短編
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「行かねェ、一人で行け」
耳に当てた携帯から聞こえたのは低くい声で発せられたその言葉。
電話の相手は幼馴染の勝己。
ずっと一緒にいたけど高校は別のところに進学して、連絡は取っても会う機会は減ってしまった。
たまには会いたいなって思って「新しく出来たカフェに行きたい」と適当な理由を付けて連絡したらさっきの言葉で一刀両断された。
「えぇ、だってオシャレで一人じゃ入るの勇気いるんだよ」
「知らねぇ、行かねぇ」
「勝己に会いたくて誘ったのになぁ…」
「なまえのそれうぜェからやだ」
「じゃあ出久くんと行ってくるから感想待ってて」
勝己に断られるのは慣れっこだし、また今度違うことで誘ったらいいや。
そう思って「またね」って電話を切ろうとしたら「行きゃァいンだろ!時間と場所連絡入れとけクソなまえ!」って言うだけ言って向こうから電話を切られた。
相変わらず素直じゃないなぁって笑いながら「この日はどう?」ってメッセージを送るとすぐに「わかった」っていつも通り素っ気ない返事が来て、楽しみでドキドキしながら携帯のスケジュールに追加した。
「おいクソなまえ。なんで出久がいンだよ」
当日待ち合わせ場所に来るなり、先に来ていた私と出久くんを見て勝己が不機嫌そうに言って来た。
出久くんはそんな勝己を見て慌てて私の方に振り返る。
「なまえちゃん!?かっちゃんに僕が来ること言ってなかったの!?」
「出久くんと行ってくるってちゃんと言ったよ」
「それは言ったうちに入らねンだよ!もっとわかりやすく言えやバカかてめェは!」
「3人一緒の方が楽しいからいいでしょ!」
勝己と出久くんの腕を取って「ほら、行こ!」って歩き出せば「離せや!」って文句を言いながらもちゃんとついて来てくれる。
本気で嫌なら私の腕くらい片手でも軽く振り払えるのにね。
待ち合わせ場所から10分くらいの距離を3人で話しながら歩くとすぐに目的のお店に着いた。
新しく出来たばかりということもあって数人並んでいる。
先に注文して席に付くスタイルのお店みたいで待ってる間にメニューを見てたけど、せっかく来たし…って思うとすごく悩んだ。
順番が来て勝己が最初に注文して「先席取ってンぞ」って席を探しに行ってくれて、出久くんは私が注文を終えるまで待っていてくれた。
「お待たせしてごめんね、めっちゃ悩んだ」
「大丈夫だよ、僕もこういうとこ慣れてなくて悩んだ」
何頼んだの?なんて話しながら勝己を探して2階フロアに上がると奥の席に座ってるのが見えた。
「あ、いたいた~」なんて言いながら勝己の方に向かうと女の子2人組が勝己に話しかけ始めて、それを見たらなんでか足が止まっちゃった。
何を話してるのかはわからないけど、心臓がなんかモヤァって気持ち悪い感覚になった。
なんだこれ…。
「なまえちゃん?どうしたの?」
「あ…ごめん。勝己のとこ女の子いてびっくりしちゃった」
「あぁ、ほんとだ。学校でも最近かっちゃんのファンクラブ出来たんだよ」
「へぇ…そうなんだ…」
多分今まで勝己の近くに私以外の女の子がいるのを見たことがなかったからビックリしたんだと思う。それでなんか、モヤァってしたの。
女の子たちが勝己から離れたのを見てから私はそのモヤモヤしたのをかき消すみたいに「お待たせ!」ってちょっと大きな声で言った。
「かっちゃん、さっきの人たちは?」
「連絡先教えろってよ。誰が知らねぇヤツに教えンだよ」
「勝己ってモテるんだね、知らなかった!」
「くだンねぇ」
勝己って言葉遣い悪くて怒ってばっかいるし、いつも隣にいるから見慣れちゃってたけど顔はたしかにかっこいいもんなぁ。
勘違いされがちで素直じゃないけどなんだかんだ優しいし、彼女が出来たらちゃんと大切にしそう。
そうやって考えてたらまたどんどんモヤモヤしてきて、その感覚を誤魔化すように二人とたくさん話をした。
