短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日はいつもより少しだけ仕事が早く片付いて、事務所の後輩たちに「先輩もたまには早く帰って休んでくださいよ!」って気遣われてしまった。
帰れば両親がいるけれど、なにせ不規則な仕事だから「私のことは気にしないで先に寝ててね」と言ってあるので家の明かりこそ付けておいてくれるものの話し相手もいないから帰ったところでなぁ…という気持ちが大きくなって結局いつも帰るのが遅くなるか、そのまま事務所に泊まるかになってしまう。
「ヒーロー活動に力を入れて頑張ってる先輩も尊敬してますけど、そろそろ自分の人生にも力入れないと行き遅れますよ」
「やだっ!なんてこと言うの!」
信頼出来る後輩は私の反応を見てケラケラ楽しそうに笑ってる。
…私だっていつか結婚したいなって考えないでもないんだよ。
でも私は昔からずっと、今も、上を目指して頑張る彼が大好きで、その邪魔をしたくなくて、だけど諦めることも出来ない中途半端なまま今に至ってしまった。
それに彼は恋愛とか結婚とか興味ないんだろうなぁって思うし。
それなら今の仲良いお友達のままの方が一緒にいられる…なんて思ってしまうのは臆病でずるいってわかってる。
「たまにはダイナマイトとデートでもして来たらどうです?」
「う、え!?なんでダイナマイトが出て来るの!」
「見てればわかりますって。好きがダダ漏れてますもん」
「す!?」
「バレバレですよ」
「うぅ……」
自分では上手いこと隠しているつもりだったのに、まさか後輩にバレていたなんて…。
あぁ、恥ずかしすぎて顔熱い。これ以上観察力の鋭い後輩に何か言われる前に早く帰ろ…。
そう思って荷物をまとめていると携帯が鳴ったので画面を確認すると今まさに考えていた相手の名前が表示されていて心臓が出そうになった。
「も、もしもし爆豪くん?」
「仕事中か?」
「ううん、今日はもう終わったよ」
なるべく平静を装っていつも通り会話をする。
爆豪くんと喋るのだって久しぶりなわけではない。
よく連絡も取っているし、会ってもいる。彼の性格を考えると友達としては好いてくれているだろうけど、女性としてどうかと言われるとその可能性は限りなく低いと思う。
「事務所いんのか?」
「うん、まだ事務所」
「んじゃ行くから待ってろ」
私に用件だけ伝えるとすぐに電話を切られてしまって、そのまま携帯電話を少し見つめていると隣から視線を感じてハッと我に返る。
視線を感じてそちらを向くとニヤついた笑みを浮かべた後輩が私を見ていた。
「ダイナマイトとデートです?」
「ち、違うよばかっ!」
「隠さなくてもいいじゃないですか」
「…違うよ、本当に。だって爆豪くんは私のことなんとも思ってないもん」
「ふーーーーん。先輩、素直な方が女の子は可愛いですよ。じゃ、お疲れ様でしたー!」
嵐のような後輩だけど、きっと今のは後押しをしてくれたんだと思う。
素直になれない時だってあるよ。だって、私の気持ちが迷惑だった時が怖いもん。
はぁっとため息をついてから荷物を持って事務所の前で爆豪くんが来るのを待つ。
私はずるい。自分の気持ちを伝えられないけど、こうして会えるのは楽しみで嬉しくてしょうがない。
友達という関係を利用してるだけだ。
なんて考え事をしながら待っていると目の前に見たことないピカピカの高級車が止まって何事かと少し警戒すると運転席から爆豪くんがおりてきた。
「え!?爆豪くん!?車!?」
「買った」
「新車だっ!」
車に疎い私でも高級車だってすぐにわかる。わぁ、なんか爆豪くんっぽいって思わず車の周りを回ってしまった。
車を見ながら「いつ納車したの?」って聞けば「今」って返ってきて、爆豪くんの顔を見るとどこか自慢げだ。
「ふふ、新車自慢したくて来たな?」
「あァ!?俺がンなことするわけねぇだろ!」
「かっこいいから自慢したくなるのわかるよ 」
納車してすぐの車を自慢しに来ちゃうなんて、今日を楽しみにしていたんだろうなぁ、可愛い一面もあるんだなぁと微笑ましくなる。
それと同時に見せる相手に私を選んでくれたことに嬉しくなった。
「乗れや」
「えっ!いいの!?」
「ん」
「わぁ!お邪魔しますっ!」
初めての高級車、それも好きな人のって考えたらドキドキしちゃう。
後部座席の扉を開けて座るとなんだこれ!マシュマロだぁっ!
ふっかふかで体が沈む!こんなシート初めて座る!
