短編
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きっかけはなんだったっけ。
なんでこんな事になってるんだっけ。
原因すらちゃんと思い出せないような、くだらない些細なことだったんだと思う。
「おい爆豪、みょうじも!そろそろやめとけって、な?」
「そうだよ2人とも!お互い1回落ち着こ!?」
「こんな言い合いすることでもなかったっしょ」
みんながこう言って止めてくれてる今が引き返すチャンスだってわかってる。
もうやめようって、ごめんねって、たった一言でいいのもわかってるのに。
向かい合う私と勝己くんを止めるために上鳴くんが体ごと間に入ってくれるけど、勝己くんが力ずくでその体を押しやった。
「うるせぇんだよアホ面退け!俺ァこのクソ女泣かせねぇと気が済まねぇんだよ!」
「上鳴くんに当たらないでよ!」
「当たってねぇだろ、てめェは目もイカれとんのか!」
「乱暴しないでって言ってるの!」
「あんくらいで倒れるわけねぇだろ!論点すり替えてんじゃねぇよ!」
お互い引くに引けなくて寮の中に私たちの怒鳴り声が響く。
また自分のせいで私たちがヒートアップしちゃったって上鳴くんは悲しそうな困った顔をしているのを一瞬視界に捉えたけど、私も頭に血が上ってて目の前の怒り狂った勝己くんにだけ全神経をそそいだ。
「すり替えてない!今は上鳴くんに乱暴したこと話してるの!」
「てめェと喋ってても埒明かねェ、時間の無駄だわ!うぜぇからもう喋んな!」
「そうやっていちいち怒鳴って拒絶するから話が進まないんだよ!」
売り言葉に買い言葉。
もうやめた方がいいって頭の中でうるさいくらいに警報が鳴り響いているのに口から勝手に言葉が出てくる。
「勝己くんっ!!」
「うるせぇ喋んなっつってんだよ!!」
今までより一際大きな怒鳴り声にビックリして体が跳ね上がりそうになる。
仲裁してくれてた上鳴くん、切島くん、瀬呂くんも目を丸くさせているのが視界に入った。
「俺の前から消えろ!目障りなんだよ!!」
勝己くんにそう怒鳴られて、今まで頭に上っていた血が一気に引いていくのがわかったと同時に目からは勝手に涙がボロボロと溢れ出した。
私を見た勝己くんが一瞬ギョッとした顔をした気がしたけれど、私の存在を見ないようにすぐに背を向けられた。
「……きらい。勝己くんなんて大嫌いっ!!!」
その言葉を勝己くんの背中に向かって吐き捨てて寮を出ようとすると後ろから私を呼ぶ切島くんたちの声が聞こえたけど気にせず走った。
走って走って、雄英の門をくぐり抜けようとして我に返って立ち止まる。
敷地外に出るには外出許可が必要だ。
そのまま出てしまったら相澤先生にひどく怒られるだろうし、でも寮にも帰りたくない。
こういうとこばっか冷静な自分に自嘲笑いをしてしまう。
ああ、もう、なんだ。
「……心臓、痛いや」
「あら、みょうじさん?そんなところに立ってどうしたの?」
名前を呼ばれた方を振り返ると私服姿のミッドナイト先生が歩いてこちらに向かって来ていた。
お出かけ…なのかな。
「えへへ…ちょっと…」
「…みょうじさん時間ある?ちょっと付き合ってくれない?」
「え、あの」
「外出のことは私からイレイザーに連絡入れとくから!ほら、行きましょ!」
ミッドナイト先生は少し考えるような素振りをしてから私の手を強引に引いて雄英の門をくぐる。
きっと先生に気を遣わせちゃったんだなって思って申し訳なくなるのと同時にまだ寮に帰らなくていいことに少し安堵した。
「どこ行くんですか?」
「私のお気に入りの場所よ。そこのコンビニでスイーツでも買ってプチ贅沢女子会なんてどう?」
「あ~!先生が買い食いいいんですか?相澤先生にバレたら怒られますよ!」
「いいの、私オフだから。それにみょうじさんも共犯よ」
そう言って笑う先生に釣られて私も笑ってしまった。
そのまま先生と他愛ない話をしながらすぐ近くのコンビニに入ってスイーツコーナーで品物を選ぶと、コンビニなんて久しぶりな感じがしてなんだかワクワクした。
