君に贈る花言葉。
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職場の更衣室で帰宅の準備を進める。
時刻は18時を少し回ったところだけれど暑さが和らぐに連れ日没も早くなり、窓からは月明かりが差し込んでいる。
いつもはササッと着替えて終わりだけど今日はこの後大好きな人に会う予定があるので、髪の毛も念入りに整えて、少しだけお化粧もして用意を済ませてから職員室に戻り連絡事項などを確認していく。
「みょうじさん、最近なんか可愛くなったね。何かあった?」
ふと隣から男性の先輩に声をかけられた。
「それセクハラよー」と後ろで女の先輩の声が聞こえて「すいません」と笑いながら答えて、私にも「ごめん」と謝ってきた。
彼も仕事が終わりらしく、鞄を背負って帰る準備が整っている。
2年先輩の彼は去年私が入社した時から親切に気にかけてくれていて、誰にでも優しくて物腰が柔らかい印象だ。
優しい、で、私が最初に思い出すのはひとり。
物腰は柔らかいどころか正反対だけれど、誰よりも優しくて不器用で大好きな人。
「会いたい人に会えたんです」
「へえ、男の人?」
「はい、大好きな人です」
想い人を思い出すと自然と頬が緩んでしまう。
数日前に再会して、私を理解して許してくれた。
今度は何があっても逃げない。一緒に乗り越えると約束した。
ずっとずっと、何年もずっと大好きな人。
話していた先輩も連絡事項などを確認し始めたので、残っている職員に「お先に失礼します、お疲れ様でした」と挨拶をして職員室を出ようとすると先輩も後から出て来たので駅まで一緒に行くことになり、職員玄関で靴を履き替える。
「さっきの会いたかった人ってヒーローとか?」
「…そうです」
「みょうじさんってヒーロー好きなんだ、意外」
「ダイナマイトと烈怒頼雄斗がずっと好きです」
「え!?」
私が口にしたヒーローの名前が意外だったらしく、先輩は目を見開いて驚いている。
だって勝己くんと切島くんだもん。大好きに決まってる。
2人ともまだ若手だけど実力派で人気も急上昇中。
知らない人は少ないと思う。
玄関を出て階段を降りながら駐車場を抜けていくとまだ仕事中の職員の車が数台残っている。
「みょうじさんの好きな男ってそういう系なんだ…」
「なんですか? 」
「あ、いや、意外なヒーローだったからビックリした」
「だってこの前のヴィラン退治見ましたか!?すごくかっこよかったんですよ!退治してる時もだけど、助けたあとも」
「おい、なまえ」
突然名前を呼ばれてそちらに視線を送ると車の間から今まさに私が考えていたヒーロー、大・爆・殺・神 ダイナマイトこと爆豪勝己が出て来た。
勝己くんがいるなんて微塵も思ってなかったから嬉しくなって側に駆け寄った。
「びっくりした!なんでここにいるの?」
「迎えに来てやったんだろーが」
「心配しなくても自分で行けたのに。お仕事は?」
「終わった。あとはサイドキックに任せてきた」
「そっか!ありがとう!」
私との会話をそこそこに勝己くんは先輩に視線を移して、先輩のことを置き去りにしてしまっていたことに気付く。
今はヒーロースーツではなく私服を着ているけれど、勝己くんはヒーロー活動中もマスクをしているとはいえ、そこまで顔を隠しているわけではないので気付く人はすぐに気付くと思う。
現に先輩はすぐに勝己くんがダイナマイトだとわかったみたいで驚いた顔をしている。
「行くぞ」
「あ、ちょっと…先輩すみません、お疲れ様ですっ」
勝己くんは鋭く先輩を睨みながら私の腕を掴んで車に乗せようとするので、私はまくし立てるように挨拶をした。
助手席に押し込められて強めにドアを閉められたのでシートベルトを締めながら運転席に回る勝己くんを目で追っていると少し不機嫌そう。
ドカッと運転席に座って準備をする勝己くんをジッと見つめる。
