短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2月14日、バレンタインデー。
その日が近くなってくると女子も男子もそわそわとして落ち着かなくなる。
名門と言われている雄英高校でもそれは変わらない。
13日の夜。寮のキッチンには大量に買い込まれた製菓の材料が広がっている。
これから女子7人で夜な夜なお菓子作り大会を始めるために数日前に買い物に行って準備をしていた。
「なぁなぁ女子たち!俺の分ある!?作ってくれちゃったりする!?」
「オイラには本命くれてもいいんだぜ!」
キッチンに顔を出したのは上鳴くんと峰田くん。
もちろんうちのクラスで一番そわそわして落ち着かないのがこの2人で、「他のクラスの女子からもらって告られるかも!」って会話をここ数日で何度も聞いた。
「二人の分もちゃんと作るよ。本命じゃなくて友チョコだけどね」
「ナチュラルにフラれる感じ…!つらい!でもありがとう!」
「いや、オイラは本命を渡したいけど素直になれないだけだと思ってる」
「ねえ!早く部屋戻ってよ!!」
二人の熱量には思わず笑ってしまうし、三奈ちゃんに催促されて渋々部屋に戻って行く二人の後ろ姿もなんだか寂しそうでまた面白くなる。上鳴くんと峰田くんは必死だから申し訳ないけど。
女子だけになってお喋りしながらお菓子作りが始まる。
こうやってお友達とバレンタインを一緒に作るのなんて初めてだからすごく楽しい。
そしてもちろん、こういう時の会話は恋バナになるわけで。
「本命は!?本命作る!?」
「作りたい!でも本命がいない!どうしたらいいですかっ!」
この手の話になると三奈ちゃんと透ちゃんはいつも楽しそうで、キャッキャッしてる二人がすごく可愛い。
響香ちゃんはヤオモモちゃんに教えてもらいながら材料の計量をして、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんもお話しながら作ってて、女子可愛いなぁって私の方が癒されちゃう。
「みょうじはもちろん爆豪に本命あげるんだよね?」
「え」
突然自分に、それも特大爆弾を食らって計量してた手が止まる。
私の好きな人の話なんてみんなにしたこと無かったのになんで知っているの…?
みんなの顔を見るとすっごい満面の笑みだったり、興味津々な顔してたり、とにかく逃がさないぞって感じで怖い。
「えぇっと、それ誰かと勘違いしてない?」
「なまえちゃん、この件に関して言い逃れは出来ないわ」
「うんうん!なまえちゃんから爆豪くん好き好きオーラ出まくっとるもん!」
「恋愛に疎い私にもみょうじさんが爆豪さんをお慕いしているのはわかりますわ」
「ほんと、見てて恥ずかしいくらいにね」
次から次にそんな事言われて穴があったら入りたいってこのことだ…!
私すごく頑張って隠してるつもりだったのに、まさかみんなにバレてることなんてある!?
あまりの恥ずかしさに顔を隠して座り込んだ。
「……みんななんで私が爆豪くんのこと好きだって知ってるの」
「だってさぁ、みょうじずっと爆豪のこと目で追ってるし」
「爆豪くんと話してる時のなまえちゃん、すごく嬉しそうやし可愛いし」
「これで気付かない方が難しいわ」
全然隠せてない…!みんなと同じように接してるつもりだったのに無意識って怖い…。
みんなの声すごい楽しそう…私もそっち側がいい。みんなの恋バナ聞いてキュンとしたいもん。
そうやって考えてある事に気が付いて今度は勢いよく顔を上げるとみんなの不思議そうな顔が私を見てる。
「あ、あのさ…もしかしてなんだけど…爆豪くんを好きってこと、ヤオモモちゃんが気付いてるってことは……あの、ほ、本人気付いてたりって…」
「……爆豪ってああ見えて観察眼鋭い…ていうか周りみてるからね」
「なまえちゃんの気持ち、気付いてると思いますっ!」
「……恥ずかしすぎて爆豪くんと会えない」
隠してたつもりなのは私だけで女子どころか、この感じは男子も、そして爆豪くん本人にも私の気持ちを知られている可能性があるなんて…やり直したい、いろいろと。
