短編
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「お!みょうじ!」
轟くんがNo.2にランクアップしたお祝いをするために上鳴くんが予約してくれたお店の前に着いて扉を開けようとすると後ろから名前を呼ばれて振り返る。
赤い髪の毛がトレードマークの切島くんが手を振ってくれていた。
その後ろには緑谷くんと爆豪くんもいる。
「みょうじさんお疲れさま!」
「緑谷くん1ヶ月ぶりだね!みんなお疲れさま~!3人一緒に来たの?」
「おう!爆豪が新車出してくれてな!」
「ファット座席!」
「名付けんな」
笑って話しながら店内に入る切島くんと緑谷くんに続いて行こうとしたら爆豪くんに呼び止められた。
なんだろうと足を止めて爆豪くんに向き直る。
「なにで来たんだよ」
「事務所近いからタクシーで来たよ」
「帰りは?」
「時間にもよるけど電車かタクシーかなぁ」
「帰りは送ってやる」
なんで送ってくれるなんて言ったのかわからないけど、内心すごく嬉しくて、いつも気遣ってくれるから自分に都合のいい勘違いをしてしまいそうになる。
あ、でもそうだ。明日はエッジショットが帰って来る日で迎えに行くから朝早いはず。
「明日朝早いんでしょ?」
「余裕だわ。お前ひとりで帰らせねぇだろ、黙って送られとけや」
「……あ、りがとう」
誰かしら同じ方向に帰る人いると思うから大丈夫だよって、爆豪くんの明日のことを考えたらきっとそういうべきなんだと思う。
それでも嬉しくて、こんなの勘違いするなって方が難しい。
私ひとりで帰らせないってどういう意味で言ったの?
顔赤くなってそう。変な顔になってたらどうしよう。
「ふたりとも行くよー!」
「はーい!」
中から緑谷くんが呼んでくれたから慌てて店内に入った。
今爆豪くんの顔をまともに見れなそうだったから緑谷くんが声をかけてくれてよかった。
個室に案内してもらうとまだ誰も来てなくて一番乗りだったのでみんなで同じテーブルに座る。
すごく広くてきれいなお店で、こういうお店を探すのはさすが上鳴くんだなぁって思いながら店内を見渡した。
「みょうじさん、かっちゃんの車乗ったことあるの?」
「うん、この前乗せてもらった!」
「ははっ!やっぱ新車自慢してぇんだ!」
「だァからてめェが脅してきたんだろーが」
切島くんに「乗せてくれないと硬化してボンネットに触る」って言われたみたいでやり取りが面白くて笑うと「笑い事じゃねぇんだよ」って爆豪くんに怒られた。
相変わらず仲良しだなぁ。
「みんな早いな」
「あ!轟くん!」
「主役登場だな!」
今日の主役である轟くんが入って来て緑谷くんの隣に座った。
顔も性格も良くて、ぎこちないながらもファンサにも応えているところを見るとNo.2にランクアップするのも納得出来る。
A組の自慢だね!
