短編
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「おい、なまえ。明日の放課後空けとけや」
夕飯も食い終わってほとんどのヤツが自室に戻る中、寮の談話スペースで1人で寛いでるなまえを見付けてそう声をかけると驚いた顔をしたあと目を泳がせやがった。
付き合ってから予定空けとけなんて言うのは初めてでもねぇし、クラスの連中に付き合ってる事も知られてる。
なのになんだこの反応。
「あ…えっと、明日はちょっと予定が入ってて…ごめんね」
「なんのだ」
「………買い物、とか」
「誰と」
「…友達、と」
「どこの」
「え…中学の、だよ」
「女か」
「お、んなの子…です…」
最近こいつの行動がおかしい。
夜な夜な砂藤と2人で何かしてやがるのを俺が勘づいてねぇとでも思っとんのか。
それにこの挙動。なまえは嘘をつくのが下手だから俺に何か隠してんのは明白だ。
普段はなまえに先約があろうと誰と行こうが気にならねぇが、今回は砂藤の件も含め挙動が引っかかって問い詰めた。
俺にも嫉妬なんてクソみてぇなモンがあったんかと思う。
どうにもなまえのこととなると余裕がなくなる。
あまり目を合わせようとしないなまえにイラつきながら「そうかよ」と吐き捨て、自室に戻るためにエレベーターに近付くと、ちょうど来たエレベーターから切島と上鳴が降りて来やがった。
「お、爆豪!ちょうどいいとこにいた!明日出かけようぜ!」
「あ!?行ってたまるか!」
「いいじゃんよーたまには!」
なんなんだこいつら。肩組んで来んじゃねぇよアホ面。
何が悲しくてなまえの代わりにこいつらと出かけなきゃならねぇんだよ。
「学校終わったらそのまま行くから用意しとけよ!」
「行かねぇっつってんだろ!」
「じゃ、よろしくぅ!」
言いたい事言うだけ言って談話スペースの方に向かって行った。
授業終わったらソッコー帰ってやる。
エレベーターに乗り込んで扉が閉まる前に切島のでけぇ声が聞こえてなまえと喋ってんのがわかった。
俺とはろくに目も合わせねぇくせに他の男と楽しく喋っとんじゃねぇわ!
その日はとにかくイラついて、珍しくあまり寝付けなかった。
「爆豪!逃がさねぇぜ!!」
「離せや!行かねぇっつったろ!!」
「俺たちはよろしくって言ったじゃん!?たまには高校生らしいことしよ!?」
ホームルームが終わると同時に帰ろうとした俺の体を切島と上鳴がガッチリ抑えてきやがる。馬鹿力かよ!
そこまでして何で出かけてぇんだよ!
結局なまえとはあれから喋ってねぇし、考えるとイラついて来るからこいつらといた方がまだ気も紛れるかもしれねぇと思って途中から諦めてついて行ってやることにした。
連れて来られたのは雄英から一番近くてここいらじゃ一番でけぇショッピングモールだ。
映画館もゲーセンも、体を動かせる施設も入ってて何でも揃ってる。
とは言え、男3人でショッピングモールってなんなんだよ。
「とりあえずゲーセン行かね!?久しぶりでテンション上がるぅ!」
「おう!行こうぜ!」
切島と上鳴の後に続いて3階に入ってるゲーセンまで向かう。
ショッピングモールに入ってるゲーセンにしちゃあ広い。
多く設置されてるUFOキャッチャーの景品になまえが好きなキャラクターを見付けて、こんなんでもアイツは喜ぶんだろうなと思ったが、同時に昨日の何かを隠す態度を思い出して腹が立つ。
「おい、アレやんぞ」
「お!ガンシューティング!これ俺勝っちゃうなぁ!」
「勝ってから言えやアホ面が」
「じゃ、スコアで勝負しようぜ!」
腹立たしさを解消すんならガンシュー一択だろ。
ゲームだろうがなんだろうがやるからには勝つ!
「え、なに!?爆豪このゲーム経験者なの!?」
「初めてだわ」
「ゲームまで才能マンかよ!」
一試合終わってゲームの交代をしながらなんとなくゲーセンの外の人混みに目をやった。
「は?」
思わず口から漏れた。
その声に切島と上鳴も俺の視線の先に目をやっていた。
なんでだ。意味がわからねぇ。
最初に見えたのは轟だった。アイツは外見目立つからすぐわかる。
一瞬見えただけだったが、その隣から顔を出したのは見間違えるはずもねぇ、にこやかに笑うなまえだった。
「…ふざけんじゃねぇぞ」
中学の女友達と買い物に出かけるだ?
