短編
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4月。私たちは高校3年生になった。
ここにいられるのもあと1年しかないんだって思うと感慨深くなる。
あっという間に桜も散ってしまったけど、今年は少し長く見れたように思う。
「何ボケっとしとンだ」
「んー、4月だなと思って」
「ンだそりゃ」
後ろから来て隣に並んだ彼、爆豪くんの顔を見ると出てくる言葉より穏やかな表情をしている。
そのまま一緒に寮までの道を歩く。
いつから彼の隣にいることが多くなったっけ。
彼を好きだって自覚したのはいつだったっけ。
「だって私たちもう3年生だよ!卒業だよ!?」
「まだ1年あんだろ」
「そうだけど!」
あと1年を雄英で過ごして、このまま問題なく卒業出来たら私たちは晴れてプロヒーローとなる。
お互いに同じ仕事をするわけだけど、事務所も違ければ休みが保証された仕事でもないから現場で会えたとしてもそれだけで終わってしまう可能性の方が大きい。
「あっという間にお別れだよ」
自分の口から出た言葉に胸が締め付けられる。
雄英とも、みんなともお別れ。
遠くなるわけでもないけど近くにいられるわけでもない。
だけどこうして爆豪くんの隣を歩くこともきっとなくなってしまう。
やだなぁ……。
「あっ!それよりももうすぐお誕生日だよね!何か欲しい物ある?」
「本人に聞くンかよ」
「聞いただけであげるとは言ってませーん!」
「うざ」
暗くなってしまいそうになる気持ちを払うように話題を変える。
爆豪くんの誕生日を利用してしまうようで嫌だったけど、この話はしようと思ってたから。
高校で、ちゃんとお祝い出来る最後の誕生日だから喜んでもらいたい。
だけど見てる感じ物欲無さそうだし、何をあげたら喜んでくれるのか見当もつかなくて悔しい。
「…出かけっから付き合えや」
「うん?いつ?」
「日曜」
「え!?誕生日前日ってこと!?17歳最後の日が私と一緒でいいの!?」
「その感覚がきめェ。つーかてめェが欲しいモンあるかって聞いて来たンだろ」
聞いたのは確かに私だけど…一緒に出かけていいの!?私が!?
あとそれは欲しい物ではないじゃん…。
「上鳴が水族館のチケット押し付けて来やがって余ってンだよ」
「へぇ!上鳴くん自分で使いそうなのにね!」
「早めの誕プレっつって2枚」
「水族館のペアチケットってデートみたいだね」
深く考えずに言葉にして後悔した。
爆豪くんはそんなつもりじゃないだろうし、そういうの嫌いそうだし、気分悪くさせたかもしれない。
上鳴くんがデートで使いそうだなって思って、あぁ、やっちゃった…。
「そォだな」
後悔して少し俯いた私の耳に届いたのは穏やかな声での肯定の言葉で、ビックリして爆豪くんを見上げると優しい横顔をしていて胸がドキッとした。
こんな表情されたら、もっと好きになっちゃう。ずるい。
「……張り切りすぎちゃったかな…」
誕生日前日。準備を終わらせて共有スペースに早めにおりる。
好きな人にデートと肯定されて舞い上がっちゃって、新しい服を買っちゃったりして、髪の毛も巻いてみたりして。
普段しない格好だから変に思われるんじゃないかって、なんか今さら恥ずかしくなってきた。
…結局、なんで一緒に行く相手に私を選んだの?とは怖くて聞けなかった。
男の子同士で水族館なんて行かなそうだし、たまたまよく一緒にいる女の子が私だからって、それだけの理由かもしれないけど。
「早ェな」
椅子に座っているとエレベーターからおりてこちらに近付いて来る爆豪くんに声をかけられる。
おはようって挨拶をして目の前に立つ彼をちゃんと見ると、いつもの私服とは違う。
この人何着ても似合う…!かっこよくて眩しい…!!
「いつもと違うのもかっこいいね!」
「馬子にも衣装」
「それ褒め言葉じゃないって知ってる!?」
「知ってっけど」
馬鹿にするなとでも言いたげな表情で私を見てる。
やっぱりこの格好は似合わなかったのかな、普段と同じような格好で来ればよかった。
「…嘘。普段と違ェのも似合っとる」
「…え?」
「なんもねェ!さっさとしろや、置いてくぞ」
ほ、褒めてくれた…。それもちゃんと…!
頭が言葉を理解していくと嬉しさと好きな人に褒められたのでドキドキする。
早足で寮を出ようとする爆豪くんに急いでついて行くけれど、寮を出てからは私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
それだけのことでも好きな人と同じペースで隣を歩けることがすごく嬉しい。
「わぁ!水族館だぁ!!」
電車を乗り継いで到着した水族館の外観だけで興奮しちゃう!
だって最後に来たのなんて小学生低学年くらいだったと思うし!
海近いし!好きな人と一緒だし!