それから続々とみんなが集まって来てあっという間に賑やかになって学生時代に戻ったみたい。
「元A組の轟焦凍がチャートNo.2にランクアップした事を祝しまして!!」
「カンパーイ!!」
全員が集まってグラスが合わさる音と轟くんへのお祝いの言葉が部屋に響く。
チャートが更新されて轟くんのランキングを見た時、興奮して変な声を出してしまったのは記憶に新しいし、そのくらい本当に自分の事のように嬉しかった。
学生の頃からプロになる為に努力して、厳しい戦いも乗り越えて、そんな姿をずっと近くで見て来たんだから嬉しくないわけがない。
「みょうじは独立考えてねぇの?」
隣に座る切島くんに聞かれた。
考えてないことはない。独立した方が自分の理想に近付けるとは思うし、最終的にはそうしたいと思ってる。
「やりたい事考えた時に今のタイミングで独立すると私不器用だから散漫になりそうだなって。だからもうしばらくはこのまま!」
「そっか!いろいろ考えてんだな!」
「うん、一応ね。最終的には独立はするつもり!今の事務所でいろいろ任せてもらえて独立するための知識も教えてもらってて、大変だけどやり甲斐だらけだよ!」
拳と拳を合わせて切島くんがよくやるポーズの真似をして笑って見せると切島くんも「尊敬するぜ!」って明るい笑顔を見せた。
尊敬してるのは私も一緒。A組のみんなはいつだってもっといい方にって考えることをやめない。だから私もみんなと並べるように頑張ろうって思える。
みんなの、爆豪くんの隣にいても恥ずかしくないように。
そう思いながら爆豪くんを見ると目が合ってドキッとした。
「あ…」
数秒。だけど目を逸らすには長い時間、目が合っていたように思う。
その赤い瞳から目を逸らせなくて何か言わなきゃと口を開いた時、全員の携帯が鳴り響いた。
出動要請だ。
今までのほんわかした空気から一瞬で緊張感のある空気に変わり、流れて来る情報を聞きながら素早くヒーロースーツに着替えて現場に向かう。
その途中でアーマードスーツを着て先頭を飛び回る緑谷くんが見えて嬉しくなった。
現場に着いて被害も最小限で素早く活動を終えた。
個性や得意なことをお互いに把握しているA組全員が現場に急行したのだから、自画自賛になるけど連携も抜群で迅速だった。
現場処理が終わると少し早いけど現地解散ということになって、いつの間にか轟くんがお店のお金も払っていてくれたみたいで慌てて割り勘にした金額を渡しに行った。
楽しい時間はあっという間で、高校の時みたいに毎日全員で顔を合わせることは出来ないけど、みんなでまた集まろうね!って約束をした。
「帰りは送ンねーぞ。俺明日エッジショットの帰国で朝早ェから」
「大丈夫、ありがとう」
爆豪くんが帰りは送ってくれるって言ってたから彼に近付くと緑谷くんとそう話しているのが聞こえて、周りで三奈ちゃん、切島くん、上鳴くんも「方角一緒だから途中まで」って話してた。
爆豪くんと緑谷くんが話し終わったのを見計らって、私も緑谷くんに「またね!」って挨拶をして爆豪くんに向き直る。
「私電車で帰るよ!」
「送るっつったろ」
「緑谷くんに朝早いからって言ってたでしょ?それに切島くんたちも送って行くんじゃ遅くなっちゃうし、私大丈夫だよ」
「あのバカ3人は途中で降ろす。芦戸も切島と上鳴いんだから大丈夫だろ。デクはああでもしねぇと気付かねぇからな」
「……ん?」
そう言いながら緑谷くんが走って行く方を見た爆豪くんと同じようにそっちを見ると、もうその背中は小さくなっていた。
爆豪くんの言うことがよくわからなくて彼を見ると優しい顔をして笑ってた。
「おら、帰んぞ」
「私も切島くんたちと同じところで降りるよ!」
「アァ!?俺がンなテキトーなことするわけねェだろ!黙って送られろや!」
「……お、おう。ありがとう」
