短編
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今日は朝からずっとそわそわして落ち着かない。
気が付けば時計に目をやって、まだ5分しか経ってないって落胆する。
こんなに時間が長く感じる日があったかな…。
早く終わればいいのにって思わずため息がこぼれてしまう。
そう思いながらも仕事は手を抜かずにこなして、そして時計を見ては長く感じるの繰り返し。
早く会いたい、そうやって今日だけで何回顔を思い浮かべたのかわからない。
「お先に失礼します!お疲れ様でした!!」
絶対に定時で上がると誓って17時にセットしたアラームで携帯が振動する。それを止めながら挨拶をして最速で職場を出た。
何がなんでも今日は早く帰りたかったんだもん。
身支度をする時間すら惜しくてコートだけ羽織ってロングマフラーはいくつかに折って手に持って、「今から行くね」とメッセージを入れながら待ち合わせ場所に走った。
気持ちが逸る。もう少しで会えると思うと楽しみで、ドキドキして、寒さすら感じないくらい浮かれてる。
この道を曲ったら大通より人通りが少なくなる場所があって…あ、いた。
もうずっと、小さい頃から見てる後ろ姿。
子供の頃と比べてその背中は広くてたくましくて頼りがいのある物になっていて。
寒いのが苦手な彼はこの時期はダウンジャケットを着てマフラーも巻いて、いつもは見れない貴重なもこもこ姿で少し可愛い。
そんな彼を見ていたずら心が芽生えてしまって、こっそり後ろから近付いて驚かせたくなった。
こっそりこっそり、静かに近づいて。
彼の目を自分の手で覆い隠そうとした時。
「バレてんぞ」
前を向いたままの彼からそんな声が聞こえて動きを止めた。
私の手はあと一歩届かずいたずら失敗。諦めて大人しく正面に回り込んで顔を覗き込んだ。
「なんでわかったの?」
「プロ舐めんな」
「もう少しだったのになぁ」
「お前が来た時から気付いとったわ」
「えっ、そうなの!?さすがダイナマ!」
やっと顔を直接見れた。
爆豪勝己、私の幼馴染で恋人でプロヒーロー。
プロになってから3年。人気急上昇で大忙しみたいで昔みたいに頻繁に会えなくなったどころか、家にもなかなか帰れなくて事務所に泊まり込んでることがほとんどだと聞いた。
テレビではその元気な姿をよく見てるけど、こうして直接会うのはいつぶりだろう。
だからこそ今日この日をずっと楽しみにしていた。
「その格好で来たんかよ」
「ん、勝己に早く会いたくて荷物抱えて来た」
「風邪ひくぞ」
そう言いながら私が手に持っていたマフラーを取ると「見てる方が寒ィわ」って私の首に巻いてくれた。
その間近くに来た勝己の顔をじっと見つめた。
伏し目な表情かっこいい。相変わらずお母さんに似て肌はキレイだし、街灯で髪の毛はキラキラしてる。
「見すぎ」
「久しぶりの勝己だからいっぱい見ておこうと思って」
「金取ンぞ」
「彼女の特権」
「そりゃそーだ」
楽しそうに口角を挙げて優しく笑うからキュンとした。
メディアでこんな表情見たことない。これが一番の私の特権。
会わない時間がとは言うけれど勝己を好きって気持ちが溢れて止まらなくなりそう。
ほんの数十秒で取れないように、だけどキレイにロングマフラーが私の首におさまった。
相変わらず器用だなぁって関心しながらお礼を伝えると「ん」と短い返事が返ってきた。
「行くか」
「うん!」
勝己の隣に並んで歩く。そんな当たり前のことがすごく嬉しいと思う。
プロデビューする前から英雄の1人として有名で、デビューしてからはもっと顔を知られるようになってファンも出来た勝己に1度「変装もしないで私と歩いていいの?」と聞いたことがある。
だってスキャンダルになっちゃったら私は一般人だから表立って晒されるのはプロヒーローである勝己だもん。
全部の火の粉を被るのは私じゃなくて勝己だから。
でも「あァ?自分が好きで付き合ってる女と歩いて何に困ることがあンだよ」って平然と言ってのけるから思わず笑っちゃったけど、その言葉が嬉しくて今でも鮮明に覚えてる。
「なにニヤけとンだ」
「えへへぇ、一緒にいられるの嬉しいなと思って」
「最近時間作れなかったしな」
「そういう意味で言ったんじゃない」
本当にただ嬉しいって思っただけ。
プロヒーローの勝己は休みだって不定期だし、予定してた休みすら無くなってしまうことだってザラにあるけど…。
でもそれを責めようって思ったことなんて1度もない。
ヒーローになることが小さい頃からの勝己の夢で、大・爆・殺・神 ダイナマイトの顔は活き活きしてて、その顔が、姿が大好きだから。
