短編
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きっと、今年が最後のチャンス。
春からはお互い別々のヒーロー事務所に所属して、忙しい日が続くはずだから今みたいに会えなくなる。
だからこの気持ちを伝えるのは今年が最後のチャンスなの。
2月14日バレンタインデー。
甘いものがあまり好きではない本命の彼にと夜な夜な作ったお菓子をラッピングして紙袋に入れた。
だけど考えてしまう。
きっと彼は恋愛なんて興味はないだろうし、私に気持ちを伝えられても迷惑なだけなんだと思う。
今は一緒に訓練したり、向こうから話しかけてくれて一緒に帰ったりするけど、それは仲間だからで、私のことを女の子と見てくれてるかもわからない。
彼のことは大好きだけど、付き合いたいのかって言われるとそれもわからない。
なんてふわふわした曖昧な気持ちなんだろう。
「険しいツラしとンぞ」
突然声をかけられて顔を上げるとキッチンのカウンター越しに爆豪くんが立っていて見られてた。
険しい顔って言われて咄嗟に眉間を隠したら「もう遅ェわ」って少し笑われて、だけどそれにキュンとした。
だって好きな人が笑ってくれたら嬉しいもん。
「今日は早ェな」
「あ、うん。早く起きちゃって」
なんのきっかけがあって、いつから好きになったのかわからない。
気付いたら目で追うようになっていて好きなんだって自覚したのはもう1年以上も前になる。
前よりも柔らかい表情をしてくれることが多くなってその度に変な期待をしてしまいそうで、彼に限ってそんなことないって否定する毎日。
「それなに」
早朝とはいえ、共有スペースのキッチンでラッピングして紙袋とにらめっこしてた私が悪い。
そんなの聞かれるに決まってるもの。
爆豪くんから話を振ってくれた今渡してしまえば他に誰もいないし、自然に渡せるのに。
「これは…えへへ、なんでもない」
最後のチャンスだから渡そうって決めたのに、最後の最後で関係が崩れて話せなくなったらどうしようって思ったら渡せなかった。
意気地なしだ。
爆豪くんは「…ふーん」って興味無さそうにどこかに行ってしまった。
誤魔化し方も下手くそすぎて変に思われたと思う。最悪だ。
なんでもっと上手に出来ないんだろう。
それからずっと自分にモヤモヤしちゃって結局渡せもしないお菓子も未練がましく持ち歩いてしまっている。
「みょうじ!!」
「わっ!な、なに?」
突然大きな声で呼ばれたからびっくりして返事をしながら声の方を見ると、私の机の前に三奈ちゃんが立っていた。
どうやら何度も私を呼んでいたけど上の空で気付いてなかったみたいで慌てて謝った。
「ははーん!さては今日チョコを渡す本命のことを考えてたな~!?」
「な、何言ってるの!ほ、本命!?な、なにそれ!?」
「だって今日はバレンタインじゃんかー!」
「ち、違うよ!いないもんそんな人!!」
教室のど真ん中、三奈ちゃんに好きな人がいることを言ったことはないのにそうやって言われて恥ずかしくなって思わず大きな声で嘘をついちゃった。
三奈ちゃんが私の顔を見てすぐに「あ、そか。ごめん、ごめん!」って謝ってくれて「わぁ!違うの!大声出しちゃってごめんね」って謝った。
違う、違うの。三奈ちゃんが謝る必要なんて本当はないのに。
私に勇気がないだけなんだもん…。
「クソォ!爆豪!またお前だよっ!今年も轟と爆豪かよ…っ!!」
「イケメンとヤンキー許せねぇ…!!オイラだって女子から本命チョコもらいてぇよ!!」
上鳴くんと峰田くんの悔しそうな声が教室に響く。その声の方を見ると教室の扉のところには1年生の女の子がいた。
あぁ、そっかぁ。爆豪くんにバレンタイン渡しに来たんだ。
去年も2人にはたくさん女の子が渡しに来てたっけ。
そういえば轟くんは全部もらってるけど、爆豪くんが受け取ってるの見たことない。
気になっちゃってこっそり様子を伺ってると「悪ィけど、受け取れねぇ」って言ってる声が聞こえた。
あぁ、やっぱり受け取ってない。きっと私のも受け取ってもらえないんだろうなぁ。
「みょうじ~。朝ごめんね」
「え、なになに?」
「それ。今日ずっと持ち歩いてる。好きな人に渡そうとしてるんじゃないの?」
放課後、寮までの道をA組の女の子たちと歩いていると三奈ちゃんに謝られて何の事かと思ったら、朝のこと気にしてたみたいでこっちの方が申し訳なくなる。
ブンブン思いきり顔を振って「三奈ちゃんは何も悪くないよ!」ってちゃんと伝えた。