少し離れたところを話しながら歩いてる切島くんたちを追って爆豪くんが歩き出すから、私もそれにならってついて行く。
3人は途中で降ろすって言ったのに、私を降ろすのはテキトーなことってなんだそれ。
それはさ、都合よく考えちゃうし期待しちゃって一喜一憂しちゃうんだ。
「みょうじも爆豪の車乗ってく~!?」
「乗ってくー!」
「お菓子買って行こうぜ!」
「遠足じゃねぇんだよ、乗せてかねぇぞ」
「ケチケチすんなって」
「アァ!?」
みんなでのやり取りが学生時代と変わらなくて楽しい。
もちろんお菓子は買わずに爆豪くんの車に「お願いします」と言いながら、切島くんが助手席で他の3人で後ろに乗り込むと体が沈むふかふか座席に上鳴くんと三奈ちゃんは興奮してた。
「切島の事務所でてめェら降ろすからな」
「おう!サンキュー爆豪!」
「みょうじ家帰るん?切島ンとこからじゃ遠くね?」
「家まで送ってく」
爆豪くんの返答を聞くと上鳴くんと三奈ちゃんが勢いよく私に振り返ってキラッキラな目で親指を立ててグッドサインを出して来た。
これ絶対なんか勘違いしてるっ!!違う違う!!って心の中で叫びながら静かにだけど2人に負けないくらい勢いよく首を振った。
本当に、そんなんじゃない。ただ、きっと他の人より長く一緒にいるから心配してくれてるんだと思う。
「そーいやさ、ちょっと聞きてぇことあんだけど」
助手席に座って私たちのやり取りを知らない切島くんが話題を変えてくれたおかげで二人から逃げることが出来たのでほっとした。
内容は仕事のことでみんなで意見を出し合って少し真面目な話をして、それが終わるとまたふざけて笑い合う。
大人になってもこういう関係でいられるってすごいことだと思った。
「爆豪ありがとー!」
切島くんの事務所に着いたので私もみんなを見送るために3人と一緒に一度車から降りると三奈ちゃんが私の目の前に来た。
それはもう、とっても目を輝かせて楽しそうに。それを見て私はさっきの話だって一瞬で察した。
「ねえねえみょうじ~」
「み、三奈ちゃん圧強い…」
「恋だねぇ!」
「う……は、はい…」
逃げるのは無理だと思ったので消えてしまいたい程恥ずかしかったけど白状した。
これが爆豪くんに出来たらどれだけいいか。
私の答えを聞くと三奈ちゃんは嬉しそうに笑った。
「付き合ってはないんだ?」
「ま、まさか!私の片思いだよ」
「……みょうじはさ、いつも自分の行動が迷惑だったらとかって人の事ばっか気にしてるでしょ?」
「そんなこと…」
ないと言いたかったけど思い当たる節もあって否定出来なかった。
三奈ちゃんには「何年一緒にいると思ってんの!みょうじのことは何でもわかるんだからね!」と言われて、その笑顔を見てこっちも笑みがこぼれた。
「たまには素直に自分が思ってること言ったっていいんだよ!みょうじが思ってること、誰も迷惑だなんて思わないよ!だって私たち今までみょうじのことちゃんと見て来たもん!」
三奈ちゃんはいつも笑顔が可愛くて明るくて眩しい。
そうやって言ってくれたことが涙が出そうになるくらい嬉しかった。
「ありがとう、頑張る」って答えると三奈ちゃんは満足そうに笑って「ファイト!」って私の肩を叩いて切島くんたちの方に戻って行った。
3人を見送って車に戻ると爆豪くんに「前」とジェスチャーされたので助手席に乗り込むとさっき三奈ちゃんと話したからこの前とは違う意味で緊張する。
チラッと爆豪くんを横目で盗み見ると月明かりに照らされて薄い金髪が光って、なんだかいつもと違う雰囲気に見えてドキドキする。
「この後時間あんのかよ」
「爆豪くん明日早いでしょ?」
「俺のことはいいンだよ」
三奈ちゃんにも事務所の後輩にも素直にって言われた。
私が今少しでも素直に自分の気持ちを伝えられたら何か変わるのかな。
頑張るって三奈ちゃんと約束した。ヒーローに二言は無い!
