君に贈る花言葉。
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大・爆・殺・神 ダイナマイトの事務所の1番奥にある勝己くんの部屋。
この空間の空気は重い。それを作っているのは紛れもない私だ。
勝己くんは私の隣に座り、切島くんは窓際に立ちながら私が6年前に何故姿を消したのか、その話を真剣に聞いてくれていた。
2人はプロヒーローになってすぐに私のこと、と言うよりお父さんのことを調べたらしい。
だから私がなんで姿を消したのかは察しがついていたようだった。
「……で、その後はどうしてたんだよ」
シンとした部屋に勝己くんの声が響く。
住むところがなくなった私とお母さんは家が見つかるまでおばあちゃんちにいた。
でもそこもすぐに出た。
高校にも連絡して適当な理由を付けて退学したけれど、高卒認定試験を受けた。
保育士の資格をどうしても取りたかったから。
勝己くんが私の夢を立派な夢だと言ってくれた。
勝己くんの隣にはいられないけれど、勝己くんが褒めてくれた夢だけは諦めたくなかった。
頑張る勝己くんが大好きだったから、私もそうありたいと思った。
それだけが私の支えで、夢を叶える目標があったから私は折れることなく今までいれたんだと思う。
でも、傷付けてた。
自分は正しい選択をしたと思ってた。
私が隣にいたら犯罪者の娘だと矛先はプロヒーローになった勝己くんに向いていたと思う。
それが1番嫌だった。
せっかく手にした夢なのに私が台無しにしてしまうのが怖かった。
切島くんが私がいなくなったあとの勝己くんは荒れていたと言っていた。
守るつもりだったのに追い詰めてしまったのかもしれない。
「……私は自分のことしか考えてなかったんだ」
自分のかすれた声が聞こえて、声に出してしまったことに気付く。
「そりゃ違うだろ!!」
「そーだな」
慌てて否定してくる切島くんの声を静かで低い勝己くんの声が制す。
私はその声にグッと拳を握った。
文句も罵倒も全部全部、何を言われても仕方ない。
勝己くんにも切島くんにも言う権利がある。
「てめェはなんの相談も無しに全部勝手に決めた」
勝己くんの声はただただ冷静で淡々としていた。
「あん時、俺たちはただの学生で何の力もねぇ。てめェの行動は守りてぇもん守るためには仕方なかったのかもしれねぇ。だけど、そんなに俺は頼りなかったかよ」
「ちがっ!そうじゃない!頼りなかったことなんて一度もない!!」
頼りないどころか、いつも甘えてしまっていた。
でもあの時はそれじゃいけないと思った。
私が甘えて、勝己くんたちに助けを求めたら彼らを巻き込んでしまっていたから。
「悩んだんかよ」
「…悩んだよ」
「苦しかったかよ」
「………うん」
「辛かったかよ 」
「……………うん」
俯いて勝己くんの言葉に答える。
落ち着いてたはずの涙がまたあふれて来て頷くので精一杯だった。
私に泣く資格はないと思う。
だけど勝己くんの落ち着いた声が泣いていいと言ってくれてるみたいだった。
「本当は…っ、ずっと一緒にいたかった…隣にいたかった…勝己くんたちをテレビで見る度に、離れてよかったって思ったけど、っ、会いたくてっ、さよならは嫌だった…」
子供みたいに泣いてしまっていた。
涙の止め方も感情の制御の仕方もわからなかった。
「勝己くん…切島く…ごめんなさい…っ、ごめ…なさい…」
たくさん傷付けて、たくさん心配してくれた二人に頭を下げて謝った。
今さら謝ったって遅いのかもしれない。
隣に座っている勝己くんがわしゃわしゃっと頭を撫でて、そのまま自分の胸に私の頭を引き寄せる。
その手が温かくて、優しくて、もっと涙が出た。
こんな勝手ばかりで突き放した私を許すと言ってくれてるみたいだった。
「てめェのこと探し出して泣かし殺すって決めてた」
「……うん」
「それから、てめェが勝手に決めただけで俺は別れてやったつもりもねぇ」
「………うん」
「てめェも未練タラタラだから未だにそのネックレス付けとんだろ」
「…気付い、てたの?」
「今朝会った時から気付いとったわ。昔から隠し事下手なんだよ」
私と勝己くんを見て切島くんは安心したようにニッと笑っていた。
昔のままの明るい笑顔だ。
「みょうじ!爆豪な、あの時の花まだ持ってんだぜ!」
「おいクソ髪!てめェ余計なこと言ってんじゃねぇ!!」
「あの時の花?」
「スイートピーってやつ?当時のクラスメイトに頼んでドライフラワーにして残ってるぜ!みょうじを助けられなかった戒めってよ!」
「てめェ殺されてぇんか!黙ってろや!!」
スイートピーは私がお別れの手紙と一緒に添えたものだ。
秘密にしていたかったであろうことを切島くんに話されて勝己くんはイライラし始めたけれど切島くんは楽しそうに笑っている。
私を助けられなかった戒め、そうやって勝己くんを知らないうちに追い詰めてしまっていたんだ。
「みょうじ」
切島くんはソファに座る私の前に腰を下ろして優しい声で私の名前を呼んだ。
さっきまでとは違って真剣な顔付きをしている。
私も切島くんの顔をしっかりと見据えた。
「みょうじがいない間も、爆豪をずっと支えてたのはみょうじだったんだぜ。そんでさ、俺も爆豪ももうプロだ。今度は一人で抱えんなよ!」
「うん、ありがとう切島くん」
お礼を伝えると切島くんが満足そうに笑ったので私も釣られて少し笑ってしまった。