「好きな人に渡そうって決めてたんだけど、いざ渡そうとすると怖くなっちゃって。今仲良くしてもらえてるのに気持ち伝えて話してもらえなくなっちゃったらどうしようとか…えへへ…今の関係に甘えてるだけでずるいよね」
帰りの静かな時間に、信頼できる大好きなA組の女子メンバーだから落ち着いて本心を話せた。
もしかしたら誰かに話を聞いてもらいたかったのかもしれない。
「渡せたとしてもね、その人のこと大好きで、ずっと一緒にいたいって思うけど、私たちが付き合ってるのって想像出来なくて、付き合いたいの?って聞かれるとよくわからないの。変だよね」
自分の気持ちすらよくわからなくて本当に私は爆豪くんのことが好きなのかな。
憧れとか尊敬とか、そういう延長でそれを好きと思ってるだけなのかも。
だってきっと好きな人とは付き合いたいって思うはずだもん。
「関係が壊れるのが嫌って気持ちが強くて、付き合いたいとかそういうのがよくわからなくなってるんとちゃう?」
「本当に今の関係に甘えてるだけなら、そもそもそんなに悩まないんじゃない?」
「大丈夫よ、なまえちゃん。あなたの気持ちは本物よ。見ていればわかるもの」
「ご本人と話してみたらご自分の気持ちもハッキリするかと思いますわ」
なんだかみんなの言葉を聞いて、たしかにそうかもってちょっと思った。
こうして私の気持ちを肯定してくれることも嬉しくて、単純だけどまた頑張って渡して、気持ちは伝えられなくても整理は出来るかもしれないって思える。
「せっかく作ったのにあげないのももったいないし、あげるだけあげて来たら?」
「うん、そうしようかな」
「じゃあさ!善は急げって言うし、今なら爆豪くん寮にいるんじゃない!?」
「…えっ!?なんで知ってるの!?」
「ほら!行った行ったぁ!」
「も~!!ありがとうっ!!」
相手が爆豪くんだって知られててすごく恥ずかしかったけど、みんなが背中を押してくれたからお礼を言って寮まで一人で走った。
あとでなんで知ってたのかちゃんと聞かなきゃ。
途中まで一緒に帰ってたから寮まではあっという間に着いて、共有スペースを覗いても談話室に男の子が数人いるくらいで、部屋にいるかもしれないってエレベーターで4階に上がって、長い廊下の1番奥の部屋を目指す。
「はぁぁ…」
爆豪くんの部屋には何人かでお邪魔したことはあるけど、一人で訪ねたりお邪魔したことはもちろんない。
好きな人の部屋に行くってことがまずドキドキするのに、バレンタインを渡すって考えると心臓が飛び出そう。
部屋の前で少し立ち止まって、扉を叩くとコンコンって乾いた音が廊下に響く。
「あ、あの…みょうじです…爆豪くん、いますか…?」
緊張で声が震える。
この扉が開いたらどんな顔をして、なんて言ったらいい?
ど、どうしよう…頭真っ白になってきた。
「……なンだよ」
扉がゆっくり開いて爆豪くんが顔を出した。
彼の顔を見たら指先が震えて、ますますなんて言っていいのかわからなくなった。
怖いけど、すごく怖くて、すごく緊張するけど、これが最後のチャンスで、みんなにも背中を押してもらったんだから、行け私。
持ってた紙袋をゆっくりと持ち上げて爆豪くんの前に差し出す。
「こ、これ…バレンタインのお菓子…作ったから、よければ食べてください…!」
「……朝のやつ」
爆豪くんのその呟きに、今朝咄嗟になんでもないと誤魔化してしまったことを思い出して、「あ、や、それはその…」と口ごもってしまった。
もうこれ以上誤魔化すのはやめる。
「実は、爆豪くんに渡すつもりで用意してました。朝は、恥ずかしくなって誤魔化しちゃったの…ごめんなさい」
「他のヤツは?俺だけなンかよ」
「…爆豪くんだけ…。いつもお世話になってるから、その…作った……あ…いらないの知ってるのに渡すなんて何言ってるんだろうね私!」
意気地なし。好きってたった2文字が言えなくて、笑って逃げようとしてる。
だめだ、誤魔化すのはやめるって決めたばかりでしょ。
みんなに背中を推してもらったんでしょ。
これが最後のチャンスなんでしょ。
「………好き」
俯いた自分から出た言葉はあまりに小さくて弱々しかったけど、静かな廊下で爆豪くんの耳に届くには十分だったと思う。
言葉にしたら泣きそうになった。
だってもう終わりに向かってるもの。それがわかるもの。
「本当は、爆豪くんがずっと好きで……ずっと言いたかったけど、話してくれなくなったら、どうしようって…言えなかった……でも付き合いたいとか、よくわからなくて…何したいんだろうって感じだよね…」
私の言葉をどんな顔で聞いてる?どう思ってる?