新作なんかもたくさん並んでいてつい多めに買ってしまったけど、たまにはいいよね。
お店を出て少し歩いて大きな公園の敷地内に入り、そこからもまた少し行くと大きな桜の木が見えて来た。
「ここよ、私のお気に入りの場所。春になると桜がキレイなの。今は時期じゃないから残念だけど、気分転換したくなるとよくここに来るの」
すごく立派な木だから満開になったらキレイなんだろうなぁ。
勝己くんと見に来れたらいいな、そこまで考えて喧嘩したことを思い出してさっきまで治まっていたはずの心臓が痛み出す。
「せっかく買ってきたから食べましょ」と先生が楽しそうに袋から買ってきたスイーツを取り出したので私もそれにならってスイーツを取り出して食べる。
口の中に程よい甘さが広がって普段ならそれで幸せって思うのに、今日はそう思うどころか泣きそうになるのを堪えて鼻がツーンとした。
「こういう何気ない時がさ、私は好きなの。ずっと暗い顔してると可愛い顔が台無しよ。先生相手だから言いにくいこともあるかもしれないけど、今は女子会!話してスッキリするなら聞くわよ」
先生の前では普通にしてるつもりだったし、泣くのだって我慢してたのに、やっぱりバレてる。
それはそうか…。ずっと先生に気を遣わせちゃってるや。
前に勝己くんに「てめェはわかりやすすぎンだよ」って言われたことあるもんなぁ。
こんな時でも思い出すのは勝己くんの言葉で、私の世界は彼が中心になっているんだと自覚した。
「……か、爆豪くんと喧嘩しちゃったんです」
先生は「そう」と優しく相槌をうってくれて、ぽつりと絞りだすように言うと今までせき止められていたものが全部流れていくみたい。
「喧嘩するほどのことじゃなかったと思うのに、私もいっぱい怒鳴っちゃって…目障りって言われても仕方ないのに、悲しくて」
「うん」
「私も勢いに任せて大嫌いって言っちゃった…嫌いなわけないのに…」
何がきっかけで喧嘩をしたのかすら曖昧で、きっと先生からしたら幼稚な喧嘩だと思う。
私が勝己くんに甘えてしまっていたんだ。
勝己くんなら許してくれるって心のどこかで思っていたのかもしれない。
「感情に任せて傷付け合っちゃったのね。そういうのはさァ、素直な気持ちを伝えて謝るしかないのよ。後悔してるならなおさらね。月並みだけど結局それが1番の解決方法よ」
隣から私の肩を抱いてくれた先生の力は思ったよりも強くて、だけど優しくて、安心できた。
先生の言う通りだと思う。ちゃんと勝己くんと話をして謝らなきゃ。
またうざいとか目障りとか言われるかもしれないけど、それでもこのままは嫌だから。
「そうですね。帰ったら爆豪くんとちゃんと話して謝ります。聞く耳持ってもらえないかもしれないけど…」
「あの爆豪くんだからありえるわね…。それでもめげずにいれば彼だって聞いてくれるはずよ!」
「頑張りますっ!」
私が握りこぶしを作ると先生は優しく笑ってた。
先生に会って連れ出してもらって、話を聞いてもらえてよかった。
「青いわね!好きよ、そういうの!大人になると喧嘩だって出来なくなるものだから学生の若いうちよ!その時は落ち込むけど後になったら笑い話に出来る!それが青春よ!」
私を励ましながらも楽しそうに.話す先生を見て元気が出た。
少し話をしてたらあっという間に暗くなっていて、あまり遅くならないうちに帰路に着く。
帰ったらちゃんと話をしよう。後で笑い話に出来るように、今少しだけ勇気を出そう。
何を言われたとしても聞いてもらえるまで諦めない。
…と思ったけど雄英に近づくにつれて気分が重くなってくる。
勝己くんと顔を合わせるのが怖い。
もう私と一緒にいたくないって言われたらどうしよう。
別れようって言われたらどうしよう。
嫌な考えばかり浮かんで来る。
こういう時に限って到着するのがすごく早く感じて、重い足を引きずるようにしながら雄英の門をくぐった。
下を向いて歩く私の肩がトントンと叩かれて先生を見ると微笑みながら指を指してる。
そちらを向くと木に背中を預けて座ってる勝己くんがいた。