そして場の空気を変えるようにパンっと手を打って「よっしゃ!じゃあ俺は帰るぜ!」と立ち上がって部屋の出口に向かって歩き出す。
「切島、ありがとな…」
勝己くんはバツが悪そうな顔をしながらお礼を伝えると切島くんは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに眩しいくらいの笑顔に戻ってガッツポーズをしながら「おうっ!」と返事をして「またなー!」と部屋から出て行った。
切島くんがいなくなった部屋は静かで、何を言ってもいいかわからずこの空気が少し気まずい。
「なまえ」
その空気を破ったのは勝己くんの低くて落ち着いた声。
俯いてた顔を上げて勝己くんの方へ顔を向けるとゴツゴツとした彼の手が頬に触れる。
大好きだった温かくて優しい大きな手は今もあの頃と変わらない。
その温度に引っ込んでた涙がまた溢れ出しそうになる。
「やり方は気に入らねぇが、なまえが俺たちを気遣ったから俺たちは今何事もなくヒーローやれとる。次は俺が守る。何があってもだ、逃げんじゃねぇぞバカなまえ」
「…うん、」
こぼれた涙を勝己くんの指が拭ってくれる。
ああ、やっぱりこの人はすごくすごく優しい人だ。
「俺の気持ちは今も変わってねぇ。あの頃からずっと。好きだ、なまえ」
「勝己くんを好きな気持ちを諦めようとしたけど、出来なかった。ずっとずっとあの頃からずっと、私も勝己くんが大好きです」
そう言って笑うと溜まっていた涙が頬を伝った。
それを見て勝己くんはフッと笑って「ほんっと泣き虫だな」と言いながら額を私の額にくっ付けて来た。
「ンで… てめェはなに人のこと着拒してくれとんだ、ああ!?」
「ん~~痛い!ごめんなひゃい~~!!」
ムギュっと痛いくらいにほっぺを指で挟まれる。
さっきまでと違い勝己くんの顔に青筋が立ってるのがわかる。
今度は痛みで涙が出て来る。手加減してくれてるとはいえ男性の、しかもプロヒーローの力は強すぎる。
「電話も繋がらねぇ、探し回ってもどこにもいねぇ…。心配させとんじゃねぇわ…ボケ」
「…ごめんね。私、勝己くんのこと考えてる気になってたけど、何も考えてなかったよね」
「次はねぇぞ!クソが!!」
「うん、ごめんね。…私…また勝己くんの隣にいても、いいですか…?」
「それ以外許さねぇ。離れたら殺す」
体勢を起こして勝己くんの首に腕を回して抱きしめると勝己くんも私の背中に手を回した。
彼の体温を体で感じる。
「うん…ありがとう…もう、離さないよ、絶対…」
「俺が守ってやるよ、全部。だから心配すんな」
「うん…」
「ダイナマイト!!応援要請です…って、すんません!!!!」
部屋のドアが力いっぱい開けられたと同時に緊張感のあるただならぬ声が聞こえたと思ったら、その声はどんどん小さくなって、そして最初とは違う緊張感と焦りのある声になった。
顔を上げると勝己くんのサイドキックの人が目を泳がせながら赤面してすごい量の汗を流してる。
その姿を見てハッとして、今度は私も顔の温度が上昇する。
「わっ!!これはその、あのっ!!」
「てめェ…人の部屋に入る時ァノックくらいしろやァ…」
「す、すいません!!!!まさか女性に興味無いあのダイナマイトが自室とはいえまさか職場で熱い抱擁の最中とは思わず…」
「ほ…!!」
言い方ぁ!!謝りながらもチクチクとさり気ない攻撃をするところはさすが勝己くんのサイドキックだ。
勝己くんも不機嫌極まりないことを隠そうともしない。
私はハラハラしながら二人を交互に見回す。
「チッ、誰からの応援要請だ」
「チャージズマです」
「あのアホ面あとで殺す」
イライラしながらも冷静に現場の状況や、ヴィランの情報を聞いて確認を取っている勝己くんの姿は紛れもないプロヒーローで、いつもテレビで見てた、大好きなダイナマイトだ。
「すぐ終わらせて来っから、ここいろ。その後送る」
「うん。気を付けてね」
「わーってる」
わしゃわしゃと雑に私の頭を撫でるとサイドキックと一緒に部屋を出て行った。
プロヒーローの仕事は悪者を退治するキラキラ輝いてるかっこいい仕事だ。
だけどいつだって危険がつきまとう命懸けの仕事。
いつもテレビの中継が始まって、そこにダイナマイトの姿があると戦いが終わるまで気が気ではなかった。
もちろんテレビ中継されている仕事が全てではないのはわかってる。
けど、やっぱり彼の姿を見るとどうか無事でいてとテレビから離れられなくなって、戦いが終わると安堵して身体中に酸素が行き渡るのがわかった。
「勝己くんは、すごいなぁ…」
常に人のために危険に身を投じている勝己くんに対して、私は自分のことしか考えてなかった。
勝己くんのために離れることが最善だと思った。
でもきっと、犯罪者の娘だと知られたくないという気持ちもあったんだと思う。
私は逃げただけだった。
あの時、勝己くんの気持ちをちゃんと考えればよかった。
勝己くんは肩書きとか、経歴とか、過去とか、そういうので決める人じゃないことは知っていたのに。
ちゃんと私自身を見てくれていると知っていたのに。
私は遠回りをした。
これから勝己くんと一緒にいたら、今まで避けてきた事が避けられなくなる。
だけどきっと大丈夫。
今度は逃げない。
勝己くんに甘えるんじゃなくて、頼るだけじゃなくて、支えたい。
今度は二人で乗り越えよう。
そう決めたから。