話してる間はなんともなくて、いつも通り楽しくてあっという間に時間が過ぎちゃった。
「なまえ送ってくから出久先戻ってろ」
「うん、わかった」
「出久くん今日はありがとう!またね!」
「こちらこそ!またね」
出久くんと別れて勝己と2人で家までの道を歩く。
そういえば勝己とこうして歩くのも久しぶりだなぁ。高校に入学するまでは登下校も毎日一緒にしてたのに。
あれ、勝己身長伸びてる。小学生くらいまでは同じくらいだったのにいつの間にか見上げなきゃいけなくなっちゃった。
小さい頃は可愛かったのにどんどん大人の男の人になっていってるんだなぁ。
「なんだよ」
「勝己が男の人になってるなぁって」
「そりゃな」
「出久くんもかっこよくなってたし!」
勝己と出久くんはタイプが違うけどそれぞれかっこよくて優しいし、私が今まで人を本気で好きになれてないのは幼馴染たちのせいなんじゃないかって思い至る。
自分でも意識してないうちに幼馴染たちと比べてしまってたのかもしれない。
「出久くんって好きな子いないのかなぁ」
「興味ねェ」
「だって出久くんあんなに優しいんだよ!?出久くんを好きな子は絶対いる!」
そういえば2人のこういう話って今まで触れたことなかったかも。
みんな異性に囲まれてチヤホヤされていたわけでもないし、避けてたわけじゃなくてなんとなくして来なかった。
……勝己は好きな人いるのかな。
聞けばいいのに、出久くんの話はスラスラと出来たのに、なぜか言葉が詰まって上手く出て来ない。
今日の私はなんか変だ。
「寒…」
「手、貸して。あったかいでしょ」
上着のポケットの中に入ってた勝己の手をぎゅっと両手で包み込む。
いつぶりかに触れた私より少し冷たくて大きな手。昔はよく手を繋いでて、勝己の手が大好きだったなぁ。
「……それ他の男にもやってンのか」
「え?」
足を止めた勝己の表情を見るけど顔は前を向いたままで上手く読み取れない。
なんで急にそんなこと聞いてきたんだろう。
「やるわけないでしょ」
「出久には」
「やらないかなぁ」
「なんで俺にはやんだよ」
……なんでって、そんなの深く考えてなかった。
勝己が私の顔をじっと見ながら言ってくるから、なんだか居心地悪くて思わず目線を逸らして勝己の手を離そうとすると今度は私の手を握られた。
「えぇっと…ごめんね、嫌だった?寒そうにしてたし…勝己なら大丈夫かなって…」
「なにが」
「……他の男の子じゃないし、触れても…大丈夫って…」
怒ってる言い方じゃないけど逃げ道を塞がれてるようなそんな感じがする。
勝己は幼馴染で小さい頃もこうしてたし、下心丸出しで話してるような学校の男の子たちとは違うし、なにより勝己だから大丈夫ってそう思ってるんだもん。
頭の中で口にしたことを補足するように考えてると握られてる手を引っ張られて勝己との距離がすごく近くなる。
「俺もちゃんと男だわ」
いつもとは違う雰囲気でそう言われて「し、ってるよ」って返事をするのが精一杯だった。
こんな近い距離で勝己の顔を見ることなんてないし、引っ張られた拍子に手を置いてしまった勝己の胸はしっかりと筋肉がついてる。
勝己が男の子ってことくらい、わかってるよ。
「……悪かったな。怖がらせた」
「怖くないよ!だって勝己だもん。本当に怖くないよ」
「…そーかよ」
私の手を離して距離をとって謝る勝己がなんでかすごく辛そうにして見えた。
勝己が怖いわけない。だっていつもちゃんと優しいのを知ってるもん。
今も怖いなんて思わなかったし、むしろ心臓がうるさい。
…せっかく久しぶりに会えたのに勝己が辛そうな顔のまま終わるの、やだなぁ。
いつもみたいに笑ってほしい。
「ねえねえ、デザート食べて帰ろうよ!」
「はァ!?お前さっき食ってたろ」
「それはそれ!勝己の奢り~!やったー!」
「太ンぞ」
「本当にやめて」
よかった、少し笑ってくれた。その顔見たら私も嬉しくなる。