恥ずかしさでどうにかなりそうだし、今まで爆豪くんに接しているのも好きだからって理由だけだと思われてたらどうしよう。
「うーん、でももし爆豪くんがなまえちゃんの気持ちに気付いてたとして、普通に接してるってことは少なくともなまえちゃんのこと嫌いではないと思うんよ。あの性格やし嫌いなら距離取るだろうし。あくまで私の考えであって、結局は本人しかわからんのやけど」
たしかにいつも話してくれるし、訓練にも付き合ってくれるから嫌われてないと思いたい。
お茶子ちゃんの言う通り結局本人の気持ちは本人にしかわからないし。バレてたとしても避けられてないだけよかったと思うべきだよね…。
「爆豪がみょうじの気持ち知ってても知らなくても、作るんでしょ?本命」
「…………うん」
「よぉし!じゃあとびっきり美味しいの作ろ!!」
「そうする!」
告白するつもりもないけど、一応本命として爆豪くんにも渡そうって思っていたから頑張って作ろう。
私もみんなの恋バナが聞きたくて「みんなはどうなの?ねえ、好きな人!」って聞いても「どうもなにもいないから本命が作れない」と言われてしまって逆に「爆豪のどこが好き?」ってまた私の話題にされてしまって恥ずかしいったらない。
それでもこうしてみんなで話しながら作る時間は楽しくて、クラスのみんなに渡す分も、爆豪くんに渡す分も一生懸命、心を込めて作った。
14日、バレンタインの朝。
やっぱり誰よりも張り切って上鳴くんと峰田くんが談話室に降りて来たのでラッピングを終えたばかりのお菓子を渡す。
「はい、上鳴くん。いつもお世話になってます」
「うっは!あざすっ!!大事に食う!!」
「峰田くんもどうぞ!」
「本命ってことでいいんだよな?オイラの準備はいつでも出来てるぜ」
「気持ちだけいただいとくね」
みんなに順番にチョコをもらってて嬉しそうで、こっちまで嬉しくなる。
続々と談話室に下りて来る男子にバレンタインを渡していると爆豪くんも談話室に来たけど昨日の話を意識しちゃって話しかけるのすら躊躇してしまう。
「爆豪ちゃん。これ私たちからバレンタインよ」
「友チョコだけどね!」
「…いらね」
「せっかくだからもらっときなよ!こんなもらえる機会ないでしょ」
みんなが爆豪くんにバレンタインを渡していることに気付いたけど、私はどんな顔したらいいのかわからなくて避けてしまった。
爆豪くんと話し終わったみんなはバレンタインの包みを持ったままなのにニコニコと嬉しそうにしている。
「早くみょうじもあげてきなよー」
「…私もって…みんなまだ渡してないよね?」
「これはいいんよ!むしろごちそうさまですって感じ!」
言ってることがよくわからなかったけど、みんなの作ったお菓子を受け取ってもらえてないってことは私のだって受け取ってもらえるはずない。
結局、爆豪くんを変に意識してしまって渡すどころか話も出来ないまま夜になってしまった。
「あ!みょうじさん!お菓子美味しかった!ごちそうさまでした!」
「ほんとー!?よかった!食べてくれてありがとう!」
食べてくれた男子たちから美味しいって感想を言ってもらえて頑張って作ってよかったって達成感で満たされた。
でもまだ手元には爆豪くんに渡せていないラッピングされたままのお菓子がある。
どうしよう…。
「みょうじ、ちょっと来い」
そう私に話しかけたのは爆豪くんだった。
まずい、多分今日避けちゃってたのがバレてるのか機嫌があまりよろしくないように思える。
拒否出来ないやつだし、なにより渡すなら今しかないと思ってお菓子を隠し持って爆豪くんと一緒に外に出るとひんやりとした空気が体を冷やしていく。
「なに人のこと避けてやがンだよ」
「…避けるつもりなかったんだけど…えっと…ごめん」
爆豪くんからしたら突然避けられて意味わからないよね。
私が爆豪くんのこと好きなことがみんなにバレてて、爆豪くんにもバレてると思ったらどんな顔して話せばいいかわからなくて…なんて言えるはずもない。
「……怒ってる、よね?」
「お前ほんとうぜェ」
「…ごめん、ね」
