短編
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走れ、走れ。もっと速く。
息が切れても関係ない。速く、もう少し。
「はぁ、はぁ…」
雄英の門をくぐり抜け、寮までの道を全力で走り抜ける。
なんで急いでいると歩き慣れた道がこんなにも遠く感じるんだろう。
見えた、ハイツアライアンス。私たちの家。
寮の玄関を勢いよく開け、靴も片付けず放ったまま談話室に走り込む。
「か、勝己くんっ!!!」
「あ、なまえちゃんおかえりー!」
「みょうじお疲れ!」
息も切れ切れで慌てて帰って来た私とは裏腹にクラスメイトたちはいつも通り明るくのんびりと私を迎え入れてくれて、思っていたのとは違う状況に立ち尽くしてしまう。
「あ、れ?勝己くんは?個性事故に遭ったって聞いて…」
インターン先でヒーロー活動をして帰宅しようと準備をしていたら携帯にメッセージが入って来た。
それはクラスのグループメッセージで「爆豪が個性事故に巻き込まれた」という内容だった。
私はいてもたってもいられず、慌てて帰って来て今に至るというわけ。
「あー。そうなんだけど全然いつも通りなんだよ、これが」
「心配して急いで帰って来たよな!?悪いことした!」
「ううん、大丈夫。何もなくてよかった」
上鳴くんと切島くんがそう言うので少し安心した。
個性事故と言っていたけれど一体どんな個性だったんだろう。
でもとにかく何も無かったならそれが一番だ。
「帰って来てたんかよ」
その声の方を向くと勝己くんがエレベーターから降りてこちらに歩いてきてたので私も勝己くんの方に走って近付く。
「勝己くん大丈夫!?なんともない!?」
「なんともねェわ。心配して帰って来たんかよ、可愛いな」
「え…?」
「は!?」
発言した本人も何故かすごい驚いているけど、みんなの前でそんなことを言われたこちらは驚きすぎて一瞬思考停止してしまった。
そんなこと2人の時でも言わないのに何で今みんなの前で言うの!?
顔に血が集まってきて頭ぐるぐるしそう。
「なになに爆豪!ノロケかよ~!珍し~!」
「見せつけてんじゃねェ!!他所でやれよ!!!」
「うっせェ!!黙れ!!誰が好き好んでてめェらの前で惚気けるかよ!!」
「みょうじ大丈夫か?」
固まったままの私を瀬呂くんが気にかけてくれて、大丈夫じゃないけど「大丈夫」とだけなんとか返事をした。
勝己くんがそんな発言をしたから居合わせたみんなは変に盛り上がっている。
「大体、なんでてめェはそんな乱れてんだよ!誘っとんのか!?」
「~~~~~っ!!」
たしかに急いで帰って来たから髪の毛も制服も少し乱れてしまったままだったけど、一体今日はなんだっていうのか。
言った本人もビックリしてるってなんなの!!
「もうっ!なんで今日の勝己くんはそんなことばかり言うの!!恥ずかしいからやめてよ!!」
「こっちだって言いたかねェけどなまえが可愛すぎんのがいけねェんだろ!!」
普段こんなこと絶対に言わない。みんながいる前ならなおさら。
「個性事故」その言葉が脳裏をよぎった。
恥ずかしすぎてどうにかなりそうだけど、私の予想を確信に変えるためには聞くしかない。
「勝己くん、上鳴くん可愛い?」
「可愛いわけねェだろ、こんなアホ面」
「ひどくない!?」
「……私は?」
「可愛すぎて今すぐ抱きしめてェ」
「え、なに?俺ノロケに使われてただ傷付いただけじゃん…」
真顔でそう答える勝己くんに自分で聞いといてあれだけどすごく恥ずかしい。
でも多分上鳴くんには申し訳ないけど、私相手にだけ個性発動してる、よね?
だとしたらみんながいつも通りだと言っていたことも納得出来る。
私には全然いつも通りじゃないじゃん!!
