短編
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恋愛に興味が無いわけじゃない。
ドラマだってマンガだって見る。物語の中の恋する女の子はみんなキラキラ輝いていて、いつだって幸せそう。
いいなぁ、ステキだなぁっていつも思う。
誰かを好きになるってどんなだろう。
用事があって帰りが遅くなってしまった。
もちろん外出届けも出したし、遅くなることも予め相澤先生に伝えて許可を得ていたから問題は無いんだけど。
明日も訓練があるし、私も遅くなるから気にしないで寝ていていいよとクラスメイトたちには伝えていたから寮の扉を開けると中は真っ暗だ。
私も早くお風呂に入って寝よう。
その前に外は蒸し暑くて喉が渇いたから潤したい。
キッチンに向かって行くとうっすらと明かりがついているのがわかる。
誰かが気を使って付けておいてくれたのかな。
「遅かったな」
「ひゃあ!!」
誰かいるなんて思ってなくて急にかけられた声に心臓が跳ねて変な声も出しちゃって恥ずかしい。
びっくりして心臓すごいドキドキしてる。
「ば、爆豪くん…起きてたの?」
「まァ」
冷蔵庫から出した麦茶をグラスに注いでいるのを見ると彼も喉が渇いて降りて来ていたのかな。
入学したての頃は目付きが悪くてずっと怒ってばかりの攻撃的な怖い人って感じで、才能もあって、なんだか近寄り難かった。
彼と接していくうちに怒ってるけどちゃんと周りを見てて、口では文句を言いながらも協力してくれたり、切島くんと上鳴くんと喋ってるのを見るとなんだかんだ楽しそうで、少し不器用な人なんだなと理解すると近寄り難いことなんてなかった。
「おらよ」
差し出された手を見ると今入れていた麦茶を持っていて、爆豪くんを見ると早く受け取れと言わんばかりの顔をしている。
「私に?」
「他に誰がいんだよ」
「あ、そっか。ありがとう」
麦茶を受け取っていただきますと言ってから口をつけると乾いた喉が潤っていく。
キンキンに冷えていて美味しい。生き返るってこういうことだ。
ぷはーって息を吐くと爆豪くんに笑われて恥ずかしくなって、思わず視線を逸らすと自分が持っている袋に目がいった。
「あ、あー!爆豪くんスイカ好き?さっきもらったんだけど人数分はないし、でも1人で食べるには多いし…だから一緒に食べよ!」
「好きか聞いといて食うの決定してんのかよ」
「だって誰かと食べた方が美味しいでしょ!」
手を洗ってもらったばかりのスイカを切り分ける。
夜遅いし断られるかなって思ったから、私が強制したのもあるけど拒否されなかったのはちょっとびっくり。
でも本当にクラス全員分なんて全然足りないし、ひとりじゃ食べきれないからよかった。
「ねえねえ、せっかくだから外で食べようよ」
「あァ?クソ暑ィだろ」
「夏っぽいよ!」
「こんな時間に外いんのバレたらどやされんぞ」
「そしたら共犯だね」
切り分けたスイカを持って、「ほらほら」って爆豪くんの手を引いて寮の外に出る。
外って言っても玄関先だけど、むわっと暑い空気が肌をまとって来る。
階段に腰かけて「お隣どうぞ」って隣をペチペチ叩くと渋々爆豪くんも隣に座ったのでスイカを1切れ渡した。
いただきますと挨拶をしてかじるとジュワっと甘い果汁が口の中に広がって、まさに夏って感じがする。
隣をチラリと盗み見ると爆豪くんも口を付けてた。
「おいしいね!」
「まあまあ」
「帰るの待っててくれたの?」
「ンなわけねぇだろ」
「ふーん、そっかぁ」
爆豪くんはそう言うけど、私にくれた麦茶しか用意してなかった。
自分が飲むつもりでキッチンにいたなら私と自分の分も用意するはずだもん。
普段はすぐに部屋に戻るのになんで待っててくれたんだろう。
「お前足どうした、捻ってたろ」
「なんで知って…あっ!」
みんな心配するだろうから内緒にしていたのについうっかり墓穴を掘ってしまって慌てて手で口を押さえるけどすでに手遅れ。
爆豪くんにすごい顔で見られて思わず視線を逸らしちゃった。
「アイシングしたんか」
「えっ、と…」
「明日の訓練に響くだろうがバカ女!冷やすぞ」
「い、いいよ!」
私の言うことなんて聞かずに爆豪くんは寮の中に戻ってしばらくすると大きめの桶に氷水を入れて戻って来た。
訓練中にちょっと捻ったけどそんなに痛くもないし、本当にもうなんともないのに。
それに心配しちゃうからと思って誰にも言ってないのになんで爆豪くんは知ってるんだろう。
なんか今日の爆豪くんはわからないことだらけだ。
「足」
「えっ!やだ、いいよ!」
「やだじゃねぇんだわ、はよしろや!」
んむ…。なんか、そんなに近くで見られるの恥ずかしい。
はいていたサンダルを脱いでゆっくりと捻った方の足を氷水につけると頭のてっぺんまで一気に冷たさが駆け抜ける。
「んひぃぃいい!!!冷たい!!!!!」
「うるせぇ!!!」
「爆豪くんの声だって大きいよ!」
眉間のシワを深くする彼を見て思わず笑がこぼれる。
少し前まで苦手だったのに、こんな風に話が出来るようになるなんて思わなかったなぁ。
「…なんかいけないことしてるみたい」
