傷心してたみたいでな、ほっとけないから一杯やってくるらしい」
「あの露出ババア、相手は学生ってわかっとんのか!?」
「そういうところはちゃんとしてる人だよ」
ミッドナイトに事情聞いてやがったんかよ。道理で言い当てやがるわけだ。
本当にガキ相手に酒を飲ませることはねぇだろうし、ミッドナイトと一緒にいるなら何かに巻き込まれて帰って来ねぇってわけでもなさそうだな。
なんにせよ、原因は俺だ。
……謝らねぇとな。
「……ざす」
「みょうじとちゃんと仲直りしとけよ」
「わーってるっつンだよ!」
文句言われねぇ程度に教師寮の扉を勢い良く閉め、外に出てそのまま自分の寮に戻ろうとしたが足を止めた。
またアイツの泣き顔が浮かんで、笑ったツラが見てぇと思った。
そう思ったら自然と足は正門に向かっとって、ミッドナイトと一緒にいるからそこまで遅くならねぇだろうと木陰に座って待つことにした。
……なまえ、傷心してるっつってたな。
言われたこともねぇような言葉吐かれたら女は泣くか。
誰が泣こうがどうでもいい、すぐ泣いてうぜぇくらいだと思っとったのになまえのことになると違ったらしい。
大切にしてぇと思ってんのにな。まさか嫉妬なんつー感情でなまえ傷付けるとは思わなかったわ。
「……バカかよ俺ァ…」
しばらくして誰かが近付いてくる気配がした。
誰かなんて見なくてもわかる。1番顔が見てぇと思ってたヤツ。
「…帰ってきたかよ」
「……うん」
俺が声をかけると控えめな声で返事が返ってくる。
立ち上がってなまえを見ると俯いて、前髪の間から見える表情は暗い。
クソかよ…俺ァなまえにこんなツラさせてたンかよ。
「ごめん」
頭で考えるより早く言葉が出てた。
俺から謝ると思ってなかったンか、なまえはすげぇ勢いで顔をあげて驚いたツラしてる。
「カッとなってひでぇこと言ったって泣いてるなまえ見て後悔した。ごめん」
「私も、ごめんね…勝己くんに言われて悲しかったけど、っ、でも、大嫌いって言っちゃった、大嫌いなんて嘘なのっ、ごめ、ごめんね…」
言葉を詰まらせながら、涙を何度も拭ってるとまた少しずつ俯いてくる。
…ったく、そんな強く擦ったら目ェ腫れンだろうが。
なまえに近付いて頬に触れると一瞬驚いたように体が跳ねたが、それを気にせず顔をあげさせると目が赤くなっとった。
なまえの言葉にわかってると言えば俺が怒りに任せてぶつけた言葉を打ち消していく。
悪いのは俺だっつーのに俺に嫌いって言っちまった罪悪感とか後悔だとかがあったらしく何度も繰り返し謝ってくる。
俺の手を強く握ってきた小せぇ手を包み込むように握り返すとなまえはやっと少し表情を柔らかくした。
「勝己く…」
コイツまた謝んだろ。そう感じて何度も謝ってうるせぇ口に一瞬キスして塞いだ。
案の定驚いたツラして固まってやがるからそれ以上謝罪の言葉も聞かずに済んで思わず口角を上げた。
「これで終いだ。帰んぞなまえ」
手を引いて歩き出すとさっきまでわんわん泣いてやがったくせに今度は嬉しそうに笑ってやがる。
忙しいヤツ、そう思ったがそんなところにも惚れてんだわ。
「……あいつのどこがいいんだよ」
「あいつって?」
「てめェが好きなアイドルの男だよ」
「あぁ!…えへへ」
自分で聞いたけどよ、他の男思い浮かべてそんなツラしてんじゃねぇよ。
腹立ってしょうがねぇけどここで感情ぶつけたら同じことだ。そんなバカなことはしねぇ。
「ちょっと恥ずかしいんだけどね、あの人勝己くんに少し似てて、好きなの」
「…は?」
「えっと、だからね…あの人見ると勝己くん思い出して元気になれるというか……あっ!でもね!私が一番元気もらえるのは勝己くんなんだよ!」
つまりアイツ見て笑っとんのは俺に似とるからで、アイツ見てる時も俺のこと考えてるってことかよ。
なまえに話聞く気ねぇって言われたがその通りだ。聞いときゃイラつくことも感情に任せて大声張り上げてなまえを泣かすこともなかった。
嫉妬して傷付けてダサすぎんだろ、ありえねぇ。
「…俺のこと好きすぎんだろ」
「えへへ」
頬を染めながら微笑むのを見てこのツラがずっと俺だけに向けられてたンかと思うと気分がいい。