結局近くのコンビニに入って寒いから肉まんを半分こすることにした。
もちろん勝己の奢りなんて本気で言ったわけじゃなかったからお金を出そうとしたのに本当に勝己が出してくれたのでお礼を伝えて一緒に食べた。
そこから家までの道はあっという間で、もう少し遠ければよかったのになって思った。
変なの。今までそんなこと思ったことないのになぁ。
「会えて嬉しかったよ!付き合ってくれてありがとうね」
「ん。風邪ひかねぇようにしとけよ」
「うん、勝己も体酷使しすぎないでね」
家の前まで送ってくれて「またな」って背中を向けた勝己が名残惜しくて見えなくなるまでずっと見てた。
中に入るとお母さんに「どうだった?」「何してきたの?」「楽しかった?」って質問責めされて、それに答えてから自分の部屋に戻ってひとりになると寂しいって思った。
今日の私はおかしい。変。
今思えば勝己が女の子に囲まれてるのを見てから胸がモヤモヤしておかしくなった。
出久くんの好きな人がいるのかなって話は出来たし、むしろ出久くんが好きになる人はどんな人だろうって気になった。
なのに勝己に好きな人がいたら、彼女が出来たらその子を大切にするんだろうなって思ったらモヤモヤが大きくなった。
「他の男の手も握るのか」ってそんなわけない。勝己だからやったし、他の人って考えたらやっぱりしたくない。
「……ちゃんと男ってなに、知ってるよ」
勝己が男の子ってことくらい知ってるよ。女の子に見えるわけないじゃん。
どんどん男の人になってるし、顔だってかっこいいし、可愛い女の子が隣にいてもお似合いだなって、思う……。
…勝己に恋人が出来たら、勝己の隣にはその子がいるんだよね…?
「…それは、やだなぁ」
だって小さい頃からずっと勝己の隣は私だったもん。
手を握るのも、一緒に歩くのも出来なくなっちゃうの、嫌だ。
勝己が私にしたみたいに誰かを引き寄せるのも、家まで送ってあげるのも、想像したらモヤモヤして気持ち悪い感覚と一緒に胸がズキズキと痛んだ。
「……やだなぁ」
誰かが勝己の隣にいるのも、勝己の特別になるのも嫌で、だけど幼馴染をこんなに独占しようとしてる自分も嫌になった。
何度考えを巡らせてもモヤモヤしてズキズキして、でもその笑顔を私に向けられていると思うと嬉しくなっての繰り返し。
この気持ちをどうにかしたくてもう一度勝己に会えば解決するんじゃないかって思って、明日の放課後に雄英高校まで行くことに決めた。
だけどすぐに来たことを後悔した。
タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど雄英の門から勝己が出て来て声をかけようとしたら隣には女の子がいた。
可愛くて、明るくて、楽しそうに話してる。すごく仲が良さそう。
それを見たら胸が苦しくなって、動けなくて、どうしたらいいのかわからない。
「あれ?なまえちゃん!?」
名前を呼ばれて振り向くと私を見て驚いた顔をしてる出久くんがいた。
「どうしたの?あ、かっちゃんに何か用事?」って言われて勝己の名前を聞くとぽろぽろと涙が勝手にこぼれて来て出久くんがすごく焦ってる。
止めなきゃと思うのに止められなくて「緑谷その女の子誰!?泣かしたの!?」って後から来た出久くんのお友達に騒がれちゃって私も焦る。
「…なまえ?」
あぁ、今気付かれたくなかったのに。
騒がしくなった私の方を勝己が振り返って目が合って、なんとか足を動かして逃げるように走ってその場を離れた。
体力なんてないからすぐに苦しくなる体を必死に動かして走り続けた。
勝己にこんな顔見られたくない。こんな真っ黒くて嫌な感情ばっかなの、知られたくない。
「なまえ!!」
「……っ!」
腕を掴まれて振り向くと勝己がいた。見られたくないのになんでいるの。
なんで追いかけて来たの。私必死に走ったのになんで追い付くの。
追い付く…?勝己走ったの…?
