短編
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街にはイルミネーションや装飾が多くなり、広場には大きなクリスマスツリーがキレイに飾り付けられてクリスマスムード一色。
普段よりもカップルが多いのは今日がクリスマスイブだから。
「おい!てめェら!下がってろって言っとんのが聞こえねェンか!!」
突然そんなキラキラしている雰囲気からかけ離れた怒鳴り声が響いて、思わずそちらに顔を向けると大型モニターの映像から流れたものだった。
そこに映っているのは私の大好きなヒーロー、大・爆・殺・神 ダイナマイト。
先日の救助活動での様子を取り上げられた時の映像で、とてもヒーローとは思えないような顔と言葉遣いに笑みがこぼれてしまう。
「もう、またチャート落としちゃうよ」
そう呟きながら街を歩いて自宅へと向かう。
爆豪勝己は私の幼馴染で恋人でもある、ずっとずっと大切な人。
私は一般人だけど勝己はプロヒーローで、なかなか時間が合わないから一緒に住み始めた。
それでも勝己はあまり家にはいられない。それは仕方ないってわかってるし、その分私を寂しくさせないようにこまめに連絡をくれたりするから、そんなところはすごく優しいし、大切にしてもらってるなって思う。
モニターに映ってる大・爆・殺・神 ダイナマイトとは違う、私だけしか知らない勝己の一面が好き。
「ただいまぁ!寒かったぁ!」
かじかんだ手で靴を脱ぎ、玄関に飾られた半ば無理やり二人で撮った写真を眺めるとなんだかあたたかくなった気がする。
「撮らねぇわ!」なんて言ってもちゃんと写ってくれたんだよね。
思い出して、ふへへ…って変な笑いがこぼれちゃった。こんなところ勝己に見られたら「キメェ」って言われちゃうんだろうなぁ。
リビングの電気を付けて暗かった部屋を明るくすると今日も一人だって少しだけ寂しくなった。
さっきまで写真を見て喜んでたのに今日の私は忙しいみたい。
普段から勝己と会えないのが寂しくないわけじゃないけど、いつもより寂しいって思ってしまうのはクリスマスイブを一緒に過ごす幸せそうなカップルをたくさん見たからかもしれない。
「……会いたいなぁ」
もう4日会えてない。年の瀬で犯罪率も増えるし警護依頼も多くなるからヒーローは忙しい。それが勝己の仕事で、ヒーローをして生き生きしてる勝己が好き。だから「会いたい」「早く帰って来て」なんて言えない。
そもそも勝己は仕事しているんであって遊んでるわけじゃないし!
「今頃パトロールかなぁ」
小さい頃からずっと一緒にいるけど日毎に好きが大きくなってるって自覚してる。
悔しいけどベタ惚れで、でもそれを悟られるのは恥ずかしすぎるので必死に隠してるんだけど。
勝己のことを考えてたらますます顔が見たくなって、会いたくて、声が聞きたくなって、恋しくなって、触れたいと思った。
「恥ずかしいけど帰って来ないし、いいよね…」
勝己のパーカーを引っ張り出して袖を通すと大きくてダボダボで勝己の匂いがして抱きしめられているみたいに感じた。
ネットに上がってる動画を見れば声も顔も見れるし、少しは寂しさも紛れるかもと思ってソファに座ってテレビを付ける。
なんかちょっと変態みたいで恥ずかしいけど、本人に見られることもないし、恋しいし、このくらい許してほしい。
こんな事してるのが勝己にバレたら気持ち悪がられそうだし、何言われるかわかんないし、 だから勝己には内緒!