私が悪いし、爆豪くんからの悪口なんて言われ慣れてるけど、このタイミングのうざいは堪える。
…私ばかだなぁ。なんでいつも通り接してお話しなかったんだろ。
爆豪くんのこと気になって仕方なかったのに。喋らないだけで時間も長く感じてたのに。
「……なんで他のヤツには渡しとんだ」
「え?」
「…俺にはねぇのかよ」
「……あっ」
そう言われてバレンタインのことだって思い至った。
爆豪くんから言ってくれた今この瞬間がチャンスだと思って、勇気がなくて渡せないままで後ろ手に持っていたお菓子を見せた。
私の気持ちを知ってると思うと恥ずかしいけどもうあとにも引けないし、爆豪くんに言い訳をするように言葉を並べた。
「あ、あのね、爆豪くんの分もあるよ!甘さ控えめにしたくてみんなとは違うもの作ったんだけど口に合わないかもしれない!あと結果的に避けちゃったけど本当にそんなつもりなくて勇気出なくてというか恥ずかしくて意識し、ちゃって………あ…えっと、まって今のなし」
勢いに任せて言葉を発していたら言うつもりのなかった自分の本心まで口にしていて、でもそれに気付いた時にはもう手遅れで自分の顔に熱が集まるのがわかって爆豪くんの顔見れない。
こんなのもう好きですって言ってるのと変わらない。
「俺ンだけクラスのヤツらと違ェの、なんで」
「あ、や…えっと、甘いの苦手かなって、思って…」
「俺のこと意識したんか」
「や、あの、それは…」
爆豪くんの言葉にぶわぁってもっと顔が熱くなって、どうしたらいいかわからない。
なかったことにしてほしいのに、じゃないと今まで通り話したり訓練したり出来なくなっちゃうのに。それは嫌なのに上手にかわすための言葉が浮かばない。
「俺が本命ってことだろ」
図星を突かれて心臓が跳ねて心拍数が上がって頭がぐるぐるする。
これを認めたら私はきっと振られるから今までみたいに一緒にいられなくなっちゃう。
「ち、違うもん!」
「はァ!?」
「違うもん!」
「バレバレな嘘ついてンじゃねぇぞクソ女!」
「だって、やだ!」
「なにがだ、アァ?言ってみろ」
「だって爆豪くんは私のこと女の子として好きなわけじゃないじゃん!そんな、それ認めたら爆豪くんに振られちゃって気まずくなるもん!一緒にいられなくなっちゃうのやだ!!」
言い終わってハッとした。また勢いで全部言ってしまった。
もう言い繕うことも無理なほど好きって言っちゃってる。
恐る恐る爆豪くんの顔を見たらイタズラが成功した子供みたいな嬉しそうな顔してて、優位に立たれてるみたいで悔しい。
「俺のことそんな好きなんかよ」
「す、好きだよっ!!ばかっ!!」
「てめ、一言余計なんだよ」
「そのくらい許してよ!私これから大ダメージ受けるんだからねっ!!ばかばかっ!!」
ここまでバレたならヤケクソだ。
それに爆豪くんは私を振るだけだし。
でもそのことを気にしないでいられるように、なるべく明るく務めるから悪態の一つや二つ許してほしい。
…だけど振られてすぐに諦められるような恋はしてないんだよ。
自分の部屋に戻ったらひとりで泣いてやるんだから。
「つーかお前のこと振るつもりねェし」
その一言に私の中の時が止まった気がした。
どういうことか理解が追いつかなくてしばらく私も止まっていたと思う。
「え…?」
「てめェが勝手に振られンの前提で話進めてただけだわ」
「振るつもりないってなに…?」
「そのまんまの意味だろーが」
そもそも振られる前提でって言うけど、恋愛どころか女の子にも興味あるようには見えなかった。
ただ個性の相性が良かったから一緒に訓練したり、友達としてなんだと思ってた。
「だっ、て…そんな態度見せられたことないもん!」
「てめェと違ってフツーは上手く隠すんだよ」
「私のこと女の子として見てないでしょ!?」
「見とるわクソが」
女の子として見てるなんて想像もしてないこと言われて、さっきよりもずっと心臓がドキドキしてうるさいくらいだし、体も熱くなってる。
爆豪くんも少しほっぺが赤くなってて、それ見て私までもっとドキドキして苦しい。
「それ、寄越せ」