怖くて顔も見れなくて、ぎゅうっと手を握りしめた。
長い時間が過ぎたわけではないはずなのに沈黙が長く感じて怖い。
頭の上から「……ンだよ」って呟いた声が聞こえて体がさらに緊張する。
「本命、いないンじゃねンかよ」
「恥ずかしくて思わず嘘つきました…」
朝の教室でのやり取りを聞かれてたなんて。
あんな大声で話してたら聞きたくなくても耳に入るよね。
また違う恥ずかしさが込み上げて来て顔を隠すように俯いたら、私が持っていた袋を爆豪くんが掴んで受け取ってくれてまた顔をあげた。
「つーか、いらねぇって言ってねぇだろ。1人で話進めんな」
「だ、って…去年も今年も、他の人からのやつ断ってた」
爆豪くんの表情がすごく柔らかく見えて、他の人のやつは受け取らないのに、そんな表情の好きな人にいらないって言ってないって言われたら変な期待しちゃいそうになる。
期待したら後が悲しくなるだけなのに。
「それはあれだわ…好きなヤツからもらえンの待っとった」
……聞き間違えた…?好きなやつ…?
爆豪くんの顔を見ると真剣で、だけど柔らかい赤い瞳が私を見ていて、聞き間違いじゃないって理解すると体中熱くなって、嬉しいけど泣きそうで、感情が追い付かない。
「ひっでぇ顔」
「見ないでよ…」
「好きなやつの顔は見てぇし」
え、えぇ…。私は今都合のいい夢でも見てるんだろうか。
爆豪くんってこんな優しい声でこんなこと言うの…?
「みょうじは俺ンこと好きだって思っとったから、本命いねぇって言ってンの聞いて自惚れてたンかと思ったわ」
「き、気付いてたってこと…!?」
「俺ァ、完全勝利以外認めねぇからな」
「ずるいよ!私すごく緊張したし悩んだんだから!!」
楽しそうに笑う爆豪くんにドキドキするけど、まさか私の恋心を本人に気付かれていたなんて。
私が好きだと確信して接してくれていたなんて人が悪いというか、ずるい、だけど嬉しい。
「みょうじ」
今まで笑っていたのに急に少し低くて落ち着いた声で私を呼ぶから、ちょっとだけ解れてた緊張がまた張り詰めたものに変わる。
返事をして爆豪くんの目を見るときれいで吸い込まれそう。
「好きだ」
その一言で心臓が耳元にあるのかってくらい大きく鳴ってる。
好きな人からのその言葉がもらえるならどんなにいいだろうって、何回も考えてた。
想像してたよりももっとずっと嬉しくて、嬉しすぎて胸がきゅうって苦しくなる。
「だから俺と付き合え」
「だけど私…」
「俺はお前の隣にいてェし、お前以外ありえねぇ。みょうじはどーなんだよ」
付き合いたいの?って聞かれたらどうなんだろうって思ってた。
想像が出来なかったから。
だけどきっと考えすぎてたの。
答えはすごく単純だったのかもしれない。
「…私だって爆豪くん以外ありえないよ!ありえないに決まってるもん!」
私の言葉に満足したような顔で笑うから、それでまた私は鼓動が早くなるの。
爆豪くんの隣に違う子がいたら嫌だもん。
私がずっと隣にいたい。もっと近付きたい。
他の人じゃダメなの、爆豪くんがいいの。
「ンじゃ、俺と付き合うっつーことでいいんだな?」
「よろしくお願いしますっ!!」
「俺選んだこと後悔させねぇから覚悟しとけや、クソなまえ!」
初めて下の名前を呼ばれただけで嬉しくなる。
どうしよう、次から次に好きが溢れて止まりそうにない。
1人で抱えてた時の好きよりも、今の好きの方がずっと大きくて、ずっとドキドキして、ずっとずっと幸せ。
最後のチャンスに勇気を出してよかった。
おまけ。
「なんで相手が爆豪くんってわかったの!?」
男の子に話を聞かれなくて済むお風呂の中で女の子たちにずっと気になってたことを聞いた。
私はずっとこの気持ちを隠していたし、もちろん誰一人にも言ったこともない。
なのになんで爆豪くんってわかったのか疑問で仕方ない。
「みんなわかるって。好きが漏れすぎてる」
「う、嘘でしょ…!?」
「いや、ほんと。爆豪も知ってたでしょ」
そ、そういえば俺のこと好きだと思ってたって言われた…!!
本人にまで知られてたなんて恥ずかしすぎるでしょう!!
しかもみんなって何!?私だけ隠してるつもりだったなんて…。
「でもでも、早く付き合えばいいのに!って思ってたから上手くいってくれて嬉しい!!」
「それはみんなのおかげだよ、背中押してくれてありがとう」
お祝いしようなんて言ってくれて、私はみんなと同じクラスで、みんなと友達でよかったって心から思ったよ。
今年のバレンタインはいろんな人とまた強く結ばれた、私にとってすごくいい日になった。
みんな、みんな、大好き。ありがとう。
2026.02.14
HappyValentine♡
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