「怪我人の確認して病院と連携取っとけ。ンで、そっちは……てめェら!!撮ってねェで早く誘導に従えやクソが!!」
後輩のプロヒーローにテキパキと指示をしている顔がマスク越しでもかっこいいと思ったのにカメラに気付いた瞬間にその顔は鬼のような表情に変わる。
市民を危険から守るためとはいえ、せっかく良いところいっぱいあるのに損してるんだよなぁとお決まりの光景に思わず微笑む。
「うええええん!!!ママぁぁ!!!」
動画が変わって次に流れたのは事件後の混乱した現場でお母さんとはぐれてしまったのか泣く男の子。
これを撮ってる人は撮ってないで男の子に話しかけてあげればいいのに!と思うくらい、過去の出来事だけど今すぐにでも手を差し伸べたくなるような悲痛な泣き方で苦しくなる。
「かーちゃんとはぐれたんか」
その子に声をかけたのはダイナマイト。ヒーロー活動中でマスクをしていたけれど、その子に話しかけると同時にマスクを額に上げて顔がしっかり見えるようにして怖がらないように配慮していた。
こういう細やかな気遣いが出来るのに粗暴だから勘違いされちゃうのもったいない。
「一緒にかーちゃん探してやっから、男なら泣くな」
「うん…!」
その言葉に男の子は涙を拭うと頑張って泣き止んで立ち上がって、それを見たダイナマイトは「やれば出来ンじゃねぇか」って男の子に眩しいくらいの笑顔を見せながら頭を撫でていた。
画面越しの彼の笑顔にキュンとして思わず巻き戻してもう一度見る。
久しく見てないから余計にときめく。
「ただいま」
「ひゃああああ!!!!!!」
突然テレビじゃないところから声が聞こえてビックリしながらもテレビを反射で消した。
心臓バックバクしてる…。リビングの扉の方を見ると私の声がうるさかったからか、眉間に皺を寄せて私を見ながらキッチンに向かう勝己がいた。
「か、勝己…!?仕事は…?」
「終わらせた」
「お疲れさま。あ、おかえり」
「なまえが好きっつってた店のケーキ買ってきた」
「えっ!!」
その言葉を聞いて慌ててソファからおりて勝己のそばに駆け寄ると前に好きって話したお店の箱がキッチンに置いてある。
見ていいか聞いてから箱を開けるとキラキラ宝石みたいなカットケーキが2つ入ってて「うわぁ…!」って声がもれてしまった。
「嬉しい、ありがとう!」
久しぶりに勝己に会えたし、大好きなケーキはあるしで、ルンルンでお皿とフォークを準備してテーブルに運んで席に着く。
さっきまで画面の中にいた大好きな人が目の前にいる、それだけで嬉しくてにやけてしまうのを必死に抑える。
「勝己がケーキ買って来てくれるの珍しいね!」
「最近あんま帰れてなかったし。クリスマスだしな」
「……クリスマスとか覚えてるんだ」
「あァ!?そんくらいわかるわ!」
「勝己サンタだぁ!」
あれだけ街中がクリスマスムードなら毎日パトロールしてるし分からないはずないか。
帰って来ると思っていなかったのにケーキまで買って来てくれるなんて。
それにクリスマスだからお店も絶対に混んでたと思うのに私のためにしてくれたんだって思うと愛おしくなる。
「…もしかして、最近帰って来れなかったのって今日帰って来るためだったりする?」
「たまたまだろ」
「んへへぇ、私は勝己と一緒にいれて嬉しいけどね」
「そーかよ」
こう言ってるけど、きっと私が予想したことは間違っていないと思う。
私もクリスマスって言ってたわけでもないけど、人をよく見てる勝己には一緒にいたいことがバレてたのかもしれない。
勝己が買って来てくれたケーキは程よく甘くて美味しくてとろけてしまいそうになって、一緒に過ごす時間は楽しくて幸せだなぁって実感した。
「ごちそうさまでした!美味しかったぁ!」
「……ンで?俺の動画見てたンは?」
「……バレてたか」
「わかるだろ」
それはそうだよね…。バレてないわけがなかった。
「おすすめに出て来たので…」と答えると「ふーーーーん」ってすごく納得してなさそう。
勝己を見ると私を凝視していて白状するまで問い詰めるって感じだ。
多分もう嘘ついてるのバレちゃってるし…。
逃げるように使っていた二人分の食器をキッチンに持って行こうとすると「逃げんな」って言われたけど、聞こえないふりをしてキッチンに行く。