「…う、えぇ…食べるの…?」
「そのために作ったんだろ、ちゃんと渡せ」
「……はい」
気持ちがドタバタしてて結局渡しそびれてずっと私が持ってたバレンタインの包みを渋々渡すとそれを受け取った爆豪くんは優しく嬉しそうに笑ってた。
……その笑顔は反則。
もう一度私に視線を向けると今度はすごく真剣な表情に変わってる。
「みょうじ、好きだ」
真っ直ぐな視線と、真っ直ぐな言葉が耳に入って来て、頭で意味を理解すると爆豪くんが私のことを恋愛対象として好きでいてくれたなんて思ってもいなくて自然と涙があふれてきた。
「なに泣いとんだ」
「爆豪くんのせいだよ」
「人のせいにすんな」
「だって、振られちゃうと思ってたから」
「…みょうじから一言俺が好きだって聞けりゃァ、俺から言うつもりだったわ」
「それ私からじゃんかっ!」
「うるせぇ!寒ィから戻ンぞ」
大事そうにお菓子の包みを持って、反対の手で優しく私の手を繋いで引っ張ってくれる。
爆豪くんの手は大きくて骨張っててあったかくて優しい。
「爆豪くん、好きだよ」
「わーってるっての」
「うへへぇ」
外は寒いのに好きな人と手を繋いで幸せいっぱいであたたかくて、チョコレートみたいに甘くて溶けちゃいそう。
だからバレンタインにはチョコレートをあげるのかも、なんて浮かれた頭でそんなことを考えながら繋いだ手を少しだけ強く握ると爆豪くんも強く握り返してくれて幸せを噛みしめながら寮までの道を歩いた。
おまけ。
寮に戻ると女子たちが「おかえり!」と出迎えてくれた。
もちろん私と爆豪くんは寮に入る前に手は離していたんだけど、私たちを見るなりみんなは嬉しそうに微笑んだ。
「よかったねぇみょうじ!」
「な、なにが?」
「おい、てめェら余計なこと言うんじゃねェぞ」
爆豪くんがなにやら制止してたけど、そんなのお構いなしで「なまえちゃん、こっち来て~」と私だけ呼ばれて奥の談話室に連れて来られた。
いろいろあったけどなんとか無事に渡せた。でもそれにしてはすごく嬉しそう。
「みんなどうしたの?」
「逆にどうだったの?渡しただけってことないよね?」
「……こ、告白してもらいました…」
みんなから逃げられないのはわかっているから、素直に報告したけど恥ずかしすぎて自分の手で顔を覆って隠した。
「よかったね」「おめでとう」って自分のことのように喜んでくれてるみんなを優しくて大好きって思う。それで恥ずかしさが無くなるわけでもないんだけど。
「あのねあのね、爆豪私たちからバレンタインもらってくれなかったんだよー」
「うん、それなのに嬉しそうにしてたよね。なんで?」
みんなのを受け取ってないのに私のだけ受け取ってくれたのもなんでだろうって。
爆豪くんは食べ物を粗末にする人じゃないから余計に不思議だった。
言いたくてウズウズしてたみたいで、興奮しながら理由を教えてくれた。
「爆豪くん、一番最初になまえちゃんからもらいたいから私たちのはいらないって!!」
「緑谷が爆豪は今までバレンタインもらったことないって教えてくれたんだよね!!」
「なまえちゃんのバレンタインが人生初がよかったってことだよーーー!!!!」
キャーキャーって興奮してるみんなを見て私はひとりで恥ずかしくて、でもそう思ってくれてたのがすごく嬉しくて、胸いっぱいになった。
受け取られなかったのに喜んでた理由はこれだったのか。
う、わぁ…なんか私がうじうじしてたのバカみたいじゃんかぁ…。
「余計なこと言うなっつったろ!!」
バツが悪そうに顔を赤くして文句を言いながら談話室に来た爆豪くんを見て、1度落ち着いたはずなのにまたドキドキして来た。
爆豪くんと目が合って、やり返して優位に立てるのは今しかないって思って自分で言うの恥ずかしかったけど言ってやれ!
「わ、私のこと大好きじゃん」
「照れながら言ってんじゃねぇ」
…結局やり返しは失敗しちゃったけど、想像してたよりも爆豪くんが私のことを好きでいてくれて幸せいっぱいです。
この後みんなが作ったバレンタインもちゃんともらってました。
fin.
Happy Valentine♡