「じゃ、じゃあ…も、もう少し爆豪くんと話したい…な…」
すごく恥ずかしいけど今の精一杯でなんて言われるのか怖くて俯いてしまった。
ウィンカーの音だけが静かな車内に響いて、やってしまったかもしれないと思って恐る恐る爆豪くんをこっそり見ると曲がる方向を見て表情は見えないけど「そーだな」って返事をしてくれて、ドキドキしてきゅうって胸が締め付けられるみたい。
私の言葉をどう受け取って今何を思っているんだろう。
「寄りてぇとこある」
「うん?いいよ」
ドキドキを抑え込んで、さっきのお祝いの会の話だったりを普段通り話してると数分後に車が止まった。
そこは私が好きで何回か一緒に立ち寄ったことがある河原だった。
「あ!ここ!」
「夕焼けも桜もねぇけどな」
「ふふ、でもここ好きだからいい!」
ここから見る夕焼けと桜が好きって言ったことがあった。
それを覚えていてくれただけで嬉しくて舞い上がってしまいそうになって私って単純なんだなぁって思う。
川のせせらぎが聞こえるくらい穏やかで静かで、 月の光が水面に反射してキラキラ光ってきれい。さっきの爆豪くんの髪の毛みたい。
「……みょうじ」
名前を呼ばれて振り返るとなんだかさっきまでと雰囲気が違くて、力強い赤い瞳に射抜かれたみたいでなんだかずっと胸が落ち着かない。
「…付き合え」
「…寄りたいとこ、ここじゃなかったの?」
「はァ!!?どこまでぽやってンだよてめェは!フツーわかんだろクソがッ!!」
「ご、ごめん…」
爆豪くんが一気にものすごい剣幕に変わって声も大きいし怒ってるしでビクッとした。
だって寄りたいところあるって言ってたから…他にもあるのかなって思ったんだもん…。
ハァァァァ…と大きめなため息をついてから再び私を見据える爆豪くんにはもう怒ってる感じはしなくて、今日は爆豪くんの感情と私の心臓が大忙しだなんて思う。
「お前が好きだ」
また力強い赤い瞳で、少し爆豪くんの頬も赤い気がして、真剣に言葉を紡がれて、その言葉の意味を理解したら顔が熱くなって心臓もうるさいくて苦しい。
まさかって気持ちもあって頭、混乱してる。
「あ…あ、え…本気…」
「俺が冗談でンなこと言うわけねぇだろ」
「知、ってる…けど、えぇ…私の気持ち気付いてた…?」
「……まァ。お前わかりやすすぎるから」
「なんだぁ…」
「なに泣いとんだ」
もう胸がいっぱいで勝手に涙が出てきた。
近付いて涙を拭ってくれる爆豪くんの手はあたたかくて、すごく優しい。
ずっとずっと、大好きだった人からこんな嬉しい言葉をもらえるだなんて、こんな風に触れてくれるだなんて想像もしてなかった。
「恋愛とか興味無いと思ってた」
「他の女だったらねぇよ。俺が隣にいてぇって思うンはみょうじだけだ」
全部私に都合のいい夢を見てるんじゃないかって思うけど、彼のあたたかい手と激しいくらいに脈打ってる心臓が夢じゃないって教えてくれてる。
自分の気持ちを伝えるのは勇気がいることで、きっと爆豪くんもそうだったんじゃないかって思う。
意を決したような瞳で私を見据えて、私が意味を間違えたから言い直して真っ直ぐな言葉をくれた。気持ちを伝えてくれてる人に対して恥ずかしいからなんて今さらただの言い訳でしかない。私も自分の気持ちを素直に伝えたい。
「私、私もね、爆豪くんが好きだよ」
「ん」
「ずっと爆豪くんの隣で一緒にいたいって思ってた」
「ん」
「私と一緒にいてほしい、です」
優しく相槌を打ちながら真剣に私の気持ちを聞いてくれた。
心臓がずっとドキドキしてる。鼓動が早くて全身が熱い。
それなのに爆豪くんが眩しいくらいの笑顔になるから今度は心臓がきゅうって止まってしまうかと思った。
「たりめェだろ、バァカ」
「えへへ、嬉しい」
好きな人に気持ちを伝えるのは勇気が必要で、だけど同じ気持ちだとこんなにも嬉しいし、それにすごく心があったかい。
嬉しくて涙が止まらないのを「いつまで泣いてんだ」って柔らかい表情をしながら何度も拭ってくれる。
今までもずっとずっと大好きだったのに、もっともっと好きになっちゃいそう。
素直になるって難しいけど素直になってよかったって、目の前にいる大好きな人の見たことないくらい穏やかで優しい笑顔を見て思った。
fin.