「は!?」
「あ、バレたら怒られるからいけないことだよね!」
「……」
「ひゃあっ!!」
無言になったと思ったら、爆豪くんが氷水を片手ですくって私にかけて来たから冷たいのとビックリしたのとで悲鳴みたいな大きな声がまた出しちゃって恥ずかしい。
「な、なに!?」
「考え無しに言ってんじゃねェよ、クソが」
「なんでそんなに怒ってるの?」
「あぁ!?てめェが…っ!……なんもねぇわ」
そっぽを向いてしまった彼は居心地の悪そうな顔をしてる。
そんな彼を見ながら自分の両手を氷水に付けてキンキンにしてほっぺに押し当てると驚きながら怒った顔をしてこっちを向いた。
「なにすんだてめェ!」
「仕返し!これでおあいこだね!」
「な、おま……はぁ…バカかよ」
「え?…うわっ!」
今度は呆れた表情をしたあとにまた水をさっきよりも思い切りかけられたから顔と髪の毛がびしょ濡れになった。
ニヤッとしたり顔で笑ってるから思わず私もその笑ってる顔に水をかけ返してしまった。
「あっ!つい反射というか…ごめんね」
顔を拭う爆豪くんはその手をどけたらまた鬼みたいな顔で怒ってくるのかな。
だとしたら喧嘩はしたくないしもう1度しっかり謝ろう。
そう考えてた。
「これでお前も共犯だわ」
彼のその表情を見た瞬間に心臓を雷で撃たれたみたいな衝撃が走った。
その笑顔は反則…。
今まで見たことがない、少年みたいな顔で笑っていて、それがすごく眩しくて。
濡れた髪や肌が月明かりに照らされてキラキラ光って眩しいのかと思ったのに、なんだか爆豪くん本人が発光しているみたい。
爆豪くんの表情を見てドクンと心臓が脈打った後に胸がきゅうっと締め付けられたみたいに苦しくなって、そのあとはドキドキと鼓動が鳴ってうるさかった。
胸の音が爆豪くんに聞こえてしまいそう。
「あ…」
ドラマやマンガの中の人が言ってた。
「恋に落ちるのは一瞬」だって。
そんなことあるわけない、それは作り話の中の話で誰かを好きになるってゆっくりと時間をかけていくものなんだと思っていた。
「おい、みょうじ」
「な、なに?」
「なに急に固まっとんだ、そろそろ戻ンぞ」
不思議。今まで爆豪くんと一緒にいてもそんなこと思ったこともなかったのに。
戻りたくないなぁ、なんて。
もっと顔が見たくて、声を聞かせてほしくて、姿を留めておきたくて、その手に触れたいと思ってしまう。
自分が自分でなくなっちゃうみたいで恥ずかしさが込み上げてくる。
「…なんで足のこと知ってたの?」
「見てりゃァわかんだろ」
こういう言葉をなんとも思ったことはなかった。
深い意味はないはずなのに、私を見ていてくれたって自分の都合のいいようにとってしまいそうになる。
どうしよう。
「あ!私やるよっ!」
「いいからそこいろ」
「うん…ありがとう」
アイシングに使っていた桶の中の氷水を流して片付けてから寮に入る彼の後を急いで追うと「気ィ付けろや」と私の足を気遣ってくれた。
爆豪くんってこんなに優しい人だったっけ。
寮に入るとクーラーが効いてて涼しくて、顔や髪から滴って濡れた肩が少しだけ寒さを感じる。
爆豪くんはお風呂場の方に行って片付けをしてくれてるみたい。
何から何までさせてしまって申し訳なくなってくる。
「わっ!」
「風邪ひかねぇようにしとけ」
戻って来た爆豪くんが何かを私に投げて来て、それが顔に直撃したけど痛くない。
はらりと顔から落ちる物をキャッチして確認するとタオルだった。
濡れたからタオルを準備してくれて、私の体調を気遣う言葉をくれて、そんな些細なことだけどそれがすごく嬉しい。
今まではそんなこと思いもしなくて、爆豪くんの優しさに気付きもしなかった。
「濡れちゃったもんね」
「てめェは風呂入って体あっためとけ。足はあっためんなよ」
「うん、わかった」
「俺ァ部屋戻ンぞ」
「うん。帰り待っててくれてありがとう」
「だから待ってねェわ、てめェの頭は花畑かよ」
「そうかも」
恋をするってこういうことなのかな。
なんだかそれはとても甘酸っぱくて、胸が苦しくて、でも嬉しくて。
「めでてぇな」
「そうなの。だからありがとう!」
「…言ってろ」
爆豪くんって素直じゃないんだ。
今までの彼を見て嘘をつくことはしない人だってわかってた。
嘘はつかないのに素直じゃない。
言葉は乱暴だったりするけどその裏には彼の優しさがあるんだ。
「爆豪くんも風邪ひかないようにね」
「そんなヤワじゃねェんだわ。じゃあな」
「おやすみなさい!」
自分の部屋に戻るためにエレベーターに向かう爆豪くんの後ろ姿を見て名残惜しくなってしまった。
「…すきに、なっちゃった」
声に出すと心臓がドキドキと早く脈打って気持ちを実感する。
本当に一瞬で恋に落ちることってあるんだなぁ。
私の世界は別世界になったみたいに鮮やかになった。
初めてのこの気持ちを大事にしたい。
彼のことをもっとよく知りたい。
「ふふっ」
彼の顔を思い出しただけで笑みがこぼれる。
ああ、これが恋なんだね。
誰かを思うだけでこんなに気持ちが満たされる、とってもステキなこと。
また明日、早くあなたに会いたいな。
fin.