短編
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私たちは少し遅めに2年生になった。
そしてそれはもちろん私たちにも後輩が出来るということで、ヒーロー科は縦の繋がりはあまりないとはいえ、それでも私は新入生が入ることを楽しみにしてた。
この時までは。
「キャアアアア」
「轟先輩ィィ」
「ダイナマイト先輩ィィィ」
「かっこいいいィイYEE」
「連絡先いいですかぁ」
「大ファンなんですぅ」
「写真とってくださぁい」
新1年生の女の子たちに追いかけ回される勝己くんと轟くん。
私はいつも端っこでクラスの女子たちとその様子を見ているけど、正直とっても嫌。
轟くんは1年生の時から学年屈指のイケメンって言われてたし、かっこいいのにどこか抜けてて、人気が出るのもわかるっていうか。今まで騒がれなかったのが逆に不思議っていうか。とにかく納得出来る。
問題は勝己くん。
なんであんなに女の子に追いかけ回されてるの。
そりゃあ、あの戦いの勝己くんはかっこよくて、間違いなくヒーローだった。
でも彼氏が女の子に囲まれて追いかけられてるなんて面白くない。
「みょうじ最近機嫌悪いねぇ」
お昼休み、クラスの女子7人で学食でランチタイムをしている時に三奈ちゃんにそう言われた。
「そんなことないよ」と返したけどそんなことある。もうずっと心は穏やかじゃない。
「轟も爆豪も新入生人気すごいもんね」
「あの戦いの後だもの。新入生が騒ぐのも少しわかるわ」
「轟くんはともかく爆豪くんもあそこまで人気が出るなんてね!」
「新入生の皆さんはお二人を憧れの先輩として見ていると思いますわ」
「そうだよ、なまえちゃん!憧れだから心配することないんよ!」
「……ありがと」
気を遣わせてしまった。良くない、良くない。
みんなの言う通り新入生の子たちにとって二人は憧れの先輩で、彼女たちはいわゆる彼らのファンなんだと思う。
それにヒーローって仕事は人気があった方がもちろんいい。
頭ではわかってる。わかっているんだけど頭と心は連動してくれない。
新入生の熱量は凄まじいもので、轟くんも勝己くんもお昼ご飯すらゆっくり食べれなくなってしまったみたい。
休み時間は逃げ回ってるおかげで学校にいてもあまり話せなくなっちゃったし。
校内にある自動販売機で飲み物を買いながら思わず、はぁ…と少し大きめのため息が漏れてしまった。
「みょうじ先輩、ですよね?」
「え、あ、はい!」
先輩と呼ばれることに慣れていないのと急に話しかけられてびっくりした。
隣を見るとスタイルのいい男の子が立っていて、制服でヒーロー科だとわかった。
見たこともない子に名前を覚えられているとは思わなかった。
「あの戦いでの活躍見てました!」
私ですらこうして言ってくれる後輩がいるわけだから、勝己くんと轟くんの人気は頷ける。
だって二人とも本当に苦しい戦いだったけどたくさん頑張ったのを近くで見てた。
頑張ったなんて言葉じゃ安すぎるくらい二人とも身も心もボロボロになりながら、それでも戦った。
私も自分に出来ることは精一杯やったけど、活躍したかと言われるとわからない。
「本当に、目を奪われました」
「嬉しいけどちょっと恥ずかしい…ありがとう」
あまりに彼が真剣に褒めてくれるもんだから、私は気恥ずかしくなって「じゃあ、またね」とその場を去ろうとして背中を向けると買った飲み物を持っていない方の手を掴まれた。
「あ、その…連絡先、聞いてもいいですか?」
これがファンか…!雄英高校ヒーロー科すごい…!
連絡先くらい教えてもいいかと思ったけれど、女の子に追いかけられてる勝己くんを思い出す。
……勝己くんが女の子に連絡先教えてたら、やだ。
「連絡先はもう少し仲良くなってからがいいな」
「そ、そうですよね!すみません」
「ううん、ありがとう。それじゃあ、またね」
今度こそ彼と別れて教室に戻りながら改めて私が目指しているヒーローってすごいなぁと思う。
ヒーローになるってことはファンがいてくれるってことだもんね、だから勝己くんたちが追いかけ回されてるのもファンがあってのことだし…。
だけど勝己くんが女の子に囲まれてるのも気持ちいいものじゃない。でもファンからの人気はヒーローには必要不可欠なわけで…。
私がただヤキモチ妬きすぎなだけなのはわかってるんだけど…。
「うーーーん……」
悶々としながらも私ももっともっと頑張らなきゃいけない、そう気合いを入れ直し午後の授業を受けて、一日が終わり寮に戻る。
放課後も相変わらずうちのクラスの人気者二人は女の子に追いかけ回されて、二人揃って寮に逃げ込んでいて大変そうだった。
夜になり、みんなが自室に戻ったあとも私は悶々としたままで談話室のソファに体を沈めていた。
私の気持ちの問題ということはわかっているのに、勝己くんの周りに女の子がいるのを見るとついムッとしてしまう。ダメだなぁ。
「はぁ…」と本日二度目のため息が出て来る。
「バカでけぇため息だな」
後ろから声がしてそちらに視線を向けるとトレーニングをしてシャワーを浴びて戻ってきた勝己くんが立っていた。
まだ少し髪の毛が濡れててしずくが垂れてる。
「…寝なくていいの?」
「1年のせいでこの時間か朝早くねェとろくにトレーニングも出来ねェンだよ」
「ふーん。大変だね、人気者は」