「ガキかよ」
そう笑う爆豪くんにキュンとしつつ、興奮してしまったことに恥ずかしくなった。
ここまでの道中も何を話した?って聞かれると何だったっけ?って思うくらいくだらない話をして、穏やかな時間に幸せを感じてた。
「イルカのショー13時からだ!」
「早めに行きゃァ正面取れンだろ」
一緒にパンフレットを覗き込んで、顔の近さと爆豪くんの匂いに顔が熱くなる。
今日の私は2人きりの水族館デートに浮かれちゃってるんだ。
平静を装って普段通りに振る舞うけど、ずっとドキドキしてそわそわしてる。
「うわぁ…!!海の中みたい…!」
水族館に入るといろんなお魚がいて、レイアウトなんかも水槽によって違って可愛いねなんて話しながら見進めて行くとフロア全体が薄暗くなっていて、今までよりもずっと大きな水槽の中に何十種類もの海の生き物が泳いでいる。
まるで本当に海の中にいるみたいな感覚。
魚が群れになって泳いでるのも、その中を違う魚が通って行くのなんかも普段は見られない幻想的な光景。
「爆豪くん!見てみて!」
「見とるわ」
「すごいキレイだね」
あまりの美しさに見入ってしまって気が付いたら爆豪くんから少し離れてしまった。
離れるなって怒られちゃうかも…って思いながら彼の方に視線を向けて思わず息を飲んだ。
「わ……」
大水槽を見つめる爆豪くんの髪の毛に淡い光が当たってキラキラしてて、普段からは想像出来ないくらい儚げで、整った顔もすごくキレイで、魚たちが爆豪くんの周りを泳いでるみたいで海の中の王子様って自分から出て来たこともないワードが浮かんだ。
その姿を切り抜いて残しておきたくなって携帯のカメラで写真を撮った。
「きれい…」
撮った写真を確認して言葉がこぼれた。
この写真を見せたら消せって言われちゃいそうだから今は内緒にしておこう。
あれだけ集中して水槽を眺めているし、しれっと隣に戻ったら気付かれないかも!と思って隣に行ったら「迷子になんじゃねェぞ」って言われちゃった。
バレてた。
「すごい!海の中のトンネルだよ!すごいっ!!エイが近い!!」
「興奮しすぎて落ちんなよ」
上の階に続くエスカレーターに乗るとさっき見ていた大水槽の中を通って行く作りになっていて、普段は見られない角度から魚たちも見られるから大興奮しちゃったけど爆豪くんはいつもと変わらない表情。
私だけ楽しんでるんだったらどうしよう…って急に不安になった。
「ちゃんと見てる?」
「だァら見とるわ」
「楽しい?」
「見てて飽きねぇけど」
「私だけ楽しんでるかと思った。爆豪くんもお魚好きなんだね」
「魚じゃなくてみょうじ。おい、足元」
危ない。爆豪くんが言ってくれなかったらエスカレーターの乗降口に躓くところだった。
だけど爆豪くんのせいじゃんか…。
お魚好きなんだねの返答が魚じゃなくて私ってなに…?
えぇ、どういうこと…?
好きに対してでも、見てて飽きないに対してでも、変な解釈をしちゃいそうになっちゃうのを自分で否定した。
「うわぁ!レッサーパンダまでいる!可愛い…」
いろんな生き物を見て回っていたら陸の動物もいて、ガラス越しのレッサーパンダに近付くと向こうも近寄って来てくれて可愛い。
今日はずっと爆豪くんにドキドキさせられっぱなしでなんか悔しかったから思い付きで「爆豪くんガオーポーズして。写真撮りたい」って言ったらもちろん「ふざけんな」と一蹴された。
「切島くん、上鳴くん、瀬呂くんなら出来るだろうけど…爆豪くんにはハードル高かったよね、ごめんね」
「は?高くねェわ!余裕だわクソが!」
自分の性格悪いなぁと思いながらも、そうやって焚きつけると負けず嫌いが出てやってくれるって2年間一緒にいてわかっている。
ズカズカとレッサーパンダの前に行くとちゃんとガオーポーズしてくれた…!
「えっ、かっこ、かわっ、え!?」
「おい連写すんな」
「ちょっと感想が間に合わない」
かっこいいのに可愛くてキュンキュンする!
好きな人のというか、爆豪くんのこんなポーズして写真撮らせてくれるなんてこの先ない!
眼福ってこのことかぁ…!!
「お前もやれや」
「え」
「俺だけにやらせて自分はやらねぇなんてフェアじゃねぇよなァ、なまえチャン」
え、わ、名前…!ふざけてだけど名前呼ばれた…。
今日私の心拍数上がりっぱなしだ…。
そしてそんな風に言われたらヒーロー志望としてやるしかない。
「…………」
「ねえ!何か言ってよ!恥ずかしいんだからっ!」
「クソ可愛い」
私も爆豪くんの真似してガオーポーズやったら無言で連写の仕返しされて、自分で焚き付けたとはいえ恥ずかしすぎるのに可愛いって、言ったの…?
……あ、あぁ!レッサーパンダか!