「爆豪。お前の個性事故の個性がわかった」
そう言いながら寮に入って来たのは相澤先生。どうやら個性を調べていてくれたみたい。
「ざっくり言うと好きな人に対して思ってることを素直に言ってしまう個性ってとこだ」
「ンだよそれ!!!!!!」
相澤先生の説明を聞いたみんなも私も納得した。
やっぱり私の予想は大方間違えていなかった。
勝己くんも被害者だけど私だって被害者になるよね…。
私を被害者って言うのも良くないけど、この数分だけで何回もドキドキして私の心臓もたないと思うの。
でも逆に言えば好きって思ってくれてるってことだから、それは素直に嬉しいと思ってしまった。
「数時間で効果切れるらしいから、まァ頑張れ」
先生はそう言い残し帰って行った。
個性の説明を聞いたみんなは私と勝己くんを微笑ましく見つめてくる。
「そりゃあ爆豪が惚気けるのもしょうがないよなぁ」
「爆豪、みょうじのこと大好きなんだなぁ」
「普段そんなこと思ってるんだなぁ」
「てめェらぶっ飛ばす!!!!そこ並べやコラァ!!!!」
勝己くんは両手をバチバチと小さく爆発させて今にもみんなを攻撃してしまいそうな勢いだ。
どうしたものかと考えていると怒って舌打ちをした勝己くんに手を引っ張られエレベーターに乗り、勝己くんの部屋に連れて来られた。
「ダァ!あいつらクソうぜぇ!!!」
「個性のせいなんだからしょうがないよ」
私だって普段言われないことばっかり言われてビックリしてるんだから、そりゃみんなは面白がると思う。
上鳴くんと瀬呂くんなんて特に勝己くんと仲良くて2人ともそういう系の話大好きだからここぞとばかりに楽しむだろう。
「…言わねェだけで普段から思ってることだわ」
私との距離を詰めて頬を触る手があたたかくて優しくてドキドキと胸が脈打つ。
恥ずかしいけど勝己くんのきれいな赤い瞳で見つめられたら目をそらせなくなってしまう。
「笑っとる顔も、こうして恥ずかしがってる顔も毎日可愛いと思ってる」
「め、面と向かって言われるととても恥ずかしいです…」
「しょうがねェだろ、勝手に言っちまうんだから」
個性のせいで本音を言ってしまうから本人もバツが悪そうにしている。
いつも私に触れる勝己くんの手はとても優しいのに、なんだか今日は一段優しく感じる。
それになんというか雰囲気が甘い。
コツン、と勝己くんのおでこが私のおでこにくっつく。
「わ、私インターン帰りだし、急いで帰って来たから汗かいてるよ…」
「なまえのならいい。俺のために急いで来たンだろ、ありがとな」
素直にお礼まで言ってくるなんて、この個性すごいと思ってしまう。
頬に添えられた手で少し顔を上に向けられて、勝己くんの唇が降ってくる。
優しくて短いキス。
「足りねぇ」
そう呟いてまた唇がくっついたと思ったら下唇を優しく食まれる。
それだけで私の熱は上がって息も漏れてしまう。
「ん、あ…」
舌が口の中に入って来て重なると体中に電気が走ってるみたいにビリビリして、勝己くんに必死に応えようと洋服をシワが出来ちゃうんじゃないかってくらい強く握りしめる。
吐息も、濡れた音も、全部が刺激に変わる。
頑張って耐えてるけど、足に力が入らなくなって来て立ってるのが精一杯。
「は、ぁ…はぁ…」
「えっろい顔。こんなツラ絶対ェあいつらに見せんじゃねぇぞ」
「み、見せないよ…勝己くんだけだもん…」
「当たり前だろ。俺だけのなまえなんだからよ」
何度も何度も、角度を変えては唇が重なり合う。
上顎を舌でなぞられて今までより強い電気が体中を巡ってへたりこんでしまった私を勝己くんが支えてくれる。
「はぁ…っ」
「…必死なのも、欲に溺れちまったツラも、たまんねェな」
酸素を取り込むけど頭が上手に働かなくて、ふわふわとした感覚だけど勝己くんの熱いくらいの体温だけはハッキリと感じる。
「もっとなまえが欲しい」
「……っ」
勝己くんの目は捕食者のそれで、表情はやけに色気があって、そんな顔でそんなことを言われてしまっては、浅ましくも期待してしまう。
「…好きだなまえ…」
「私も、好き。大好きだよ、勝己くん」
普段好きだなんて口にしないのに。可愛いも言われたことなかったのに。
口にしないだけでそう思っていてくれてるなんて嬉しい。
でもね、口にしなくても勝己くんの私に対しての接し方はとても優しいから大事にしてくれてることちゃんとわかってるんだよ。
「やべぇ、離したくねェ…」
「ふふ、いつもそうやって思ってくれてるの?」
「ンなもん決まってんだろ。そんくらいなまえに惚れとんだ、俺ァ」
「じゃあ、一緒だね」
その日は個性の効果が切れるまで何度も何度も抱きしめて、キスをして、普段言葉にされない事を囁かれた。
きっと明日は何時間も勝己くんの部屋に閉じこもってたことを上鳴くんや瀬呂くんにからかわれるんだろうなぁ…。
慣れなくてすごく恥ずかしかったけど、たまには言葉にしてくれるのも嬉しいからこういう事も悪くないって思ってしまったのは内緒にしておこう。
だってバレたら勝己くんは絶対に怒るもんね。
fin.