あの挙動、何か隠してやがったのはこういうことかよ。
全部繋がった。
今までにないくらいの怒りが湧いて来やがる。
「爆豪!?どうした!?次やろうぜ!?」
「…てめェらも今見ただろうが」
「何そんな怒ってんだよ」
「あのクソ共ぶっ殺す」
「クソ共って何ぃ!?」
次から次に湧き上がってくる怒りに帰ると言ったが、なんだって今日はしつけぇくらいに引き止めて来やがる。
結局帰路についたのは17時半をすぎてやがったが、気を紛らわそうにもなまえが轟に向けた笑顔が脳裏に焼き付いて離れやしなかった。
それを知ってか知らずか切島と上鳴はなまえと轟のことには一切触れず、いつも通りにバカをやっとった。
寮に着いたのは18時頃だった。
そんな時間だってのにこの時期は天気が良けりゃまだ明るさが残ってる。
俺の後ろでバカやってる切島と上鳴をほっといていつも通り寮の玄関を開けると同時に何発かの爆発音とバカでけぇ声が飛び出してきた。
「お誕生日おめでとう!!!!」
爆発音の正体はクラッカーでバカでけぇ声はクラスの連中が俺を祝う声だった。
俺の後ろを歩いてた切島と上鳴にも肩組みながら言われた。
そういや今日は誕生日だったんか。自分の誕生日なんて忘れとった。
突然の事であっけにとられる俺の前に出てきたのは昨日から俺を腹立たせてる原因のなまえだ。
俺の気を知りもしねぇで轟に向けてたみてぇなツラして笑ってやがる。
「勝己くんおかえり!早く入って!みんなで準備したんだよ!」
俺の腕を引っ張り奥の談話スペースに連れて行かれ、クラスの連中も俺たちの後ろから着いて来る。
談話スペースは俺には似つかわしくねぇくらい可愛く飾り付けがされてやがった。
輪っかの飾りに花に風船なんか、完全に女どもだろうな。
テーブルの上にはいつもの夕食とは違う、いろんな種類の料理が用意されてる。
「料理もみんなで頑張ったんだよ!勝己くん辛いのが好きだからそれも用意したの!それから…」
ちょこちょこっとソファの裏に回り込むと綺麗にラッピングされたプレゼントを持って来て差し出してくる。
「はい!A組からプレゼント!みんなで考えたんだよ! 」
手渡された箱はずっしりと重い。
その場で開封するとトレッキングシューズが入っていた。
俺の趣味が登山だと知ってるからそれに使えるやつを選んだんか。
朱色と黒で俺のブーツを連想させるような色合いだ。
「爆豪のこと1番わかってるみょうじと轟が買いに行ってくれましたー!」
「まさか同じとこで買い物してるとは思わなくてまじで焦ったわ!」
「お前らいたのか」
「場所言っとけばよかったね、ごめんね」
芦戸の言葉となまえたちの会話で、切島と上鳴はこの準備をする為に俺を外に連れ出す役割で、なまえが昨日の友達と買い物っつって挙動不審だったのも轟と俺の誕生日プレゼントを買いに行くことになってたからで、さっきショッピングモールでこいつら見かけたのもその買い物中だったっつーことかよ。
クソだせぇ…。
「今日の主役は爆豪だから真ん中座れ!」
そう促されるままど真ん中に座らせられ、ロウソクが刺さったホールケーキを持った砂藤が登場したかと思えばバースデーソングを歌われ、火を吹き消せと言われる。
ガキでもあるまいし絶対ェやりたくねぇ…と思ったが、隣に座るなまえがあまりにも楽しそうに、嬉しそうに笑っとるから渋々吹き消した。
「おめでとーー!!!!」とまたバカでけぇ声に耳が痛くなるが、自分のためにクラスの連中が準備してくれたと思うと悪くはねぇ。
そっからはバカ騒ぎが続いてお開きになったのは21時だった。
「今日だけ爆豪は後片付け免除なー!」と笑いながら片付けをするクラスの連中を眺める。
どいつもこいつも楽しそうにしやがって、その中になまえもいる。
誕生日を祝ってもらって嬉しいなんて感情になるなんてな。
うるせぇヤツらばっかだが、このクラスの居心地は悪くねぇと思う自分に驚く。
「勝己くん」