もうダメだ今日。勘違いしては期待しそうになる。
爆豪くんが私のことをそんな風に思ってるはずないのに。
「そろそろショーの席取りに行くか」
「あ、うん!そうだね!」
いつもと変わらない爆豪くんと、ドキドキしっぱなしの私。
爆豪くんも私のことを少しは意識してくれていたらいいのにな、なんて叶わないって分かってることを思ってしまう。
こうして誘ってくれて一緒にお出かけしてるってだけですごく贅沢なのに。
イルカのショーは真正面の水がかからないであろう席に二人で座った。
待ってる間に軽食を取りながら話をする、そんな時間が楽しい、幸せだなぁって感じた。
ショーが始まるとアシカ、セイウチ、シャチにイルカが次々と技を披露してくれる。
可愛い一芸や尾びれを使って水をかけて来たり、大迫力のジャンプやトレーナーさんとのコンビネーション。
どれもこれもに興奮した。
途中で隣に座る爆豪くんに視線を向けると目が合って気恥ずかしくなって「すごいね」って言うと「そォだな」って柔らかい表情で笑ってくれて、それにまた嬉しくなって鼓動が早くなるんだ。
「あの席で正解だったわ」
「前に座ってる人びしょ濡れだったもんね」
土砂降りの中傘無しで立っていたかのように全身びしょ濡れになっていて、きっと濡れるのも楽しいのかもしれないけど、爆豪くんとのデートで張り切った服装も髪の毛もびしょ濡れにならなくてよかったって心の中でほっとした。
その後も水族館をいろいろ回って、ふれあいコーナーにも行ったり、チケットをくれた上鳴くんへのお土産を見たりした。
爆豪くんに「俺への誕プレだって言ってンだからお前が気にする必要ねぇだろ」とは言われたけれど、それでも上鳴くんのおかげで私はいい思いをさせてもらっちゃってるからお土産くらいは渡したかった。
「今日は誘ってくれてありがとう!すっっごく楽しかった!」
楽しい時間は本当に一瞬で、あっという間に閉館時間になって帰路に着いた。
まさか爆豪くんと水族館に来られるなんて思ってもいなくて、爆豪くんの誕生日なのに私がプレゼントをもらってしまったような気分。
「また来たらいいだろ」
そうやって平然と言うけど、この1年で会えなくなっちゃうかもしれない。
好きな人に、またって言ってもらえることが私にとってどれほど嬉しいかわからないでしょ。
「…うん。爆豪くんとまた来たい」
「お前花好きだろ。植物園とか。まァ行きたいとこ他にも考えとけや」
えぇ…なんで私の好きな物覚えてくれてるの…?
期待したい気持ちと、みんなの好きなものを平等に覚えてるんだよって気持ちが戦ってる。
あぁもう、どんどん好きが溢れて止まらなくなりそう。
だけど気持ちを伝えることはまだ勇気がなくて出来ないけど、それでもちゃんと伝えたいことがある。
「爆豪くん!あのね!日付けが変わったらお部屋に行ってもいいですかっ!」
「……は?」
「い、一番に伝えたいの!メッセージじゃなくて、ちゃんと!直接!」
それを伝えるだけでも私にはすごく勇気が必要で、拒否されるんだろうなって思ったけど「寝んじゃねぇぞ」って言葉が返ってきて承諾してもらえたことを理解した。
お礼を伝えて少しの恥ずかしさを隠すように別の話題に変えた。
寮に着いて爆豪くんと別れて、1度自分の部屋に戻ると携帯が振動してメッセージの受信を知らせる。
確認するとさっきまで一緒にいた爆豪くんの名前と画像を受信したと表示されている。
「え、あ…これ……」
画像を開くとさっきまでいた水族館の大水槽の前で魚を眺める私の写真で、いつの間にか撮られていた恥ずかしさと、私と同じことをしていたことが嬉しくて胸がきゅぅぅってする。
私も爆豪くんの大水槽での写真を送ると「盗撮やめろ」って返信が来て、どの口が言ってるんだろうって笑ってしまった。
ずっとずっと幸せな気持ちで満たされていて、誰かを好きになるってすごいなぁって思う。
もうすぐ、日付けが変わる。
彼の17歳最後の日が終わって、18歳の最初の日になる。
用意していたプレゼントを握りしめて、喜んでくれたらいいなってドキドキしながら爆豪くんの部屋に向かう。
部屋の扉を叩くとコンコンと乾いた音が廊下に響いて中から爆豪くんが顔を出してくれる。
12時ー。
「爆豪くん!お誕生日おめでとう!!」
18歳最初の彼に、ちゃんと自分の口で、一番におめでとうを言えた。
「来年も1番に祝いに来いや」
彼の少し照れたような顔が印象的で、私はもっと彼を好きになる。
また来年の誕生日もお祝いしたい。
そしてこの気持ちがいつかあなたに届くといいな。
あなたが生まれて18回目のこの日が、幸せで、素晴らしい一日になりますように。
Happy Birthday
2026.04.20
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