「ンだよ、見てんじゃねーわ」
文句を言いながら車を発進させたので、一度置き去りにした先輩に会釈をしてから運転をする勝己くんに視線を戻すと前を見ながらも私の視線に気付いたみたいだ。
「随分と楽しそうだったなァ」
「ん?」
横顔しか見えないけれど、苦虫を噛み潰したような顔をしてる。
これは本当に不機嫌だ。
「さっきね、ダイナマイトと烈怒頼雄斗の話してたの。2人のすごいところ伝えようと思ったら熱くなっちゃった」
「切島はどうでもいいんだよ、俺のすごさだけ語れや」
「そんなの何時間あっても足りないね!」
「……バカかよ」
あ、照れてる。
前を向いて眉間のシワが寄ったままだけど勝己くんの感情はわかりやすい。
その姿を見て私も笑みがこぼれた。
「んへへ、ヤキモチかぁ」
「気持ちわりぃ笑い方してんじゃねぇわ」
ヤキモチは否定しないんだと思うと少し嬉しくなった。
ああ、ダメだなぁ。
勝己くんと一緒にいれるだけですごく幸せなのに、私は昔よりも欲張りになってしまったみたいだ。
学生の頃は隣から勝己くんの横顔を見ることが多くて、その横顔がかっこよくて好きだった。
大人になって車を運転する勝己くんは体も学生の時よりガッチリしていて、横顔も大人の男性になっていて色気を感じる。
なんか恥ずかしくなってきた。
「人の顔見て百面相してんじゃねぇよ」
「あ、えへ、見とれてました」
「てンめェ…」
ごめんねと謝って窓の外を見るとダイナマイトの事務所に向かう時とは違う道を走っていた。
てっきり事務所に行くものだと思ってたんだけど。
「どこ向かってるの?」
「家」
「家?」
「俺ん家」
「え!」
「あ?」
「あ、え、行っていいの?」
びっくりして変な声が出てしまって恥ずかしい。
今は一人暮らしをしてるって言ってたけど、でも勝己くんは有名人だし、私と一緒にいるところ見られたらマズいんじゃないのかな。
「ダメなら連れて来ねぇわ」
「私といるところ見られたらどうするの?」
「いいだろ別に。付き合ってんだから」
顔が熱くなって身体中の体温が一気に上がるのがわかる。
胸もうるさいくらいに高鳴ってどうにかなってしまいそう。
だけどどうしたってチラついてしまう。
私が犯罪者の娘だとバレてしまったら。
世間から攻撃を受けてしまったら。
勝己くんと再会した時に覚悟を決めたはずなのに、やっぱり邪魔をしてしまうのがやっぱり怖い。
「もう着く」
運転をしながら片手を私の頭に置く。
きっと勝己くんには私が思ってること全部見透かされてるんだろうな。
この人には敵わないと思う。
少しして綺麗に舗装されて木々が植えられた敷地内に入って行き、その中にある駐車場に車を停める。
外に出てマンションを見ると大きな窓ガラスが目を引くオシャレな外観。
「行くぞ」と言われ慌てて後をついて行き、両側に草木が綺麗に植えられた階段を数段上がって自動ドアをくぐりエントランスに入るとそこは高級感があってつい見渡してしまった。
死角になった部分に集合ポストや宅配ボックスが置いてあって高級感のイメージを壊さない作りになってる。
慣れた手つきでオートロックに鍵をかざして解除する勝己くんの後を追ってロビーに入りエレベーターを呼ぶ。
「口空いとるわ、マヌケ面」
「だってホテルみたいなんだもん」
ポケーっとして見てたのを指摘されて恥ずかしくなる。
エレベーターがついて5階のボタンを押す。最上階みたいだ。
5階に到着したことを知らせる機械音が鳴り、勝己くんに続いてエレベーターを降りると一番奥の扉まで歩いていく。
慣れたように鍵を開けて扉を開けると「ん」と入るように促された。
今までホテルみたいだと思っていたけど、勝己くんの部屋に入ると思うと一気に緊張してきた。
男の人の部屋なんて初めて入る。
「お、お邪魔します…」
恐る恐る玄関に入ると勝己くんらしく物は最小限で綺麗に掃除されている。
