短編
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私の邪魔するものはいつだって私自身だ。
秋の気配はとっくに過ぎ去って寒さがより強くなり、雪が降り出す季節。
寮生活となってから初めての冬。
今日は学校も休みで、寒いし鍋パーティーでもしよう!ということになった。
よくよく考えたらしょっちゅう鍋パーティーをしている気がするけど、要するに何でもいいからみんなでワイワイしたい、そのための口実だ。
「ちょっとは参加しろよ、爆豪!」
「めんどくせぇ。てめェらで勝手にやれや!」
みんなで話し合ってる後ろで切島くんと言い合ってるのは、こういうことに参加したがらない勝己。
毎度のことだからとクラスのみんなも気にもとめず役割分担を決めていく。
「じゃ、今回の買い出しA班は緑谷とみょうじね!」
「はーい!」
人数も多いから買い出しの量も多い。
だから毎回何班かにわけてみんなで分担して買い出しに行く。
今回は出久と同じだから小さい頃一緒に駄菓子屋に行ったのを思い出すなぁ。
「なまえちゃん、多分僕たちかっちゃんの…」
「チッ、やりゃァいいんだろ!おら行くぞクソなまえ!」
「え、ちょっと、私出久となんだけど!」
今までやる気のなかった勝己が輪の中に入って来たと思ったら手を引っ張られてクラスの輪から離れていく。
それを見た三奈ちゃんや上鳴くんなんかはしたり顔をしてた。
あー、なるほど。出久と勝己の関係を利用して勝己にやらせようとしたのね、策士だ。
私はそのまま手を引っ張られながら半ば強引に寮を出た。
私と出久と勝己は幼稚園からの幼馴染で、小さい頃からずっと一緒にいた。
出久と勝己はだんだん仲が悪くなっていってしまったけれど、私はふたりと変わらない関係でいた。
でも変わりたいこともあった。
私は勝己が好き。
いつ何がきっかけで彼に恋愛感情を持ったのかも忘れてしまったくらい前から、ずっとずっと好き。
でもこの気持ちを打ち明けるのが怖くてずっと言えないでいる。
言ってしまえたら楽になるのかもしれない。だけど隣にいれなくなってしまうのが怖い。
幼馴染でもいいから隣にいたい。幼馴染という特別な関係に私は甘えてしまっている。
「さっさと済ませて帰んぞ」
「なんで行く気になったの?」
「は!?あ、れだろ、切島がうっせェからだろ」
「切島くんいい人だよねぇ!」
私がいるからって言ってくれればいいのにって思ってもそんなわけはない。
切島くんに言われたのもあるだろうけど、出久には何事にも負けたくないって闘争心があるから出久の名前が出た途端にやる気になったんだろうなぁ。
勢いで寮を出て来たのに買い出しのメモだけはしっかり握りしめているから、そういうところは抜け目ないというか。
それに握りしめているのはメモだけじゃなくて、私の手も。
寮を出てからそのままずっと。
「離して」その一言を言わずにいる私は卑怯だと思う。
私は幼馴染で、勝己にとって女の子という位置にもなれないから、だから手だって繋げちゃうのかもしれない。
もし勝己に好きな子がいたら?その子が私たちを見ちゃったら?
勘違いされちゃうんだよ?
好きって言っても信じてもらえないかもしれないんだよ?
そうなればいいなんて、そんなことを思ってしまう私は卑怯で、自分が嫌になる。
「貸せ」
「ん、ありがとう!」
買った荷物を持とうとすると勝己が手を差し出して来る。
昔からいつもそう。
小学生の時に大荷物で帰る時も、家族で一緒に買い物に行った時も、勝己は絶対に私よりも多く持ってくれる。
そんな優しさも好き。
「寒くなって来て雪降りそうだねぇ」
「たまったもんじゃねェな」
「ふふ、勝己は寒いの苦手だもんね」
「個性の調子がクソなだけだわ。俺に苦手なモンなんざねェんだよ!」
「そうだねぇ!」
私の手を握る代わりに勝己の手には荷物が入った袋が握られている。
それでも今勝己の隣にいるのは私だけで、他愛のない話すら楽しくて、寮に着かなければいいのにと思う。
「くしゅんっ」
寒さが増してきて私がくしゃみをすると隣を歩く勝己は立ち止まって私を見る。
あ、くしゃみ嫌だったかな。
「なんでマフラーも巻いてねェんだお前は」
「だって勝己が引っ張って行くからさぁ!コート持って来れたのだって奇跡だよ!」
私がそう言うと勝己は舌打ちをして自分に巻いていたマフラーを取ると私の首に巻いてくれる。
「え、いいよ!勝己が寒くなるよ!?風邪ひいちゃうから…!」
「黙ってろ。なまえに風邪ひかれる方が迷惑なんだよ」
「……ありがとう」
言葉にはトゲがあるけど、私が風邪をひかないように心配してくれているのがわかる。
本当は誰よりも人を見てて優しいのに態度や言葉が悪いからいつも損しちゃうからもったいない。
巻いてくれたマフラーは勝己の体温が残っていてあったかくて、勝己の匂いがする。
勝己に包まれている気がして、勝己の優しさが体に染み込んで来て、好きがもっともっと大きくなる。止まらなくなる。
どんどん、日に日に、1秒ごとに
「…すき」
「…………は?」
溢れた思いが口から出てしまって、勝己を見上げるとその表情はなんとも言えなくて、拒絶されているような気がして胸がチクリと痛んだ。
「勝己の使ってる洗剤の匂い!いい匂いで好き!何使ってるの?」
「……知らねェ。帰ったら見りゃいいだろ」
「うん、そうする!」
慌てて適当なことを普段通りの私で繕った。
あなたのことが好き。
今、そう打ち明けていたらやっぱり私を拒絶した?
もう言ってしまいたい気持ちと幼馴染でもいられなくなってしまう恐怖で葛藤して、結局心地良い居場所を手放したくなくて、あと一歩踏み出せずに逃げてしまう私はやっぱりどうしようもない卑怯者で意気地無しだ。
「……手」
「手?」
「冷えてんだろ」
「え?うん、冷たいけど」
そう言うと空いている方の手で私の手を掴むとそのまま自分の手も一緒にコートのポケットの中に入れてくれたので、また手を繋いでしまっている。
ねえ、勝己。
勝己は私の事どう思ってる?ただの幼馴染?
なんで手を繋いでくれるの?
なんでマフラーを巻いてくれるの?
なんでコートの中であたためてくれるの?
そんなの私だってちょっとだけ期待しちゃうんだよ。
少しは私のこと女の子として見てくれてるのかなって。
だって、私たちのやってることって恋人同士みたいだよ。
幼馴染じゃなかったら素直にこの気持ちを伝えられていたのかな。
この誰よりも近くて誰よりも遠い距離が大好きで大嫌い。
私の邪魔をするのは、いつだって幼馴染という特別な関係とそれに甘えてしまう意気地無しで卑怯な私自身。
素直に可愛く伝えられたらいいのに。
「……すき」
「……期待させんじゃねェわ」
その言葉はお互いの耳には届かなかったけれど、きっといつか届くといいなぁ。
fin.