「あ?」
やだ、今のすごく感じ悪かった。勝己くん絶対怒った。
勝己くんは何も悪くないのに。私の心の狭さの問題なのに。
「なに不貞腐れとんだ」
「不貞腐れてないもん」
「じゃあ普通に喋れや!」
「喋ってるもん!!」
なんで勝己くんに八つ当たりしてるの。
ああ、もう、涙出て来た。
見られたくなくて勝己くんから顔を背ける。
「……ごめん」
「なんなんだよ、てめェは」
今度は勝己くんがため息をついた。
このまま部屋に戻っちゃうんだろうな、そりゃそうだよ。
こんな意味もわからず怒り散らす彼女となんて一緒にいたくないもん。
そう思ったのに勝己くんは私の隣に座った。
「…最近あんまちゃんと時間作ってやれなくて悪かった」
まさか勝己くんの口からそんな言葉が出て来るなんて思いもしなかった。
そんなふうに思ってくれてたのに私はとことん嫌な女だ。
「勝己くんは悪くない。悪いの私だもん」
「……ん、そんで?」
その口調は優しくて、私が思ってること全部聞いてくれようとしてるみたいだった。
いつもなら「ハッキリ言えや!」とか「さっさとしろ!」って言うのに私が言い始めるのをゆっくり待っていてくれてる。
「……勝己くんが女の子たちに囲まれて、追いかけ回されてるの、やだ」
「は?」
「勝己くんのかっこいいところも、優しいところも、全部私だけが知ってたのに、他の子もそれに気付いて勝己くんのこと好きになったらやだ!ヒーローは人気があった方がいいのわかってるけど、でも勝己くんの周りに女の子がいっぱいなのやだ!私が最初に勝己くんのこと好きになったんだもん!私の勝己くんだもん!!」
うわぁ、やってしまった…。
思わず勢いで本心全部言ってしまった。絶対勝己くん引いたよね…。
同じヒーローを志しながら女性ファンが付くことをこんなにも理解出来ない彼女なんて最悪すぎる。
「ごめん…頭ではファンとか人気が大事なことわかってるのに、目の前で見ると独占欲がこう……わぁ、ごめんね…イヤな女だ私…めんどくさいよね…取り消すの無理かなぁ…」
後悔が大きすぎて勝己くんの顔が見れない。出来ることなら時間を巻き戻したい。今言ったこと全部無かったことにしたい。
さっきは勝己くんに八つ当たりしちゃって涙が出て来たけど、今度はこんな自分が嫌すぎて涙が出て来た。
「聞いちまったし、取り消せねぇだろ」
勝己くん今どんな顔してるの?声は怒ってないけどわかんない。怖くて見れない。
こんなめんどくさい女嫌いになった、よね。
「他の男に触らせてんじゃねェわ」
「え?」
「手ェ握らせてんじゃねェ。ガードが甘すぎんだよ。どう見たってアイツのは女見る目だったろーが、わかれや。てめェの男は俺で、てめェは俺のモンだろ」
その言葉の意味を理解する事に胸がきゅうっと締め付けられて、顔の熱は上昇していく。
びっくりして涙も止まってしまった。
「てめェの周りにクソみてェな目でてめェを見るヤツばっかだったらンなもん、ぶっ潰したくなるだろーが。なまえは俺が最初に見付けたんだから他に渡してたまるかよ」
「……勝己くんってそういうこと思うんだね」
大好きな人にそんなこと言われると恥ずかしくなって、そんな返しをするのが精一杯。
勝己くんが私の頬に手を添えて流れたままだった涙を拭ってくれて、その赤い目に見つめられたらもうすでに恥ずかしくて赤くなってるのにもっともっと恥ずかしくなって、だけど目を離せなくなる。
「そりゃァ、なまえのことだかんな。クソだせぇけど妬くだろ」
「わ、あ、そっか」
「ンだよ、その反応」
「だって勝己くんがヤキモチ妬くなんて思わなくて」
勝己くんの顔が近付いて来て思わず目を閉じるとおでことおでこを合わせてきた。
あ、顔すごい近い。目、きれいなんだよなぁ。顔整ってるし…。お風呂上がりのいい匂いもする。
「そんくらい惚れてるってことだわ」
「私、愛されてるね」
「まァな」
恥ずかしくて、嬉しくて、 なんだかくすぐったくて、幸せで、思わず微笑んだ唇にキスをされる。
私はすごく単純だなって思う。
勝己くんの言葉ひとつで他の子のことなんて気にする必要ないって思えちゃう。
どんなに時間が取れなくても私のことを考えていてくれる。
そんな幸せなことってない。
「私が最初に勝己くんのこと好きになった、私の勝己くん、なァ。てめェの口からそんな言葉出て来るとはな」
今度は少し意地の悪い顔でニヤリと笑った勝己くんをかっこいいと思う。
でもなんだか弱みを握られてしまったように思うのは気のせいじゃないと思うんだ。
「それは、だって…私の勝己くんだもん…」
「…そーだなァ。てめェの勝己くんだわ」
そう言ってまたキスを落とされるともう勝己くんのことしか考えられなくなっていく。
ああ、好き。好きだなぁ。大好きだなぁ。
私だけがこんなにも甘くて、どこか余裕のなさそうな顔をする勝己くんを知っている。
なんで私はあんなに気にしてイライラしていたんだろうってくらい今は心が穏やかだ。
私は勝己くんのことで簡単に一喜一憂する。
「…ん?なんで私が男の子に手掴まれたの知ってるの?」
「あ?そりゃ見てたからだろ」
「声掛けてくれてもいいのに!」
「逃げとったんだ、こっちは!」
キミはどんな時でも私を見ていてくれたんだね。
これからはちゃんと応援する。
ファンサービスがんばってね、勝己くん。
fin.