それに私だって仕事をしているから時間が合わないことだってある。
会えないのは勝己だけのせいじゃないもの。
そう思って言ったら「バカかてめェは」って声が降って来た。
「ンなもんわーっとるわ。なまえと同じっつーことだろ」
その意味がすぐにわからなかったけど、私を見ずに前を向いたままの勝己の耳が少しだけ赤かった。
寒いせいかと思ったけど、この表情は照れてるんだってわかった。
「…勝己も私といられて嬉しいってこと?」
「……そーだよ」
「…私に会いたかった?」
「だァら、そーだっつってンだろ」
ぶっきらぼうに言う勝己が可愛く思えて、それと同時に同じ気持ちだったんだと嬉しくてにやけてしまった。
私がにやけたのを勝己が見逃すはずもなく「なに笑っとンだクソ!」って悪態をつかれたけど、それすら照れ隠しなんだから可愛いなんて思っちゃう。
怒られそうだけど。
「あー…そういや24と25仕事入った」
24と25。その日はきっと恋人にとって特別な日。クリスマス。
私からクリスマスを一緒に過ごしたいと言ったことはない。約束ももちろんしていない。
クリスマスに限らず、そりゃ一緒にいられれば嬉しいけど、クリスマスも年末年始も人が多いところではトラブルも多くなるからヒーローは大忙しなことも理解してる。
勝己の負担にはなりたくない。
「この時期は特に忙しいもんね。ちゃんと休めてるの?」
「今」
「仕事だったじゃん!」
「さっきまでな。今はなまえといンだから休めてンだよ」
「ぁ、わぁ…そ、かぁ…」
休める時くらい休んで欲しいと思いつつ、会いたいとも思ってしまう私がいて。
勝己の負担になりたくない、そう思っているからこそ、勝己のこういう一言が負担ではなくて同じ気持ちなんだってわかって嬉しくなって、さっきまで勝己が照れ隠ししてたのに今度は私が照れちゃった。
「つーか話最後まで聞けや」
「仕事なんだよね?頑張ってね」
「…………ムカつく」
チラッとこっちを見たあとマフラーに口を埋もれさせて拗ねたような表情に変わった。
こんな表情も他ではしない、私にしか見せない一面だと思ったらそれすら嬉しくなっちゃう。
だけどこれに喜んでたら勝己がもっと拗ねちゃいそう。
「頑張ってね、じゃなかった?」
「……てめェは俺といたくねぇンかよ」
「………うーん…」
「うっっっざ」
あ、やばい。勝己怒った。
違う、そうじゃない、違うのに。
少し歩く速度をあげた勝己のモコモコな腕を掴むと布越しにでもガッチリした筋肉質な腕がわかる。
「ごめん、違うよ。勝己といたくないわけじゃないよ。……勝己の負担になりたくなくて…」
これも紛れもない本心。
勝己の表情はあまり見えないけど、せっかく久しぶりに会えたのに喧嘩しちゃうのは嫌だから。
勝己の腕を掴む指に少しだけ力を入れて、私も意を決した。
「ほ、本当は勝己とずっと一緒にいたいもん!会えるのはすごく楽しみだし、平気なフリしてるけどバイバイは寂しいもん!でもそれ言ったら勝己の負担になっちゃうから黙ってたの!勝己が思ってるより、ずっと私は勝己のこと好きなんだからっ!!」
早口でまくし立てた後に恐る恐る勝己の顔を見るとなんだかすごく嬉しそう。
これはやられた、って気が付くのに時間はかからなかった。
勝己がどんどんイタズラに成功した子供みたいな表情になって、言わされたことに恥ずかしくなる。
「…うわぁ…騙された」
「人聞き悪ィこと言うな。なまえが本音言わねぇからだろ」
「だからって怒ったフリ…やだ、恥ずかしい…!」
「耳まで赤ェ」
「もうやめてよバカ!」
私は恥ずかしくてどんどん体温が上がっていくのに、勝己の声はすごく楽しそう。
小さい頃からずっと勝己は私をからかうのが好きみたい。
恥ずかしいって思うけど嫌とは思えないのは惚れた弱みなんだろうなって思う。
「25、早く終わらす。ンで、なまえんち行くから待ってろ」
「ほ、ほんとに言ってる…?」
「そこ嘘ついてどーすんだよ。行くわ」
「嬉しい…。待ってるね」
まさか勝己からそんなことを言ってくるとは思わなくて、嬉しさが湧き上がってくる。
勝己の顔を見て微笑むと勝己もすごくすごく優しい顔をしてポケットの中に入ってたあたたかい手で私の頬を一瞬摘んで離した。
触れる手からも優しさを感じられる。好きだなって思う。
「会えンの楽しみでバイバイすンのは寂しいもんな、なまえチャン」
「そーだよ!んもう!言わなきゃよかった!」
勝己はいつも私をからかって楽しむけど、最後には勝己の優しさと、大切にしてくれてるって実感させてもらえて胸があたたかくなる。
大好きで、大好きで、ずっとずっと隣にいたいって思う。
勝己の隣が私の居心地のいい、素でいられる場所。