「わわっ!なにこれ!すごいっ!」
「ンでてめェは後ろなんだよ」
「なんかファットガムみたい!うわぁ、これ気持ちいいねぇ…」
このシートは疲れてる時に埋もれたら最高に気持ちよくてぐっすり眠れそう。
昔1度ファットガムの中に入ったことあるけどまさにそんな感じでぬくい。
「みょうじ、お前前座れや」
「私運転できないよ」
「助手席だわ!ぽやってんのか!?」
「じょ、助手席!?私が最初に座っちゃっていいの!?」
「いいから言ってンだろ」
私だけかもしれないけど、男の人の助手席に乗るってなんだか特別な気がして変に意識して恥ずかしい。
でもこんな爆豪くんの車の助手席に乗れるなんて機会が今後あるかわからないし!
せっかくいいよって言ってくれてるんだから、そう思いながらもなんて事ないフリをして「お邪魔します」と挨拶をしてから助手席に座る。
うわぁ…助手席も高級感のあるシートだっ!しっかりしてるのに体にフィットする。
座り心地に感動していると爆豪くんが運転席に座っていた。
「飯行くか」
「うん!」
高校の頃から仲良くなって、卒業してプロヒーローになって事務所は違くても仕事ではよく会っていて、プライベートでもたまにこうしてご飯に行くようになった。
私は爆豪くんが好きだからドキドキもするし、恥ずかしいけど少し意識しちゃう時もあって…だけどそれ以上に爆豪くんの隣はすごく居心地が良くて安心出来て、素の私でいられるって感じがする。
でも時々思う。私たちの関係はただの友達?プライベートでも連絡取って会うのは他の子も同じなの?それとも私だけ?
いつもそうやって考えて自分が嫌になる。
爆豪くんの運転は丁寧で優しくて、それになにより運転してる彼がかっこよくて心臓がもたなそうで、意識しないようにいつもみたいに話をした。
「轟くんのお祝い、行くでしょ?」
「行く。アイツが俺よりチャート上なの腹立つけど」
「爆豪くんだって最初4位だったのに言葉遣い荒いから!あはは」
「笑い事じゃねぇんだよ」
学生の頃だったら轟くんのお祝いなんて誰が行くか!って言ってたと思うのに丸くなったなぁ。
それどころか仲良しなくらいで、ふたりのやり取りを聞いていると思わず笑っちゃうことも多い。
いいコンビだなぁって昔から思ってたけど今はもっともっといいコンビだって思う。
「でもさぁ、こんなに短期間でみんなで集まれるの嬉しいよ」
「仕事でも会ってるヤツ多いだろ」
「それはそうだけど、みんなで会えると学生時代思い出して楽しい!」
「そいつァよかったなァ」
何年経っても私はやっぱりA組のみんなが好きで、心が許せて信頼出来て、集まるといつでもあの頃に戻れる。
みんなの活躍を聞くと自分の事のように嬉しくなって、私ももっと頑張ろうって思わせてくれる。A組は私の原動力だ。
爆豪くんと話していると車なのもあってあっという間に飲食店に着いた。
食事をしてる間もA組のみんなの話だったり、仕事の話だったり、くだらない話をしてずっと笑ってた。
「あ、そういえばエッジショット帰って来るんだよね?」
「轟の次の日、空港まで迎え行く」
「…あ、ああ!そのための後部座席だっ!」
「違ぇ」
「へへ、エッジショット喜ぶねぇ!」
みんな、誰かに紡がれた。私も、爆豪くんもいろんな人の力に生かされた。
だから今度は誰かに繋ぐために私は今ヒーロー活動をしている。
「帰って来るの楽しみだね」
「…まァな」
爆豪くんは本当にエッジショットと、それからベストジーニストのことを尊敬しているのが伝わる。
口ではこんなう風に言ってるけど表情は柔らかくて嬉しそうだもん。
車の鍵にもオールマイトのサイン入りのカードがケースに入れられて付けられていて、本当に大切で大好きなんだなってわかる。
粗暴なところも、それが丸くなってきたところも、 昔から努力し続けているところも、 先輩たちを尊敬しているところも、仲間思いなところも、ずっと近くで見て来て、彼のそんなところが好きなんだと改めて思った。
爆豪くんと一緒にいる時間はいつも一瞬で、見慣れた自宅についてしまう。
「送ってくれてありがとう、また轟くんのお祝い日に!」
この瞬間がいつも名残惜しくなる。もっと一緒にいられたらいいのに。
でも私たちはただの友達で、少しでもいい友達でいられるように明るく振る舞う。
「みょうじ」
「ん?なに?」
「……なんでもねぇ、またな」
「うん、またね」
車から下りた私に何か言いたそうだったのを不思議に思いながらも車が曲がって見えなくなるまで見送った。
あの爆豪くんから連絡をくれてご飯に誘ってくれたり、買ったばかりの車を見せてくれたり、きっと私は友達としてすごい近いところにいられているんだと思う。
これ以上を望んだらきっとバチが当たる。
こうして一緒にいられるだけでも私にとっては幸せなことだもん。
そうやって言い訳をして臆病で意気地無しな自分が嫌になった。