なまえのこととなると案外俺も単純なのかもしんねぇ。
「勝己くん、好きだよ」
「ヘイヘイ」
「大好きだよ」
「しつけぇ」
俺も人のことは言えねぇが、普段そんなン口にしねぇクセに今日は泣いて赤くなった目ェしながら柔らかく笑って何度も好きだなんだ言って来やがるから「笑ってんじゃねぇ」って悪態をついた。
そうでもしねぇとダメだ、今すぐにでも抱き殺したくなる。
俺の我慢も知りもしねぇで隣を歩くなまえは喧嘩した後だからか余計に嬉しそうで、柄にもねぇけどなまえが好きでたまんねぇと思う。
くだらねぇ話してなんとか手ェ出さねぇようにして寮に戻っ た。
「おっ!爆豪、みょうじおかえり!」
「やっと帰って来た!心配してたのよ俺たち」
寮に入って談話室に行くと切島、上鳴、瀬呂が雑談してたのを切り上げて俺たちに声をかけてくる。
なまえは「ただいま」と小さく言った後に俺から離れて3人の前に出た。
「切島くん、上鳴くん、瀬呂くんっ!ずっと仲裁に入ってくれてたのに冷静になれなくて嫌な思いさせちゃって、本当にごめんなさい」
なまえが頭を下げると上鳴と切島が「気にしてねぇよ」と笑いながら励ますように肩を叩いてた。
それに安心したようになまえも「ありがとう」と微笑んだ。
「ちゃんと仲直り出来てよかったじゃん」
「……うるせぇよ」
「もっと素直になりなさいよ」
ヤツらから数歩下がった位置にいた俺のとこに瀬呂が話しかけてきた。
……こいつらにも心配かけちまったからな。
「……悪かったな」
バツが悪ィが一応謝ったら瀬呂は目を見開いたあとニヤニヤと笑ってやがってクソうぜぇ。
そっから瀬呂は笑ったまますぐに俺から離れなまえたちの方に寄っていく。
「みょうじ!爆豪な、みょうじが帰って来ないって血相変えて探し回ってたんだよ」
「変えてねェわ!ざけんなよてめェ!!」
「いやいや、見てたし」
俺と瀬呂が言い合ってんの見てなまえは楽しそうに笑ってる。
どっから見てやがったんだコイツは。クソ腹立つなこの醤油顔。
服の裾を引っ張られて視線を移すとなまえが俺のそばに戻って来てた。
「勝己くん、探してくれてありがとう」
今までよりずっと嬉しそうなツラして笑うなまえに我慢してやってた糸が切れた気がした。
そのままなまえの腕を掴んで部屋に戻るためのエレベーターに向かうとなまえは困惑したような声で俺の名前を呼んで、瀬呂と上鳴の茶化すような声が遠くから聞こえた。
アイツら明日絶対ェぶっ殺す。
エレベーターを降りて俺の部屋に入って内鍵を閉める。
「勝己くんどうしたの?」
「どうしたじゃねェんだよ、てめェはさっきからよ」
「…私なにかしちゃった?」
今度は不安そうなツラして俺を見あげてくる。
それわざとやっとんのか?いや、なまえがそんなこと出来るわけがねぇ。素でやっとんのが一番タチ悪ィ。
赤くなった目元に触れて、そのまま指を後頭部に滑らせて不思議そうに俺を見るなまえの唇にキスをすると、小さく漏れた声が艶っぽくて、控えめに俺の服を握って耐えとる姿に欲情してく。
一度離してなまえのツラを見ると目だけじゃなく頬まで赤くしてやがって、初めてでもねぇのに毎度恥じらう姿はくるもんがある。
「今日の勝己くんはいっぱい私を甘やかしてくれるね」
「あ?そうか?」
「うん、帰って来るの待っててくれたり、手繋いでくれたり…こうしていっぱいキスしてくれたり…嬉しいなって」
あー、このツラ。
恥ずかしそうに、そンでも嬉しそうな柔らけぇ表情。
当たり前だがなまえが好きだっつーテレビン中の男だってこのツラは知らねぇ。
俺だけに向けられてるっつー優越感。
「お前、いちいち煽ってくんな」
「煽っ!?」
「離せっつっても離してやらねぇ」
「あ…ぅ…お手柔らかに、お願いします…」
勢いで俺の前から消えろだ、目障りだなんて言っちまったがそんなン俺が無理だったわ。
こんなに俺を惚れさせる女、手放せるわけねぇんだ。
他の女じゃダメだ。なまえじゃねぇとこんなこと思わねぇし満足もできねぇわ。
これからずっと甘やかしたるから覚悟しとけや。
fin.