靴を揃えて脱ぎ、リビングに続く廊下を歩くのも緊張する。
扉を開けると男性の一人暮らしにしては広めのキッチンと整頓されたリビングが視界に広がる。
外から見た大きな窓ガラスだ…なんて思ってると勝己くんがブラインドを閉じた。
「荷物テキトーに置け。洗面所は出て左」
「あ、うん」
「何緊張しとんだ」
「だ、だって男の人の家、初めてで」
勝己くんの匂いでいっぱいなんだもん。そんなの緊張しないわけがない。
ソファの隣に鞄を置いて教えてもらった洗面所に向かうと浴室もあって、そこも綺麗に整頓されている。
本当にキッチリしてるなぁと思いながら手を洗いリビングに戻ると勝己くんがキッチンに立っていた。
「私も手伝うよ、何作るの?」
「手間のかかるモンはこの時間からじゃ作れねぇからな。パスタだな」
「わあ!!勝己くんの手料理だぁ!!」
包丁で野菜を切る音が小気味良く響く。
料理してるところを初めて見たけど、慣れた手つきで無駄のない動き。
わ、料理作ってる顔、かっこいい。
「おい、何しとんだ」
「んー、なんかくっつきたくなっちゃった」
「手伝うんじゃねぇんかよ」
「手伝うー」
勝己くんを見てたら無性にくっつきたくなって、後ろから抱きついた。
ぎゅうっと腕に力を入れてから離れて、「お皿適当に出しちゃうね」と断りを入れて食器棚からお皿を出す。
パスタを作り終わった勝己くんがお皿に盛り付けて、私がそれをテーブルに並べる。
なんだか新婚さんみたい…と思って恥ずかしくなり頭を振っていると「何しとんだ」と怪訝そうな顔をした勝己くんに言われたのを笑って誤魔化した。
2人で座って、揃っていただきますをして、勝己くんが作ってくれたパスタを食べるとお店で食べてるパスタみたいだった。
美味しすぎてあっという間に食べ終わってしまう。
「お店で出せるくらい美味しかった!」と感想を伝えると勝己くんは満足そうに「当たり前だわ」と言っていた。
後片付けも終わらせて、持って来た鞄の中からノートを取り出し、ソファに座っている勝己くんの隣に座ってそれを見せる。
「お母さんがずっと付けてた家計簿なの。当時は知らなかったけど、お父さんとお母さん2人でお金の管理してたみたいで細かく書いてあるの、見てくれる?」
私が手渡した当時の家計簿を勝己くんは真剣な顔で目を通している。
「お父さんが横領したお金は500万だったの。それでね、家計簿見直してもそんなお金どこにもなくて。それが少し引っかかってて」
そう言って勝己くんを見ると珍しく何かを言い淀むように私の顔を横目で見ていて、私はそれに察しがついた。
「あ!不倫はないよ!それは、絶対」
「…なんでそう言いきれんだよ」
「だってお父さん、お母さんのことすごく大好きで大切にしてたもん。ずっと近くで見て来たからわかる。お父さんがお母さん以外の人を好きになるなんてない。だから不倫じゃない」
「どちらにせよ、この家計簿の金の流れで不自然なところはねぇな」
勝己くんから見てもやっぱりそうだ。
家にお金を入れてたとしたら、これだけ細かく家計簿を付けてたお母さんが不思議に思わないわけないんだ。
「この事件を調べてて気になってることがある。横領から逮捕までの期間。横領の被害に気付くのに時間がかかって逮捕までにも期間が空くのが大体だ。だがなまえのオヤジさんの場合、横領してから逮捕までの期間が短ぇ。短すぎる。ンで、警察に協力してもらって会社の防犯カメラも見させてもらった。何かやってます、気付いてくださいって動きしてやがった」
「横領することを気付いてほしかった、ってこと?」
「少なくとも俺や一緒に見てた警察の目にはそう見えた」
どういうこと…?普通犯罪はバレたくないから細心の注意を払って自然に振る舞うはず。
でもお父さんはそうじゃなかった。
横領することを気付いて止めて欲しかった…?