私に「ちゃんと仲直りするのよ」と耳打ちすると手を振りながら先に教師寮に戻って行くミッドナイト先生の後ろ姿を見送ってから、意を決して勝己くんの方に足を進める。
「…帰って来たかよ」
「……うん」
足音で気付いていたのか、私が声をかける前に勝己くんが声を発してゆっくり立ち上がった。
きっとここで私のことを待ってくれていたんだと思う。
謝らなきゃ。ちゃんと話さないと。
「ごめん」
その言葉に顔を上げると真剣な顔をして真っ直ぐこちらを見る勝己くんと目が合う。
まさか勝己くんから謝られるとは思ってなくてビックリして反応できなかった。
「カッとなってひでぇこと言ったって泣いてるなまえ見て後悔した。ごめん」
「私も、ごめんね…勝己くんに言われて悲しかったけど、っ、でも、大嫌いって言っちゃった、大嫌いなんて嘘なのっ、ごめ、ごめんね…」
ひどい事を言った罪悪感でいっぱいになって、泣くべきじゃないって思ってるのに言葉にすると涙が止まらなかった。
必死に涙を拭っても次から次にあふれて来て勝己くんの顔が見れない。
ジャリっと石を踏むような音が聞こえて一度涙を拭うのをやめて目を開けると私の足の近くに勝己くんの足が見える。
「わーっとるわ、ンなもん」
勝己くんが近づいて来たんだとわかったのと同時に彼の手が俯く私の顔に伸びてきて、そっと優しく顔を上げながら涙を拭ってくれた。
歪んだ視界に入って来た勝己くんは穏やかな顔をしていて、それが私を許したと言ってくれてるみたいだった。
「…わたし、勝己くんと…いっぱい喋っても、いい…?」
「当たり前だわ。なまえン声、聞かせろ」
「…勝己くんの前から…い、いなくならなくて、いい、の…っ?」
「いなくなったら殺す」
「…もう、いじわる言わない?」
「言わねぇ」
ひとつ聞く毎に返って来る言葉に余計に涙が止まらなくなる。
今回は勝己くんだけが悪いわけじゃないから私ももう一度ちゃんと謝らなきゃ。
彼の手をぎゅっと握りしめると優しく包み込むように手を握り返してくれて、それがあたたかくてなによりも安心した。
「勝己くんのこと、嘘でも嫌いって言っ…ごめんなさい…っ」
「何度も言わんくてもわかっとるわ、バカなまえ」
「ほんとは、大好き」
「それも知っとる」
いつも通り自信満々に言い切る勝己くんに思わず笑みがこぼれたのを見て勝己くんも少し安心したような表情を見せた。
勝己くんもさっき言ってたみたいに喧嘩したこと後悔して、いなくなった私を心配してここで待っていてくれたんだと思うと少し嬉しくなった。
「勝己く……」
私が名前を言い終わる前に勝己くんの顔が近付いて来て唇をふさがれた。
一瞬だけですぐ離れたけど、突然のことでびっくりしていると勝己くんがニッと少し悪そうな顔をして笑う。
「これで終いだ。帰んぞなまえ」
喧嘩は終わり、そう言って勝己くんは私に背中を向けて寮に向かって歩き出すけど、 今度はしっかりと私の手を握りしめて引いてくれた。
1歩後ろから勝己くんのたくましい背中を見て今日の勝己くんは素直に謝ってくれたり、キスしてきたり、普段は繋がないのに手を繋いでくれたり、なんだか私を甘やかしてくれてるみたいと少しおかしくなる。
「なに笑っとんだ」
「ううん、待っててくれてありがとう」
「待ってねぇわ」
喧嘩した時はすごく悲しくて、顔を合わせたくないとすら思っていたのに今はもう勝己くんの言葉が、行動が嬉しくて幸せな気持ちでいっぱいになって私の世界はやっぱり勝己くんが中心で出来てるんだ。
「勝己くん、好きだよ」
「ヘイヘイ」
「大好きだよ」
「しつけぇ」
ぶっきらぼうに答える勝己くんは照れ隠しをしているように見えて思わず軽く笑ってしまうと「笑ってんじゃねぇ」と文句を言われた。
それでも珍しく繋いだままの手は大きくて、あたたかくて、優しくて、今よりもっとずっと好きになる。
仲直りできてよかった。
ミッドナイト先生が言ってたみたいにこの喧嘩を笑い話にしよう。
次会った時にちゃんとお礼を言わなくちゃ。
あとでみんなにも謝ろう。
重かった足が嘘みたいに今は軽くて、繋いだ手はもう少しだけこのままがいいな、なんて思った。
fin.