「な、んで走ったの!?体は!?なんともない!?」
「お前追いかけるくらい余裕だわ。なんともねぇよ。つーか心配すんなら逃げんな」
まだ心臓に負担をかけたらいけないから勝己の言葉と様子を見てほっとした。
それから急いで掴まれた腕を振りほどこうとしたけど力で勝てるはずもなくて、逃がしてもらえなそうだし、自分でも自分の感情がよくわからないし、来なきゃよかったってどんどん気持ちがマイナスになっていく。
「…なんで追いかけて来たの」
「お前が泣いとるからだわ」
「…泣いてる子なら追いかけるの?」
「誰でも追いかけるわけねぇだろ」
もう何言ってるんだ私。嫌なとこ全部でてる。自分の制御出来ない感情で勝己に八つ当たりしてるだけだ。
こんな自分は嫌なのに。
「……どうした」
呆れるんでも怒るんでもなくて、心配してるような優しい声にまた涙があふれ出した。
本当にどうしたんだろ、私。昨日からなんで勝己のこと考えるとこんな気持ちがごちゃごちゃなんだろ。
それなのに勝己が、こんな優しい声で話すから。
「…勝己のせいだもん」
「あァ?」
「勝己のせいで変なんだもん!勝己の隣に私じゃない女の子がいるの、胸がモヤモヤしてズキズキするの!勝己のこと他の人に取られたくないって思っちゃったの、勝己は誰のものでもないのに…私は幼馴染なだけなのに…こんな、独占しようとして、八つ当たりもして、勝己のせいにしてる、こんな自分嫌なの……ごめん、ごめんね、こんな私、勝己に知られたくなかった」
勢いに任せて言っちゃった。
こんなめんどくさい幼馴染なんて絶対嫌に決まってる。絶対に嫌われる。
うざいでも、だるいでも、罵倒してくれた方が楽だった。
何も言ってくれない沈黙が一番きつい…。
「………心配して損したわ」
「……ごめん」
「お前が思ってること知れてよかったわ。ンで、それが俺のせいならいい」
「え、なんで…怒らないの?」
「怒らねェよ…むしろ他のヤツじゃなくて安心した」
勝己の言ってることがよくわからなくて顔を見ると、それに気付いて眉間に皺を寄せて顔を背けた勝己の頬が赤くなってることに気付いた。
さっき走ったせいかと思って掴まれてない方の手で勝己の頬に触れて「…大丈夫?」って聞くとその手も掴まれて「ほんと、なまえのそういうのうぜェ」って言われてしまう。
「俺もちゃんと男だっつったろ」
「う、うん」
私の手を離して空いた手でそのまま涙を拭われて少し恥ずかしい。
でも勝己が優しく触れてくれるこの手が安心出来て、さっきまであんなにモヤモヤして胸も痛くて苦しかったのに無くなってる。
「俺のこと、幼馴染として見ンのやめろ」
「なんで、どうして…」
「自分で気付け、それまで待ってやる」
「気付くって何に…?」
私のおでこを軽く小突いて優しく嬉しそうに微笑む勝己に、心臓がドキってした。
笑ってるところは何回も見て来たけど、こんな顔して笑うんだって初めて知った。
やっぱり変だよ。だって胸がモヤモヤするのも痛いのも、ドキドキしてうるさいのも勝己にだけなんだもん。
「クソ鈍感だってわかっちゃァいたが、ここまでとはな」
「そうでもない」
「鈍感じゃねェヤツはこんな事で悩まねェンだよ」
「…そうかな」
「……ヒントやる。俺はなまえと同じだわ」
「クソ鈍感ってこと?」
「違ぇ!バカかてめェは!今のほぼ答えなンだよ、クソが!!」
勝己と話してると心が軽くなった。
隣にいるのが心地よくて好き。ここを誰にも譲りたくない。
「戻ンぞ」って今度は私が逃げないようにするためか手を繋がれて、びっくりしたし、そのせいでドキドキしたけど嬉しいって思った。
「待ってやるとは言ったが、俺ももう長く待つつもりもねェ。手加減しねェから覚悟決めとけや」
「……うん?お手柔らかに?」
なんだかずっと勝己は嬉しそうで機嫌が良くて、「一応言っとくが、さっきのはクラスのヤツで演習の確認しとっただけ」と言われてすごく安心した私がいて、心が狭いんだって恥ずかしくなって静かに反省した。
歩きながら話してると「つーかこっちに何しに来たんだよ」って聞かれて「それはもう聞かないで…」って話を逸らそうとしたけど、そんなのが勝己に通用するはずもなく、素直に話したら勝己はまた嬉しそうにしてた。
勝己も私も変なの。
勝己との距離がもっと近くなって、私が自分の気持ちに気付くのはもう少し先のお話です。
fin.