片付けが終わったなまえに呼ばれついて行くと寮の外に連れ出された。
玄関先で俺の方に向き直るとその手には小さめな紙袋が握られていて、それを差し出してくる。
「私から誕生日プレゼント!」
受け取って紙袋の中を見ると手のひらサイズの箱と厚みの薄い箱が重なって入っている。
上に置いてあった薄い箱を取り出して開けると入っていたのはシューズプレートだ。
「クラスからのプレゼントがトレッキングシューズだったから、そしたら私からはシューズプレートがいいかなって。安全に登山出来ますようにって!」
なまえは眩しいくらいの笑顔を向けて笑う。
「あ、そっちの箱はね、チーズケーキ作ってみたの。甘くないけど美味しく作りたくて、砂藤くんに協力してもらって何回か試行錯誤したんだよ!あとで食べてみてね」
その言葉で全てが繋がった。
夜な夜な砂藤とコソコソしてやがったのも、昼間の轟の件も、全部俺のためだったんかよ。
なんだよ、クソ。
俺だけが勝手にイラついてたんかよ。
だっせぇにも程がある。
こいつはいつだって俺のこと考えてたのによ。
そう思ったらなまえを抱きしめずにはいられなかった。
小せぇ体を強いくらいに抱きしめると痛いと言いながらも俺の背中に手を回してくる。
「昨日嘘ついてごめんね」
なまえの言う嘘とは轟との買い物のことだ。
俺も問い詰めて苛立ってそのままちゃんと話せてなかった。
「勝己くんのことビックリさせようってみんなで決めて、だから言えなかったの。でも勝己くんに嘘ついたのはバレてたよね。だから怒ったんだよね?ごめんね」
なまえはなまえでクラスの連中との約束と苛立つ俺との板挟みだったってわけか。
こんなんも気付けねぇなんて情けねぇな…。
「…俺も悪かった」
「ううん、事情はどうあれ嘘ついたのは私だから」
こいつもサプライズの為とはいえ、俺に嘘をつくのは罪悪感があったらしい。
そもそもなまえは嘘が下手すぎる。
まだ麗日ら辺と買い物に行かせた方がこっちも納得したが、轟にしたのは足のサイズ的にらしい。くだらねぇ。人選ミスだろ。
ほんと人選ミスだろーが…。クソ。
「…他のヤツの隣になんかいんじゃねぇよ。笑ってんなボケ」
「勝己くん…?」
「なまえのことになると余裕なくなる…くっそだせぇ」
抱きしめた腕の中でなまえが控えめに笑ってるのがわかる。
「なんだよ」と不満を口にすると「あ、ごめんね」と笑ったことを謝って来た。
「勝己くんはダサくないよ。いつもかっこいい」
「…そうかよ」
「うん、そうだよ」
背中に回されたなまえの腕の力が強くなる。
嫉妬したり、大事にしてぇと思ったり、他に渡したくねぇと思うのはなまえだからだ。
自分の知らねぇ感情が引き出されてく。
「でもそっかぁ!勝己くんヤキモチ妬いてくれてたんだねぇ!」
「どこをどう見たらヤキモチになんだ!?ああ!?妬くわけねぇだろ!バカかてめェは!」
体を離して嬉しそうなイタズラな笑顔を見せるなまえに暴言を吐いたのは照れ隠し以外のなんでもねぇ。
こんな強い言葉を吐いてもなまえは笑いながら「そうだよねぇ」とあしらって来やがる。
本当にこいつには適わねぇわ。
「あ、勝己くん」
俺の名前を呼ぶと背伸びをして俺の唇に自分のを重ねてくるが少し位置がズレてる。
一瞬で下手くそだが、こいつを愛しく思うのには十分だ。
「生まれてきてくれて、私と出会って、一緒にいてくれて、ありがとう」
そう優しく微笑むなまえを手放したいと思うわけがねぇ。
最初よりも今の方がずっとなまえを好きだと思う。
こいつからもらったもん全部、倍以上にして返してやる。
「キスすんなら外すんじゃねぇよ、バカがよ」
「今日暴言多くない?」
だから俺に死ぬほど愛される覚悟だけしておけよ、バカなまえ。
Happy Birthday.
2024.04.20.
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