「俺の服着てンのはなんでだよ」
「……」
シンクに食器を置いていると勝己もついて来て、逃げられないように後ろからシンクに腕をつかれて、久しぶりの体温を感じる距離と聞かれたくないことを問い詰められて恥ずかしさが増す。
「なまえ」
耳元で名前を呼ばれて心臓壊れちゃいそうなくらいドキドキしてる。
でももうこれは白状するまで逃げられないんだって諦めて覚悟を決めるしかない。
「勝己が恋しくなったの!!」
「そンで俺の服で俺の匂い嗅いでたンかよ」
「う…うぅ…そうだよっ!!」
「変態」
恥ずかしくて顔から火が出そう。勝己に背中を向けてるから顔が見られていないことがせめてもの救い。変態って言われたのは自分でもそう思ったからしょうがないけど、言われると恥ずかしすぎるし返す言葉もない。
「……ほんとのこと言ったよ…」
「耳赤ェ」
「勝己がいじわるするからだもん」
「聞いただけだわ」
勝己の体が離れて恥ずかしかったけど少し寂しく思うとそのまま後ろから抱きしめられた。
さっきよりずっと体が密着して、勝己の顔は私の顔の隣にあるし、緊張と嬉しさといろんなドキドキで熱い。
こんな一気に酷使したら私の心臓どうなっちゃうの。
それに勝己が自分からこんなにくっついて来るなんて珍しい。
「…ねえ、勝己」
「ンだよ」
「キス、したいなぁ…」
数秒何も反応がなくて、勝己は今そういう気分じゃなかったのかって思って「なんちゃって!」っておどけようとしたら体が浮いて気付いたら勝己に抱えあげられてた。
びっくりしてる間に寝室のベッドに下ろされて、そのまま私に覆いかぶさって来た勝己は男の人の顔をしていて。
大人だからその…そういう経験は何度もあるけど、勝己のその表情に心臓破裂しそう。
「お前さァ…いい加減煽んな」
「んっ、ふ…んぅ、」
指を絡ませながら、優しくて、甘くて、熱くてとろけてしまいそうなキスに必死に応える。
火照って、息するのってどうするんだっけってわかんなくなるくらい頭が白くなる。
唇が離されて酸素が巡るけど頭はぽわぽわしたままで、息苦しいのに幸せで、体の熱がもっと上がったのがわかる。
「…帰って来たら俺の服着て動画見て寂しさ紛らわせてる変態がいるこっちの身にもなれや」
「恥ずかしいからもう言わないで」
「匂いも嗅いでたんだっけか」
「ごめんね、もうしないから…」
私がやったことだから何言われても仕方ないと思うけど、今日の勝己はいじわるだ。
今すぐにでも逃げて隠れてしまいたいのに、勝己の表情はどこか余裕が無さそうで、上気した顔は色気があってこの先を期待してしまう浅ましい自分がいる。
「はァ……クソ可愛い」
私の顔の横に顔を埋めると耳元で囁くようにそう言われて、普段絶対に口にしない言葉に胸が苦しいくらいにキュンとした。
そんなこと初めて言われたし、頭も胸もパンクしそう。
勝己の吐息が耳にかかって身体中が熱くなって、触れているのにもっともっと勝己に触れたくなる。
「勝己、あのね…もっといっぱいキス、したい」
「煽んなっつったろ…手加減出来ねェからな」
「うん、いいよ」
唇も、指先も、体も。触れてるところ全部溶けそうなくらい熱い。
強いくらいに絡められた指も、私の首に這う優しい指も、全部全部私の熱を高めていく。
「…クリスマス、一緒に過ごせるようにしてくれてありがとう」
「俺がそうたいからしただけだわ」
「勝己、大好きだよ」
熱を帯びた余裕のない表情で、それでもいつもみたいに勝ち誇ったような、でもすごく優しい笑顔で私を見つめてくるから何度でも胸は高鳴って、どんどん勝己を好きになる。
もう私は勝己なしじゃダメみたい。
「俺の方がなまえンこと好きだわ」
普段言われないような甘い言葉をたくさん伝えてくれるのは、甘いケーキを食べてクリスマスっていう特別な時間を一緒に過ごしているからなのかも。
この言葉と時間がサンタさんからの贈り物だったりして、なんてね。
そんなことを頭の端で考えながら甘い時間に浸って溺れて、そんなこと考える余裕もないくらい幸福で満たされていくんだ。
fin.
𝐻𝑎𝑝𝑝𝑦𝑀𝑒𝑟𝑟𝑦𝑋𝑚𝑎𝑠.