なんで…?
「お父さん、何がしたかったんだろ…」
「それが分かれば話は早ぇが、その金もどこ行ったか足取りが掴めねぇ」
ふぅ…と息を吐く。結局何もわからないままだ。
わかったからと言ってお父さんがやった事がなくなるわけでもないけれど、私は真相が知りたい。
真面目なお父さんがなんでそんなことをしたのか。
何がお父さんをそうさせたのか。
知って、ちゃんと向き合いたい。
「たくさん調べててくれたんだね」
隣に座る勝己くんの肩に頭を預けるとそれだけで心が落ち着く。
「ありがとう、勝己くん」
少し顔を上げて勝己くんにお礼を伝えると勝己くんの顔が近付いてきてキスをした。
高校生の時よりも大人になって、かっこよくて、表情にも色気が出て、そんな大好きな彼とのキスはまだ恥ずかしくなる。
「俺ん家なの忘れとんのか」
「わ、忘れてないよ」
「来てからずっと煽ってくんじゃねぇよ」
「そんなつもりない、けど…」
そんなつもりはなかったけど、勝己くんに触れたいと思った。
外だとどこで誰が見てるかわからないから自制してるけど、誰にも見られてないと思ったら、勝己くんを独り占め出来ると思ったら、触れたい、と思ってしまう。
「けどなんだよ」
「…もっと勝己くんに触れたい、です…」
顔から火が出そう。こんな恥ずかしいこと自分が言うとは思わなかった。
でも私の本心で、私は勝己くんと再会してからすごくワガママで欲張りになってしまった。
勝己くんの反応がないことが不安になって顔を覗き見ようとしたら体が倒れて咄嗟に目をつぶる。
けれど痛くはなくて、勝己くんが体を打たないようにしてくれたのがわかる。
目を開けると私はソファに倒れ込んでいて、勝己くんが私に覆い被さるようにしていて、押し倒されたと理解する。
「か、勝己くん…!」
「我慢してやってたのによ…なまえが煽ったんだからな」
いつもより余裕のなさそうな勝己くんがニヤリと笑って再びキスを落とされる。
強引で、優しくて、甘くて、とろけてしまいそう。
触れるようなキスの後に舌が口内に入って来て、体中がゾクゾクとして、勝己くんから与えられる甘い刺激でいっぱいになって何も考えられなくなる。
何度も何度も角度を変えては降ってくるキスに応えるだけで必死だった。
「なんつー顔しとんだ」
「は…ぁ…だって、」
「そんな顔して誘ってきやがって帰れると思うなよ」
「へ!?あ、だめっ」
いくら口で否定したって勝己くんからの甘い刺激にかなうはずもない。
触れられたところが熱を帯びる。
勝己くんの吐息が熱い。
自分の声じゃないみたいな声が漏れるのが恥ずかしい。
頭も体も何もかも勝己くんでいっぱいになる。
「勝己くん、だいすき…」
「…覚悟出来てんだろーな」
好きな人と一緒にいられる、それがすごく幸せなことだと実感する。
離れていたからこそ、勝己くんが大切で、一緒にいられることは奇跡なんだと思う。
この先、避けては通れない困難があるけれど勝己くんとなら大丈夫だと、乗り越えられると確信してる。
でも今はこの甘くてとろけそうな刺激に身を委ねて、勝己くんの存在をたくさん感じていたい。